図書紹介
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人間の煩悩
(佐藤愛子著、幻冬舎新書、2016年10月10日発行、第5刷、205ページ、780円+税)

デニマルさん : 12月号

今回の話題は、著者と高齢の著名人が多数出版されている本に触れてみたい。現在のベストセラー本に著者の「九十歳。何がめでたい」(小学館)があり、今回紹介の本は9月に発売された。ここ数年、100歳近い方々が多くの本を出版されている。昨年6月に、ここで紹介した「103歳になってわかったこと」(篠田桃紅著)や、筆者が今年読んだ「百歳までの読書術」(津野海太郎著)、「あら、もう102歳」(金原まさ子著)、「窓から逃げた百歳老人」(Y・ヨナソン著、柳瀬尚紀訳)、「105歳、私の証・あるがまま行く(新聞連載)」(日野原重明著)等々がある。さて著者であるが、「戦いすんで日が暮れて」で直木賞を受賞。その後、父・佐藤紅葉(作家)や異母兄の詩人・サトウハチローや子孫に伝わる佐藤家のルーツを書いた小説「血脈」では、菊池寛賞を受賞している。著者は父親譲りの「憤怒の作家」として知られる一方、波瀾万丈の人生を苦労ともせず、ユ―モア溢れるエッセイを多く書いている。著者は「悩みの糧こそが人間の深さ」と悟りの心境で「煩悩」を説いている。

人間の煩悩 (その1)       ――人生は苦しいのがあたり前――
この本は、著者が書かれた小説やエッセイの中から文章を抜粋して纏めた本である。その纏めを六つの項目に整理している。「人生とは」の章では、著者の持論である「人生は苦しいのがあたり前である」と主張。夫の借金返済の為に原稿を書いていた苦しい時代があったから現在がある。この世の苦しさを乗り越えて学んでいく事に生きる意味がある。苦しいからガムシャラに生きる。それが他人の目には「楽しそう」に見えるだけと断言する。

人間の煩悩 (その2)       ――男には理解できない女の倫理――
「男と女とは」の章では、男の性や女の性から結婚や夫婦のことに至る面を書いている。煩悩は「人間の心身の苦しみを生みだす精神のはたらき。肉体や心の欲望、他者への怒り、仮の実在への執着など」と辞書(大辞林)にある。この章に「浮気の本質」、「男には理解できない女の倫理」、「元気の秘訣は夫婦ゲンカにあり」等を書いている。同じ人間でも男と女、お互いに夫婦になっても考え方や価値観は異なると納得することが脱煩悩だろうか。

人間の煩悩 (その3)       ――先が読めない年寄りの不幸――
「長寿とは」の章に、高齢社会であるが故に「生きるのも大変だが、死ぬのも大変」「老いの時間は死と親しむため」「死ぬ時がくれば人は死ぬ」等、生から死への問題を書いている。中でも、当面の問題は「いかに自然に逆らわずに死んでいけるかということ」といい、一方で「長寿がめでたいのは、心と肉体も枯れきって死ねるからめでたいと私は考えている」と著者らしく潔く書いてあるが、「先が読めない年寄りの不幸」と現実を冷静に見ている。

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