東京P2M研究部会
先号   次号

地方創生としてのスポーツイベント

鎌賀 信吉 : 12月号

 P2M研究会が応援をしているラグビーワールドカップ日本大会2019(RWC2019)は、試合会場(12会場)が日本各地に点在し、開催期間が長い(6週間)といった特徴があります。東京オリ・パラの開催が都内のほか6道県・4政令指定都市、開催期間17日間であることと比較すると際立っています。RWC2019試合会場の地方公共団体やキャンプ候補地へ立候補されている地方公共団体の取り組みは、スポーツイベントを活用した、まさに地方創生の施策として位置づけることができます。
 地方創生の取り組みは、2014年にまち・ひと・しごと創生本部設置以降、国は脱バラマキ、省庁縦割り廃止、地方の自主的な取り組み・民間の創意工夫を支援する姿勢にたち、各地方公共団体が戦略策定に取り組まれています。8月に紹介された先導的な事業(4つの事業分野、38事業)から取り組みの概要を知ることができます。
事業分野1: 地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする
  (事業例) ローカルイノベーション、農林水産業の成長産業化、観光振興
事業分野2: 地方への新しいひとの流れをつくる
  (事業例) 地方移住の支援、「生涯活躍のまち」構想の推進
事業分野3: 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
  (事業例) 働き方改革
事業分野4: 時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する
  (事業例) まちづくり・地域連携、「小さな拠点」の形成(集落生活圏の維持)

 地方創生と名付けられた取り組みは様々なものが実行に移されていますが、その中にはスポーツイベントに関連するものもあります。例えば、スポーツイベントには不可欠な競技場です。競技場は、公共施設であることも多く、郊外に立地され、アクセス・会場周辺のサービス不備により住民による利用率があがらず、施設としての収益性もあがらないという課題は地方公共団体であればどこでも抱えているものです。そこで、商業施設複合・民間活力導入・街なか立地・収益性向上を図る事例がでてきています(アオーレ長岡、セビオアリーナ仙台)。
 ラグビーは競技をするために広い敷地が必要とされるので、郊外立地は避けられない場合もあります。会場までのアクセスを便利にすることは重要な対策ですが、それだけではなく、観戦前後にゆっくり飲食ができる施設、子どもを遊ばせることができる公園、ペットも連れていける設備、さらには競技以外のイベントが可能な施設・サービスを、競技場内外を連携して充実させることができれば、(観戦以外にも)みんなで楽しむことができ、来訪する人の裾野を広げるには有効な施策であるといえます。
 このためには、試合会場・トレーニング施設等は地方公共団体所有のままであっても、設備投資・運営を民間企業に任せることで、地方公共団体の財政負担を軽減するだけなく、継続的な収益性を維持する手法は不可欠です。実際に、教育・文化施設、複合施設(庁舎)、公営住宅、医療・福祉、公園・道の駅、下水道等、公有地活用などでその効果が報告されており、PMS・PMR資格者でも関わられている方は多いのではないかと思います。

 また、イベントの中心になる競技場(ハード)以外にもソフト面での取り組みとしては、参加型のマーケティングがあげられます。大きなスポーツイベントはもともと見るものとして誘致されてきましたが、観戦イベントであっても何らかの形で参加することによって、自分ごと化する取り組みが多く実施されています。大会キャッチフレーズの公募、キッズ(そして大人も)ラグビー体験、ボランティアの募集など様々な工夫を凝らした催しが行われています。
 さらに、地元ゆかりの選手・OBを招待した催し、地元企業・学校のラグビーチームとの交流などを通して、参加者同士のネットワーク さらにはコミュニティーへの愛着を目指されています。

 スポーツイベントには広報・マーケティングから会場整備、大会準備運営さらには国際渉外、警備、テクノロジーまで総合的な仕事が必要で、それらは1地方公共団体だけで対応できる範囲ではありません。代理店・警備保障会社・その他専門業者への委託は不可欠ですが、地方公共団体または組織委員会が推進主体となることが成功の条件としてあげられます。組織としてRWC2019のような国際スポーツイベント管理・運営を経験することで、様々なスキルをもった人材の育成が可能になります。
 試合会場・キャンプ地では、このようにして競技施設・トレーニング施設・宿泊施設・住民の参画・地方公共団体の管理運営能力・企画運営スタッフのスキルなどをイベント本番に向けて整備されていくことになります。しかし、これらのイベント後にも、ボランティア組織・参加者ネットワークによる地域イベント開催、スポーツ施設を活用した住民健康活動、試合・キャンプを行ったナショナルチームとの交流、来訪外国人へのリピート喚起、新たな国際スポーツイベントの誘致など多くの方面に活用することが可能になります。これは、地域に生まれた貴重な資産(レガシー)ともいえるでしょう。

 われわれP2M研究部会も、RWC2019への応援を経験値として、スポーツイベントひいては地方創生に何らかの貢献ができることを目指して研究・活動を行っていければと思っております。
    
以上

【出典】
地方創生推進交付金の交付対象事業の決定(平成28年度第1回)について
  (内閣府地方創生推進事務局)
スポーツを核とした街づくりを担う「スマート・ベニュー®」
 ~地域の交流空間としての多機能複合型施設~
 
(スマート・ベニュー研究会 株式会社日本政策投資銀行 地域企画部)
PPP/PFI事業 事例集 (内閣府民間資金等活用事業推進室)
スポーツイベントによる地域活性化:アウトドアスポーツとスポーツツーリズムの視点から
(早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 原田宗彦)
公営財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 組織図
CLAIR REPORT No.402 2012年ロンドンオリンピック・レガシーの概要
(一般財団法人 自治体国際化協会)

ページトップに戻る