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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~人の心をつかむ英語力~

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 前回は、「人を巻き込む英語表現」を紹介した。今回は、私が日々、英語ネイティブの方々とやり取りをしているメールや会議の場で触れた表現から引用する形で、もう少し広範囲に、「人の心をつかむ英語表現」を取り上げてみたい。
 グローバルに進めているプロジェクトについて、関係者が一堂に会して議論していた時のこと。組織によっては、優先順位が下がりかねないけれど、会社としては大事なプロジェクトを進めるために、皆からの協力を要請したプロジェクトリーダーに対し、アメリカ人の方が、力強く、こう言った。“We are all behind you 100%.” (私達は全員、あなたを100%、支持しています。)Behind youは、「あなたの後ろにいる」、という意味だ。それが転じて、「支援する」、という意味に、ここではなっている。他の人達のこともひっくるめて、こう言い切れるのはすごい、素直にそう思った。我々日本人だと、なかなかここまで断言できない。自分が支援していることすら、「恰好つけて。」そう思われてしまうのを避ける気持ちが働いてしまい、表明できない人が多いのではないか。ましてや、「全員」と言い切ることなんて、支援にあまり積極的でない人達がいるかもしれないリスクを考えると到底できないのではないか。しかし、彼は言い切った。そして言い切ることで、周りを「支援」という流れに惹きこんでいった。“We are all behind you 100%.”そう言ってもらえたプロジェクトリーダーも、大いに勇気づけられたことだろう。
 その会議の場で、別のアメリカ人は、「支援」を一歩進めて、こんな発言をした”Let us find ways to be supportive to you in a better way.” (より良い方法であなたを支援できるような方法を考えましょう。)”We ask you to challenge us.”正確な意味はわからないが、ニュアンス的には、「私達がもっと支援するよう、努力しているか、問うてください。」といった感じだろう。これも、私の日本的発想にはない表現で、「格好いい!」と思った。こんな表現をさらりと言えるようになったら、自分が一段とレベルアップするような気がする。もちろん、相手から問われなくても、「自分で考える」ことのほうがいいのでは?と思う人もいるだろう。でも、この発言をした彼の場合は、「自分達もベストは尽くす。でも、それでもまだプロジェクトで目指していることに対して不十分であるなら、その時は遠慮せず、言って欲しい。その時は、他の施策との優先順位を考えて対応する」と言った思いがあったのではないか。
 ある取り組みの重要性を語る際に、“couldn't be more important”(より重要なことはない)という表現を使っていた人もいた。私の表現集の中には、”very important”や”extremely important”や”the most important thing”(最も重要なこと)ぐらいしかなかったので、これから機会があったら、使ってみたい、と思った表現だった。
 誰かの発言に同意する際に、”I would echo what he said.”という表現があることも、今回知った。エコー、つまり、共鳴、そのまま繰り返す といった意味のようだ。”I agree with what he said.”(彼が言ったことに同意します)と単に言うより、echoの方が共鳴しているイメージが脳裏に浮かびやすい。
 もう少し軽いところで、最近目にした表現。”looking forward to more adventures with you and your team.” (あなたとあなたのチームの人達と、より多くの冒険ができることを楽しみにしています。)半年間続く研修の前半部分を10月に、海外で一緒にやった研修会社のファシリテーターがメールで送ってきたもの。仕事なのだけれど、それを「冒険」と捉えることで、モチベーションも上がるし、ワクワク感も増す。「人が学ぶためには、楽しめる場を創ることが大事」という私の信念にも近いものとも合っているので、すっと、心に入ってきた。私は研修講師をよくやるのだが、受講生のアンケートで、「楽しく学ぶことができました」と書かれることが多い。先日、「講師の方が、楽しそうに教えていたのが、印象的でした」というコメントを始めてもらった。そういうふうに思ってもらえるのは光栄!自分の気持ちってこうやって伝わるんだ。だから、今度2月にやる研修の後半部分も、研修会社のファシリテーターの方と、受講生の方々にとっても、楽しい「冒険」となるように、自分の気持ちを持っていきたい。
 ワクワク感を増す表現をもう一つ紹介しておこう。”The best is yet to come.” ある団体が、自分達の活動について紹介したメールの最後に書かれていたものだ。「最高なことはまだ来ていない」といった意味になる。「これからもっといいことが起きるよ!」という期待感を高める表現。これも、「うまいこと言うな」と思った。この表現なら、自分も何かの際に使えそう。どの機会に使おうかな、多発すると、インパクトが薄れるから、狙って使ってみたい。英語力を増す秘訣。それは、学んだ表現を使ってみること。英語指導をする際に皆に伝えていることを私も実践していきたい。

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