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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~人を巻き込む英語力~

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 このところ、2つの大きなグローバル・プロジェクトを通じて、海外の人達とのやり取りが増えている。一つは、国内外から人を集めた研修を企画するプロジェクト。研修会社や各国の人材育成担当者や研修生と連絡を取り合っている。もう一つは、国内外の社員に対して、意識調査を行うプロジェクト。各国の意識調査の担当者と進め方等について電話会議をしたり、メールを送りあったりしている。
 コミュニケーションを取っている中で、とても感じがいいと思える人と、そうでない人の差に、以前より気づくようになった。私自身がコミュニケーションについて指導していることもあるからだろう。今号では、英語力の観点から、その差を見てみたい。
 まずは、グローバル・リーダーシップ研修の中で用いている360度サーベイに回答する際のメールを例に挙げてみる。部下、同僚、上司から「コンピテンシー=行動に結びつく能力」について、定量的、かつ定性的にフィードバックをもらうというサーベイで、回答するには、それなりに時間がかかる。研修生に、回答者を選んでもらい、その人達に事務局から回答への依頼をしている。何も書かずにファイルだけ送付してくる人は、感じが悪いな、と思ってしまう。大半の人は、「ファイルを添付しています」という簡単な言葉とともに送付してくる。こういった回答は、こちらもニュートラルな気持ちで受け取る。私自身も、こういう形で回答することがほとんどだ。しかしその中で、ごく少数の人だが、Thank you for this opportunity.(この機会を[与えていただき]ありがとうございます。)や、Thank you for providing her with this valuable opportunity.(この価値ある機会を彼女に(参加者に)与えていただき、ありがとうございます。)と書いてくる人達がいる。こう書かれたメールを読むと、「すごい人だな。こういうふうに物事を捉えることができるって素敵だな。何かあったらぜひ協力したい」と、心温まる気分になれた。そして、それだけでなく、同様な機会があったら、こう一言を書き添えたいと思わせてくれた。
 10月下旬に、この研修を欧州で実施した。研修会場となっているホテルに到着し、ホテルのレストランでPMOのメンバーで食事をしていたら、声をかけてきた人達がいた。「今回のプロジェクトの関係者ですか?」そうだと言うと、我々一人ひとりに手を差出し、We are so excited about this program.(今回のプログラムに(参加できることに)とてもワクワクしています)と口々に言ってくれた。そう言われた時、昨年秋から時間をかけて、時には早朝そして夜間の電話会議をこなし、準備してきたことが報われた気がした。
 何かの情報を共有した際、Thanks for sharing Taeko ? looks great.(共有してくれてありがとう。とってもいい感じ)というメールを送ってくれる人もいる。こう言われると、次も有益な情報があれば、共有しようという気になる。
 依頼事をした際に、We are happy to help!(お役に立てて嬉しいです)と言ってくれると、ほっと一安心する。先日障がい者の方々を採用している特例子会社に行く機会があった。その際に、そこの会社の方から、「お願いされやすい人になってください。」というメッセージをいただいた。障がい者の方々が何か支援が必要になった時、いかに心の負担を感じさせずに、支援を要請してもらえるか。障がい者が相手の時だけでない。忙しいと、「忙しいオーラ」を体中から発して、PCに向かっている人が、私を含めて多い。だからこそ、Happy to help!と、にこっと笑って言えたり、Any questions, please do reach out.(質問があれば、どうぞ、連絡してください。)というスタンスでいられたりできたらいい。
 職場で新しいツールを導入するにあたり、米国の同僚に調査を依頼した。Many thanks for my opportunity to provide input into(~について情報を提供する機会を私に与えてくれて、ありがとう)I am glad to continue to be part of the process. (喜んで、このプロセスに関与し続けます。)と言ってくれた。彼は、私がリードするプロジェクトで電話会議をやったりした後にも、Thank you for your leadership. (あなたのリーダーシップに感謝します。)といったような素敵な褒め言葉を、惜しみなく贈ってくれる。人をいかに動機づけたらいいのかを、よく理解している。
 グッとくる紹介をする人もいる。知人の上司は、メール上で人を紹介する際に、件名に、Introducing two great leaders(二人の素晴らしいリーダーを紹介)という表現を入れている。また、私がある人をメールベースで紹介された際には、She has been the lead on our internal programs and is more than capable to represent our voice and manage our participants in the program. (彼女は私たちの内部プログラムをリードしてきており、そのプログラムに関して、私たちの声を代表し、私たちの参加者をマネージすることが十二分にできます。)こう上司に言われたら、嬉しいに違いない。
 日常のやり取りの中から、相手を巻き込む英語表現を引き続き集めて、また、この場で共有したい。

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