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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~やり切る力~

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 “I can and I will.”(私はできるし、それをやる)何号か前の雑誌TIMEで知り、私の心をぐっとつかんだフレーズだ。兄弟全員が優れた成績と、仕事上での高いパフォーマンスを達成している移民の家族数組を紹介していた記事の中で見つけた。ある家族の父親が、幼い子供たちを寝かしつける際に繰り返し語りかけたのが、このフレーズだ。そして、毎朝起きる際に、”Today is going to be a great day. I can and I will.”(今日は素晴らしい一日になる。私はできるし、それをやる)と、元気一杯言うのが、子供たちの習慣だったという。どんなに天気が悪くても、大変な一日だったとしても。
 研修の世界でも、同様なフレーズを聞いたことがある。あるスキルを研修で学んだ最後に、“Can you use it?”(使うことができるか?)、そして、”Will you use it?”(使うか?使う意思があるか?)と聞くのだ。研修の最後に、“Can you use it?”と聞くことは、一般的だ。しかし、それだけでは不十分だということらしい。そのスキルを使おうという意思が本人にないと、慣れ親しんだやり方に戻ってしまうことはよくある。その方が楽だし、そのスキルを使うことについて、周りの賛同を得られないことも多い。だから、”Will you use it?”まで聞いて、「私はこれを使うんだ」という意思を確認することで、実践する確率が高まる。
 8年前、オバマ大統領が大統領選挙で使っていたフレーズ、”Yes, we can.”これも、Yesがあることで、自信を持てるし、勢いがつくので好きなフレーズだが、 “I can and I will.”の方が、より実行につながる気がする。この言葉を意識することで、何かを実践している周りの人のことがより見えるようになり、また、私自身も、以前よりできることが増えてきた。
 先日、元PMAJ理事長の田中さんと一緒に、岡山県立大学で、PM実践論セミナーの講義をする機会に恵まれた。このセミナーのユニークな点は、日本人の受講生に対して、英語と日本語をまぜて指導をする点だ。普段英語に接する機会が少ない学生に、英語に触れてもらい、刺激を与えることと、英語力の向上を目指している。セミナーの中で、田中さんが作成されたテンプレートを用いて、6人程度のグループに分かれて、仮想プロジェクトを構想し、発表するという演習がある。ミッション、現状とあるべき姿のギャップ、戦略、ステークホルダーの関係性、システム図、WBS等を描くもので、大学院生であっても、難易度は高い。しかも、簡単な説明を聞いただけで取り組むので、私が彼らだったら、「できない」と思ってしまっただろう。しかし彼らは、見事に成し遂げた。セミナー3日目の午後からスタートし、翌日3時から発表というタイトなスケジュールの中、夜11時半頃まで残って、翌朝は8時から再開していたグループもいた。夜遅くまで熱心に議論し資料作りに励む彼らを見ていた時、私の脳裏に浮かんでいたのが、“We can and we will.” (私達はできるし、それをやる)だった。もう一点、彼らにとってチャレンジングだったのは、冒頭提案の要旨を1分で英語で述べる、というものだった。英語が必ずしも得意ではない彼らにとって、これは楽ではなかったはず。私が彼らだったら言っていただろう。「え~。それは無理です」は、言わなかったし、表情にも出さなかった。そして、各グループとも、堂々と、英語で語った。“We can and we will.”この精神があれば、彼らはこれからも、いろんなチャレンジをしていけるだろう。
 私自身も、“I can and I will.”を実践している。9月のPMAJシンポジウムでのDr. Chang Wook Kangの講演とQ&Aの通訳もその一つだ。依頼を受けるととにかく嬉しいので、今年も引き受けた。しかし、すぐに、後悔し始めた。「なんでこの忙しいのに引き受けちゃったんだろう、、、」資料がたくさんあったこと、そして、昨年Q&Aの通訳が上手くいかなかったことを思い出したからだ。だから、自分に言い聞かせた。“I can and I will.”引き受けたからには、ベストを尽くす責任がある。これまでも随分たくさん通訳をやってきたじゃないか。英語にも日々接している。だからできるし、やるんだ。上手くできるような手段を考えればいい。プレゼンテーションの部分は、事前に準備をし、Dr. Kangとすり合わせる時間を持つことで、対応しよう。Q&Aは、質問する方に、通訳しやすいように短文で話してもらうようにすればいい。実際は、短文ではなかなか話していただけなかったが、私の脳もフル回転をしたのか、講演者と聴衆に理解してもらえるレベルにはできたと思う。Dr. Kangにも満足していただけたし、その後の懇親会で、日本語と英語を理解するインドネシアの方から、「完璧でした」と言ってもらえて、嬉しかった。
 あなたがもしプロジェクトマネジャーの立場にあるなら、メンバー全員に一度聞いてみるのもいいかもしれない。プロジェクトと個々のタスクに対して、”Can we do it? Will we do it?”Yes.と言ってもらえることが、プロジェクトの成功のカギを握るのだと思う。

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