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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~結果につながる関係性を構築する力~

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 私の中でのここ一ヶ月のホットトピックは、関係性。きっかけとなったのは、リオオリンピック。テレビや新聞で報道された選手達一人ひとりの活躍や無念。その裏にあるストーリー。一人だけでオリンピックの舞台までたどり着けた人はいなかった。それぞれに、一緒に戦う仲間や、支えてくれる家族や友人や同僚や恩師がいた。人との関係性が力になっていた。
 陸上男子400メートルリレーの銀メダル。 100メートルを9秒台で走れるランナーは1人もいなかったにもかかわらず、快挙を成し遂げた鍵となったのは、バトンを受け渡す際の上手さ。彼らは、3月から合宿をして関係性を構築した。帰国後のニュースでケンブリッジが発言していた。「銀メダルを取ってからチームで一緒に行動をすることが増え、チーム力が増した」と。チーム力の大事さを実感したからこその発言なのだろう。それ以外にも、バドミントンのタカマツペア、男子体操、男女の卓球、シンクロナイズドスイミング、男子競泳リレーなどなど、チーム力の強さで良い結果を出した選手達がいた。
 個人で競技をした選手も、人との関係性が力になっていた。6位に終わった昨年8月の世界選手権の後、「本来応援したい姿ではない」と、スポンサー企業の担当者から厳しい言葉で伝えられ、「情けないレースをしてしまって申し訳ない」と泣きながらわびた金藤選手は。リオオリンピック女子200メートル平泳ぎで、見事、金メダルを獲得した。(2016/8/13 日経記事)真に誰かを支えるためには、いつも優しい言葉で褒めるだけではいけない、時には直球で、厳しい言葉を投げかけ、相手の心に火をつけることも必要なのだと知った。
 どれだけスキルや能力があっても、一緒に仕事をする人との関係性が上手くいかないと力が発揮できない。私の持ち場である、仕事の場でも、このことを日々感じている。つい最近読んだ本、『メンバーの才能を開花させる技法』にもこのことが書かれている。豊富なインタビューに基づき、著者は、メンバーの知性と能力を解放し最高の力を引き出す増幅型リーダーと、その反対に、人々の力を弱める消耗型リーダーがいると結論づけている。そしてそれぞれの資質を整理し、増幅型リーダーの資質をどう発揮すればいいか、紹介している。例えば、自分の知識を見せびらかすのではなく、良い質問を投げかけることで、メンバーに考えさせる。恐怖政治をしくのではなく、前向きになれるようなプレッシャーを与えるなどなど。私も以前、失敗を恐れ、びくびくしながら仕事をしていたことがあった。そんな時には、高いパフォーマンスが出ることはなかった。むしろ、余計にミスを起こすようになっていた。会社に行くのが苦痛だった。それよりも、金藤選手が得たような、前向きになれるようなプレッシャーがあった時には、結果を出すことができてきた。
 同著には、増幅型リーダーの資質を身につけるための、具体的ですぐ実践できるノウハウも書かれている。例えば。しゃべりすぎる傾向があるリーダーには、会議の前にチップを5枚渡し、色に応じてそれぞれ15秒や30秒など、話せる時間を決めておく。リーダーは、手渡されたチップの数分だけしか話すことができない。強制的に制限するのだ。頭ではわかっていても、なかなか実践できないことに対して、こういった単純ですぐできるものは効果的だ。
 プロジェクトで考えてみても、同じことが言える。プロジェクトリーダーとして、メンバーとの関係性をどう構築していくのか。上手くいくと、プロジェクトチームとしての生産性をぐっと上げることができる。人数以上の生産性を上げることも可能だ。また、リーダーでなくても、メンバーとしてでも、ポジティブな影響を関係性に与えることはできる。私の職場には、早朝通路を歩く際に、大声で「おはようございます」と声をかける人がいる。始めて見かけた時、正直びっくりした。話をしたことも無い人に声をかけていたからだ。毎朝その光景を見ている同僚は、「あの人に賞をあげたいと言っていたくらいだ」と言っている。知らない人に対してこんなふうに声をかけることと比較すると、チームメンバーに声をかけるハードルは低い。
 私は今、様々な国にいる人財育成の担当者と、次世代リーダーを目指す人財を育成するための研修プログラムを企画している。良い関係性の構築は、容易ではないことを実践の場を通じて痛感している。時差、言葉の壁に加えて、文化の違いもある。ほとんど引き継ぎをしない状態で誰かが突然辞めてしまったこともある。そんな時、「なぜ私が、一から教えなきゃいけないんだ」と思うこともある。でも、「プロジェクトを成功させるために何をしないといけないのか」その目的に立ち返り、丁寧に対応することをやってきた。
 さて、あなたのチームの関係性はいかがでしょうか。それをより良いものにするためには、何をすれば、良いでしょうか?

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