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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~コンフォートゾーンから抜け出す力~

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 今年の夏は、私にとって、記憶に残る夏になりそうだ。それは、コンフォートゾーン(居心地のいい場所」)を抜け出す経験をしたから。コンフォートゾーンにいる限りにおいては、自分が持っているスキルやノウハウなどで、比較的楽に対応できる。そのかわりに、成長もあまりしないと言われている。私にとってのコンフォートゾーンは、ビジネスパーソン向けの研修の領域だ。学生から幅広い年代層の社会人まで、数多くの研修の講師役をこなしてきたので、新しい研修であっても、やれる自信がある。これらの研修では、部屋の準備も含めて、私は運営面には携わっていない。自分の得意分野に特化して、研修をやってくることができた。
 そのコンフォートゾーンから抜け出して、私がやったこと。それは、2016夏、すごい!読書感想文教室の先生役だ。私の日々の生活の中で、小学生との接点はほぼ0だ。マンションのエレベーターの中で、子供と一緒になったりするぐらいしかない。小学生を教えたのは、学生時代に家庭教師をした以来だ。それ以外で小学生との接点を持ったのは、姪っ子と甥っ子が小さかった頃、十数年前のことになる。
 だから、方眼ノートの指導者の高橋さんから、「方眼ノートの活動の一つとして親子向けの作文教室をしよう!」という話が出た当初は、私には関係のない話として、流していた。しかし、高橋さんのメッセージを聞いて、参加してみようと思った そこに、社会的意義を強く感じたから。そして、昔作文が苦手だった自分のような子供たちを減らしたいという高橋さんの熱い思いに共感したから。さらに、コミュニケーションの大事さを私が日々、感じているから。
 こうして、私は、コンフォートゾーンを抜け出した。そこから始まっためまぐるしい日々。参加表明をしたのが遅かったこともあり、短い納期で複数のこと―プロフィール作り、顔写真の送付、会場決めと申込用のサイト作り―をやらなければならなかった。会場決めと申込用のサイト作りは、戸惑いがあった。どこに、どんな会場が、いくらの値段で提供されているのか、何人の参加申し込みがあるか分からない状態で、どれぐらいのサイズの教室を確保すればいいのか。以前仕事で使っていた会場を調べてみたら、個人で使うには、値段が高過ぎた。ネットで調べてみても、適切なものがなく、途方に暮れていた。しかし、必死に探していたら、答えは見つかるものだ。これまで何百回となく通ったことがある商店街で、ある看板が目に入った。品川宿交流館。寺子屋的な発想で行う今回の目的にふさわしい場所が見つかった。申込用のサイト作りは、IT 作業が得意でない私には、荷が重かった。悩んでいたが、トレーナー仲間が、簡単に申し込みページが作れるサイトを紹介してくれ、既に作成していた人のサイトの表現も活用させてくれた。
 集客にも、自信がなかった。ターゲット層である親子の知り合いがほとんどいないからだ。しかし、ふたをあけてみると、教室はほぼ満席になった。ソーシャルメディアと、口コミの相乗効果だった。今回トレーナー全員の顔写真と、各教室への申し込みができるサイトを用意して、それを各自が facebook で共有する形を取った。それを見て、私の事を知らない人が参加してくれた。一人のお母さんが、お友達3人を誘ってきてくれた。
 中学生男子1名、小4男子1名、小3男子2名、小3女子4名の参加を得て、開催した。大人を教えるより、準備をたくさんした。それでも、子供たちの集中力が続かなかったり、質問しても「わからな~い」と言われたりして、大人を教えるようにはいかず、改善の余地はいろいろあった。しかし、「本講座に参加して、お子さんが、読書感想文を書けそう!と思ったか?」とのアンケートの問いに、全員がYes回答。「自分の思ったことや感じたことをわかりやすく抜粋しながら書き出したので、最初からすらすらすすんだ。」という声があった。「本講座を誰かに薦めたいと思いますか?」との問いにも、全員がYes回答。「3時間いらいらせず、子供の宿題にじっくり付き合える時間は有意義でした!」という声があった。
 充実感たっぷりの1日になった。始めてのトライだったけれど、なんとか成功できた理由。それは、トレーナー仲間からの知恵を借りることができたこと。そして、目的に賛同してくれて力を貸してくれた知り合いがいたから。コンフォートゾーンから抜け出すことは楽ではない。しかし、無茶な抜け出し方ではなく、自分の努力に加えてサポートを得ることができる環境であれば、抜け出すことで、自分ができる領域が増える。今回は普段接することがない親子とじっくり3時間向き合ったことで、新しい物の捉え方も得ることができた。来年も開催してみよう!
 皆さんも、コンフォートゾーンから抜け出してみませんか?

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