理事長コーナー
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研究開発における強い組織つくりのヒント

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :10月号

 PMAJの会員活動の一つにSIG(Special Interest Group)という自主研究会がある。会員であれば何方でも参加できる。この数年、活動の成果を上げているのは、IT-SIGとビジネスイノベーションSIGがあるが、最近では、Women’s SIGとR&D SIG の活動が活発化している。ここでは、R&D SIGを取り上げ、その中間成果から「強いR&D組織」を考えてみる。このR&D SIGは、一昨年の秋に大手製造業に勤める会員から提案があった。製造業の研究開発の成功確率を少しでもあげる研究を、他社の方と始めたいとして開始された。PMAJ恒例の秋のPMシンポジウムにて、既に2回中間報告をしている。この成果に注目したある出版社から出版の申し出があった。苦境を伝えられる出版業界で注目される内容であるということはPMAJにとって喜ばしいことである。

 研究開発(R&D)では、製品が売れ出すまでのプロセス進展の途中に「摩の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれる3つの特徴の違う障害があることが知られている。R&D SIGの研究対象は、第一段階として、まず製造業とした。しかし、討議を進めるにつれて、研究開発を成功に導くためには、この3つの障害の克服の仕方を幾つかのカテゴリーに分けることが必要であるとした。まず、規模により大手製造業と中堅・中小製造業に分けたが、不十分であった。規模に加えて、市場の変化の速度も分類に加えた。製品のプロダクトサイクルがスマホのように数か月の製品から、一度市場に出したら数年単位でも市場価値の変わらない重工業製品があるからだ。環境変化から受ける市場価値の変動の問題である。

 分類された製品ごとに研究開発の進め方にパターンがあると考えた。技術シーズをもとに研究し、開発し、製品化した後に市場競争に勝つという、上流から下流に一方向に順序を踏む方法もあれば、最終的に売れると推測できる製品から遡って現在何をすべきか対処する方法もある。また、その中間的な方法も考えられるとして、最終段階に入っている。

 さて、R&Dプロセスの究極の目標には何らかのイノベーションを伴うことが期待されている。このイノベーションは、「強い組織」と呼ばれるものから生まれるとしたら、R&Dの観点からは強い組織とはいかに作るべきであろうか。一般に組織とは上位下達の縦型組織であるが、採用する技術が複雑になるにつれ、専門家が増えることは避けられない。すべての縦型組織の中に期待するすべての専門家を包含することは不可能である。これをカバーするのがオープンソースを含めた横串組織である。どちらが優れているとは言えない。それではどのように縦・横のバランスをとるべきであろうか。経営学者の野中郁次郎先生が書かれた「アメリカ海兵隊」(中公新書)にそのヒントがあった。

 「『過去の成功体験への過剰適応』は、新たな環境の変化には適応できなくなる。(「失敗の本質」より)自己革新組織は、自主的に新たな知識を創造しながら、既存の知識の部分的な棄却、再構築をして自らの知識体系を革新してゆくのである。この意味で知識創造こそが組織の自己革新の本質なのであり、新たな知の創造なくして組織の自己革新はありえない」とまずある。

 米国海兵隊は、1775年に英軍を模して創設された。しかし、海軍でもなく陸軍でもない中途半端な機能とされて幾度か廃軍の危機に立たされたが、幾度かの困難を乗り越えて、現在はエリート集団へと成長した。それは、「自己改革組織」になったからであると結論つけている。その自己改革組織の要件を6つ挙げている。

 「1) 自己組織の使命の明確化-組織の使命と戦略を構成する第一の要素は自らの生存領域、ドメインの定義である。2) 独自能力の有機的集中を可能とする機能配置、資源配分のデザイン-組織のもっている資源(ヒト、モノ、カネ、知識、情報)は、これらの機能で捉えることができる。組織の独自能力の基本は、そのような機能の配置である(configuration)。お互いに影響しあって全体として統一体になるように行動できる関係、すなわち、有機的関係を創ることである。3) 「分化」と「統合」の極大化の組織-不確実な環境に適応する企業組織は、「分化」と「統合」のバランスを巧みにとっているという。安定的な環境に直面している企業は主に官僚的・機械的な統合機構で、不安定な環境に直面している企業はタスクフォース、チーム、マトリクスといった、より有機的な統合機構で「分化」に対処しており、組織のリーダーがその適切な方を選んで推進している。4) 中核技能の学習と共有-訓練を一緒に受けた同期生では、言葉を超えた強い絆が生まれる。5) 人間=機械系によるインテリジェンス・システム-不確実性の中でも、敵についての情報が味方の計画や行動と比較できるものにする。6) 存在価値の体化-組織が独自の組織として存在する価値がある真・善・美といった普遍的な価値を存在価値、中核価値(コアバリュー)を、相互信頼をもとに築くことである」。

 さあ、少し長くなったが、この6つの要件が強い組織、「自己改革組織」をつくるヒントとなるであろうか。プロジェクトマネジメントの観点からすると3) がポイントであろう。R&D SIG の方々の討議に期待したい。

以 上

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