PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(103)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :10月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
③優れた発想は、「理性と感性」の同時同質の発揮で生まれる一方、「自由発想」が活性化され、更なる効果が生まれる。


●魚PJT
 淡水魚は、海水魚に比べて体が小さく、色もカラフルではなく、魅力、迫力に欠けることが難点であった。しかし地球大陸移動の一大激変の歴史を展示すること、淡水魚の祖先が現在の淡水魚に進化する歴史を絡ませる事などよって淡水魚の魅力の欠点を補えると考えた。

 この地球史、遺伝子学、海洋学など様々な学問的研究成果を本水族館に導入すると云う所謂「理性的発想」は、淡水魚を展示する水族館全体の魅力を高め、恐らく世界でも初めての試みで集客に大きく貢献すると確信した。しかも世界の5大陸から珍しい魚を集めて展示しても、地球史などの裏付けがあるので「単なる見世物」にはならない。

 更に「エンタテイメントの要素」をふんだんにとり入れるべく、面白さ、楽しさ、怖さなどの「感性」に訴える展示を考えた。そして理性と感性の同時同質の発揮作業を行った。


 感性に訴える作業を具体的に言えば、南アメリカ大陸で人や牛を食い殺す「ピラニア」、オーストラリア大陸で「肺で呼吸する魚」、ユーラシア大陸でメコン河の「巨大ナマズ」などを導入することであった。

 この理性・感性の同時・同質作業は、県職員と関係する企業の社員を振るい立たせ、楽しく、面白く仕事を進める職場環境を生んだ。

出典: 左:ピラニア 右:肺魚 Yahoo USA Wikipedia
出典: 左:ピラニア 右:肺魚 Yahoo USA Wikipedia

●昭和PJT
(1)基本コンセプトの発見

 既述の通り、昭和村の計画地は岐阜県全体の地形に似ていた。この発見を活用することで「昭和時代」の最大エポックである「太平洋戦争」の具現化を避ける事が出来た。更に地形が似ている事から岐阜県全体を昭和村にはめ込めばよいと云う発想に繋がった。

 その結果、太平洋戦争が終結した日本が戦後の復興と発展を遂げる輝かしい時代、即ち岐阜県の戦後の大発展の良き時代と今も残る岐阜の伝統などを散りばめつつ、昭和発展時代を物理的に表現すればよい事になった。岐阜県をそのまま計画地に投影できるため、次々とアイデアが浮かんだ。

(2)昭和村の南ゾーン
出典:昔の柳ケ瀬 岐阜県庁資料 出典:昔の柳ケ瀬
岐阜県庁資料

 昭和村の計画地の入り口は南ゾーンに作る。この南ゾーンでは岐阜県の南地域に位置する「岐阜市」の発展した時代を具現化する。誰もが知っている美川憲一の「柳ケ瀬ブルース」で有名な柳ケ瀬の繁華街が最高に栄えた時代を再現する。キャバレー、飲み屋、ストリップ小屋などを作る。梶原前岐阜県知事に「ストリップ小屋を作りますよ」言って、お互いに顔を見わせて大笑いした。戦後の時代考証、伝統の研究などの「理性的発想」とエンタテイメントの導入という「感性的発想」を同時同質に発揮した事は言うまでもない。

(3)昭和村の中央ゾーン
 昭和村の計画地・中央ゾーンでは岐阜県の中央地域の田園地帯を具現化する。昔ながらの古民家を再現または移築する。伝統工芸品の店の再現などを計画した。

出典:今に残る古民家 岐阜県庁資料 出典:今に残る古民家
岐阜県庁資料

(4)北ゾーン
 昭和村の計画地の北ゾーンでは岐阜県の山岳地を具現化する。ここに筆者のテーマパークの経験を生かす計画を導入した。そこには山の木の集積所、製材所などの山林事業の建物を作り、その中や周辺に木製のジェットコースター、木製の遊戯施設を導入し、山林の雰囲気に溶け込ませる計画である。

出典:大分城島公園の木製ジェットコースター マイナビ・ニュース 出典:大分城島公園の
木製ジェットコースター
マイナビ・ニュース

 北ゾーンは計画地のもっと奥まった箇所である。この箇所に最も魅力があり、集客力のある施設を配置するのは、テーマパーク成功の方程式の1つをここに生かしたためである。

 客は施設内の最も魅力のある箇所に必ず来る。従って一番奥まった箇所、言い換えると出口から最も遠いところに顧客を集めて置けば、それだけ客の施設内の滞留時間が増える。それだけ消費機会が増えるという戦術である。しかも入口は南ゾーンに1か所しか作らない。客に失礼であるが、ネズミ採りの様に捕まえたネズミを檻から簡単に逃がさない戦術である。

つづく

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