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小説 君の名は。
(新海 誠著、角川文庫、2016年6月25日発行、初版、262ページ、560円+税)

デニマルさん : 10月号

この本を手にした時、筆者が記憶している「君の名は」と全く違っていたことに驚いた。終戦後間もない人気ラジオドラマのリメーク版かと勝手に思っていた。当時、この番組が放送される時間帯は、「銭湯の女湯から人が消える」と言われた位の圧倒的な人気番組だった。その後、1957年(昭和32年)に松竹が映画化し、「真知子巻き」が当時女性の間でブームとなった事がある。今回紹介する本は、題名は同じでも全く異なる高校生が主人公のラブコメディ風の内容である。この夏にこの本が、アニメ映画として公開されて更に話題となった。アニメ映画と言えば宮崎駿監督なのだが、2013年に「風立ちぬ」を最後に引退された。世界的に評価の高い日本のアニメ映画を牽引するリーダーが不在の中、今回公開された映画は、大ヒットしてアニメ映画の記録を更新している。この映画監督が、この本の著者である新海誠氏である。氏はアニメーション監督として2002年「ほしのこえ」でデビューし、「秒速5センチメートル」で高い評価を得て、宮崎監督の後継者の呼び名も高い。

君の名は:宮水三葉(みつは)    ――山深い田舎町に住む女子高校生――
この物語は、山深い田舎町で大きな湖が中心にある糸守町という所が舞台である。その主人公・宮水三葉は糸守高校に通う女子高校生である。町長の父親は家を出て、祖母と三葉と妹の三人暮しである。その祖母が宮水神社の神主を務め、妹と共にその神社の家業を手伝っている。こうした田舎の単調な生活に嫌気がさし、東京都心での高校生活に憧れている。その憧れから男子高校生になる夢を見て、それが自分と入替る事から物語が始まる。

君の名は:立花 瀧(たき)     ――東京の都心に暮す男子高校生――
もう一人の主人公が、東京の都心で暮す男子高校生の立花瀧である。父子家庭で家事は交代の当番制、イタリアンレストランでアルバイトをしている。そのバイト先の先輩女性に秘かに好意を抱いている。三葉と瀧の二人は田舎町と都心と離れているが、眠っている間にお互いが入替っていることに気付く。いつしかお互いが気になり、直接会いたい心境に発展していく。この二人が「会いたい」気持からラブコメを展開し、ある事件に遭遇する。

君の名は:青春ラブコメ       ――現代の「とりかえばや物語」――
その事件は、1200年に一度だけ地球に接近するという彗星が、糸守町に落下するらしい情報から、三葉等は町民を安全に避難させる行動に出る。そのドタバタの過程で二人が出逢うという物語である。この本のラブコメ部分や最終展開の詳細は、読んでのお楽しみである。その結末の部分に本の題名となった「君の名は」がある。著者は、若い男女のすれ違いと再会を色々書いているが、本書は現代の「とりかえばや物語」ラブコメ版を思わせる。

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