図書紹介
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もう親を捨てるしかない  ――介護・葬式・遺産は要らない――
(島田裕巳著、幻冬舎新書、2016年5月30日発行、第1刷、206ページ、780円+税)

デニマルさん : 9月号

この本を紹介するのに随分迷った。この本の提言内容は理解出来るが、果たして現実に実行可能かと自問して、難しい問題だと感じたからだ。しかし、日本の超高齢社会で現実に起きている問題に、「下流老人」(朝日新書)、「老後破産」(新潮社)とか、最近では「下流中年」(SB新書)といった本の話題も含まれている。更に、NHKスペシャルが「老人漂流社会」をシリーズ化して、団塊世代の親と子の介護問題を取り上げている。現在、我々が直面している問題をどう考えるか、その点に一石を投じた本としてあえて紹介して、自分のこととして考えてみた。題名は非常に衝撃的だが、副題の「介護・葬式・遺産は要らない」は、それぞれ個別に考えられる問題だ。そう言えば、著者の「葬式は要らない」(幻冬舎)は2010年6月号にこのコーナーで紹介していた。しかし、今回の本はその次元を超えた内容と6年の歳月を経て、更に複雑な問題に発展している。著者は、宗教学者、文筆家だが、一時期ある宗教団体を援護する発言をして裁判沙汰となったが、全面勝訴し決着している。

親がなかなか死なない時代       ――超高齢社会の現実――
著者は、2015年11月の「利根川心中」(47歳の娘が、認知症の母親殺人と74歳の父親殺人幇助で逮捕)を例に、現在の超高齢社会では、在宅介護が限界にあるという。更に、2015年の介護者支援フォーラム基調講演で「過去17年で介護殺人は672件」と報告(湯原悦子・日本福祉大准教授)されている。それと認知症老人の徘徊で鉄道事故の責任を家族に問われた裁判で最高裁は無罪判決したが、介護には複雑な問題が内在していると指摘している。

親を断捨離する提言          ――親の介護は誰の責任か――
昔から親が子供を育て、子供が親の老後の面倒を見る姿が普通にあった。だから長男は、家督を相続して親や祖先を護ってきた。しかし、戦後その家制度が怪しくなりつつある。その背景に超高齢化があり、親の面倒を見る子供も高齢化している。子供が、親から受けた養育という「恩義」を、介護という「親孝行」で償えるのか?この難しい問題を「親を断捨離」と提言しているが、現実的に倫理観やシガラミで実行は可能なのかと疑問が残る。

親の遺産と遺言            ――終活を無駄にしない方法――
どの親も「子供に迷惑をかけたくない」と、老後になって終活に励む人が多い。確かに、ボケや認知症になる可能性を憂いて、身辺整理や、遺産処分や葬式まで計画するのは、いいことである。その終活で遺産は遺言で全てを決められるが、それは相続人の立場にある人が認めた場合である。終活を完全なものにするには、専門家の知恵も必要であろう。著者は「遺産など残さない方が子供に迷惑を掛けない」の考え方で終活すべしと纏めている。

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