図書紹介
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暗幕のゲルニカ
(原田マハ著、新潮社、2016年3月25日発行、357ページ、1,600円+税)

デニマルさん : 8月号

今回紹介の本は、2016年直木賞候補作品に上げられていた。最終発表では荻原浩著「海の見える理髪店」が第155回直木賞に決定した。因みに下馬評では、伊東潤著「天下人の茶」と紹介の本と今回受賞作が有力候補だった。本題に入ろう、この本のオビ文に「国際謀略アートサスペンス」とある。ゲルニカと言えば、ピカソの名画として有名である。この絵は、スペインで起きた反乱軍の無差別爆撃を憤って、その悲惨な状況をパリにいるピカソが描いた。それもリアルな流血や破壊された建物等が全くない抽象画として書き残している。そのゲルニカが、何故アートサスペンスなのかは、読んでのお楽しみである。画家・ピカソ(1973年、92歳没)は、1万3千の絵画と10万点の版画、3万点以上の挿絵や彫刻等を残して有名だが、最も多作な美術家としてギネスブックに登録されている。著者の原田マハ氏は、ニューヨーク近代美術館のキュレーター(学芸員)の経験もある小説家である。名前のマハは、F・ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」に由来すると紹介されている。

パリ万国博覧会         ――1937年(フランス、パリ、スペイン館)――
ピカソはスペイン生れであるが、画家としての活動はパリが中心だった。この本では、ゲルニカ誕生の1930年代のパリと暗幕事件の2003年ニューヨークを対比しながらのスト-リィである。パリ万博は1855年に開催されたが7回目の1937年に、このゲルニカがスペイン館で出展された。当時は第二次世界大戦前、スペインでは反乱軍との内戦さなかの不穏な状況下で、ピカソは戦争への怒り、悲しみをキャンパスに描いて、多くの人に訴えた。

ピカソ:芸術の四十年展     ――1939年(アメリカ国内の美術館)――
そのパリ万博が終了後、1941年に第二次世界大戦がヨーロッパで勃発した。その戦火を逃れるために、ゲルニカはニューヨーク近代美術館に保管された。その経緯等々は「史実に基づいたフィクションとして綴った」と著者が後書きに書いている。アメリカにあったゲルニカはピカソ芸術の40年展として、シカゴを始め10か所で3年間の歳月を経て開催された。その後スペインのプラド美術館に返還されるが、この本はその経緯に触れていない。

ピカソの戦争展         ――2003年、(ニューヨーク近代美術館)――
ゲルニカがスペインに返還後、海外での展示を固辞されたのは、テロ集団等の標的となることを危惧したといわれている。それが2003年にニューヨークで、「ピカソの戦争展」として企画される。この背景には、アメリカで発生した9・11、その報復といわれるイラク空爆へエスカレートさせ、泥沼の戦争からテロ攻撃に対する警鐘でもあったのか。著者はゲルニカの暗幕ミステリーを追いながら史実を上手く融合させたサスペンス小説にしている。

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