例会部会
先号  次号

『第212回例会』報告

田邉 克文: 9月号

開催日 2016年7月22日(金)  19:00~20:30

テーマ 「多様な人材・スキルを前提としたプロジェクト計画と品質向上」
  ~ソフトウェア開発上流工程へのオントロジー導入~

講師 和泉 憲明 氏/国立研究開発法人 産業技術総合研究所
          (情報技術研究部門/上級主任研究員)

【はじめに】
今回は、経産省所管の研究所(産総研)にて数々のソフトウェア開発プロジェクトに従事され、近年注目されているAI(人工知能)の専門家である和泉憲明氏より、経験に基づいた実例を用いながら、システム開発の失敗の要因とその解決の糸口となる開発成果物の品質向上についてご講演頂きました。

【講演概要】
なぜ、システム開発プロジェクトは失敗するか?建築プロジェクトのように目に見えるようにしていないところに、システム開発の問題がある。
2005年の愛・地球博(通称、愛知万博)のパビリオン建設時に関わったときと比べると、建築関係の人は問題が起こると頻繁に現場で図面を見合わせながら内容を確認していたが、ソフトウェアの世界では設計書通りに開発されない例が多い。
プログラミング技法の課題が『人間の問題』に起因することは70年代から指摘されていた。人間の問題の例として、ブライアン・L・ミークの「立ち木にブランコを作る」図がよく知られ、その中で発注者と開発者、利用者のそれぞれの意図が大きく異なることが表現されている。
人間の問題からなる課題に対して、現在は超開発ツールやアジャイル開発等の道具や方法論が用いられるが、実際の効果には残念ながら結びついておらず、本来、成功へ導くべきツールや技法が、むしろシステムの失敗要因となっていることがある。
解決の糸口として、AIの分野で見えないものを見えるようにする技術であるオントロジー∗ という方法論を用いることでシステム要件を見える化し、さらには発注側のユーザーでも理解しやすくモデル化した開発成果物を作れるようになる。
(*オントロジーとは・・・概念化の形式仕様で、与えられた問題領域内の概念集合を分類する手法)
オントロジーを活用した考え方に基づくことで、従来からの要件定義手法に比べ、より正確にユーザー要件を記述することができ、さらに、一度構築したモデルを他のシステムに流用することもできる。
従来の方法では、開発者の属人的な能力に左右されるため、10年以上経験を積んだ開発者が記載した要件定義書でも、システム開発に十分な情報を盛り込めないことがあった。この方法で作られた業務フロー図、ユースケース記述を用いると非常にシンプルな書式となっているため、伝えたい内容と伝わる内容を最短距離で合意形成でき、利用者に十分な説明をしなくても成果物の記載内容を理解しやすい。
この方法により、上流工程での開発成果物の品質が向上することで、開発の工数超過や、納期遅延の問題が改善される効果がある。

【所感】
私は今回の講演を通じて、利用ユーザーとの要件定義の重要さを改めて認識しました。オントロジー自体難しい概念ではありますが、アウトプットして使われる開発成果物はいたってシンプルなもので、自社の成果物ドキュメントを整備する機会には是非応用して活用していきたいと思いました。

 最後に、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

ページトップに戻る