例会部会
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「第211回例会」報告

PMAJ例会部会 原 宣男 : 8月号

【データ】
開催日: 2016年6月24日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「PMに必要な「聴く力」」
~驚きの効果!「聴く」とみんなが味方になる~
講 師: 吉田 則子 氏/プロジェクト・カウンセリング・オフィス cocokara 代表
講師略歴及び講演概要:   こちら のリンク先の例会案内をご覧ください。

【はじめに】
 ワークショップ形式のセミナーというと参加を躊躇してしまう人が多い中、今回は講師の前評判が高かったからか、セミナー室がほぼ満席になるという盛況ぶりでした。
 PMに必要な「聴く力」としての「傾聴」を、体験することによりできるだけ身に付けて頂くという趣旨で、講義の途中に何回か受講者同志のロールプレイが実施され、隣や周囲に座っている人と、2人ひと組になったり、4人ひと組になったりしながら「傾聴」の体得授業が行われました。
 受講された皆さんは、積極的に且つ非常になごやかにお互いの役割を演じていました。
 このロールプレイで受講者が体得された感覚を文面でお伝えすることはできませんが、この講義を通して講師より話された内容について、そのエッセンスを以下にご紹介致します。

【講演概要】
1. 産業カウンセラーと「傾聴」
産業カウンセラーは、働く人たちが抱える問題を、その人自身の力で解決できるようにします。
メンタルヘルスやキャリア開発、人間関係の開発の援助も行います。
この援助をカウンセリングによって行うのですが、そのベースとなるのが「傾聴」です。
2. 「傾聴」の考え方
「傾聴」の前提となる考え方は以下の通りです。
人間は自己成長能力を持っている。
問題を解決するのはクライアント自身である。
カウンセラーはアドバイスしません。クライアントが自分で解決していくという考え方です。
3. 本日の目標
本日は以下を目標にしています。
聴くことが相手にどんな効果をもたらすか知る。
聴くことができるようになりたいと思う。
 本日はたったの1時間半なので、「できるようになる」のは無理ですが、きっかけになればよいと思います。
4. 知っていることと、できることは違う
 学習には4段階あると言われています。
 ①知らない為できない段階、②知ったが、まだできない段階、③知っていて、努力すればできる段階、④知っていて、意識しなくてもできる段階の4つです。
 「傾聴」を意識しなくてもできる段階にもっていくことが重要で、ちなみに産業カウンセラーは、理論学習を48時間、カウンセリング実習を81時間、小論文等の在宅学習を40時間の計169時間勉強しています。
5. 「きく」ことのいろいろ
 「きく」ことに色々種類があるのはご存知の通りです。「訊く(ask)」と「聞く(hear)」と「聴く(listen)」です。この最後の「聴く」は、相手を理解しようとするきき方のことです。
6. 「聴く」ことの効果
「聴く」ことは以下の効果があると言われています。
・信頼関係ができる: 理解してくれる人がいるという安心感を持ち、信頼関係が築かれていく。
・カタルシス(浄化)効果: 胸の内に溜まったものを吐き出し、客観的に物事を見られる。
・自己理解が進む: 自分を客観的に捉えることができ、新しい自分と出会える。
また、周囲に対する新しい見方ができ、他人を受け入れられるようになる。
7. プロジェクト運営で「聴く力」が効果を発揮する場面
 プロジェクトの立ち上げ時、計画時、実行時、コントロール時、終結時にそれぞれ「聴く力」が効果を発揮します。即ち、プロマネにとって「聴く力」は必要な技量と能力のひとつということになります。
8. 「聴く」ときの基本的態度
相手をそのまま受け入れる:相手の考え方や行動を無条件に受け入れる。
共感的理解:相手の立場を想像し、自分自身のもののように感じとる。
9. 「聴く」ときの技法
表情、態度、姿勢:やさしい表情でやや前傾で。腕組みは拒否ととられるので厳禁。
頷き:ゆっくり小さく。相手に信頼感を与える。
相槌:多用し過ぎると、かえって会話を阻害するので注意。
繰り返し:キーワードを捉えて短く伝え返す。
質問:相手の為になる質問をしてあげる。自分の興味本位にならないようにする。
10. 講師ご自身の話
 製薬会社で医薬品開発に携わるようになり、入社6年目からデータマネジメントグループ(5~6人のグループ)のリーダとなり、外回り(モニター)のグループが持ち帰った、医者から得られたデータをクリーンにする(チェックする)作業を行いました。モニターは30人くらいで、一人が複数のデータを持っている為、山のようなデータを処理する必要があり、がむしゃらに働きました。幸い皆が協力してくれてプロジェクトは成功しました。成功した要因は、個別の事情を聴き、理解しようとしたこと、即ち「傾聴」したことだと思います。「傾聴」の大切さを実感したのはこの経験が最初です。
 2001年にPMOに配属されました。製薬会社のPMOはほぼゼロからスタートでした。PMやPJメンバーはPMOの役割がわかっておらず、逆にPMOは現場でどういう支援が必要なのかわからない為、行き詰ってしまいました。そこで現場の悩みを丁寧に「聴き」、求められる支援や標準化等、ひとつずつやれることをやってきました。PMOができることとできないことをオープンにし、PMやPJメンバーが情報をオープンにすることで、相互理解が深まり、信頼関係を築くことができました。
 その間、PMSに合格し、産業カウンセラーに合格した訳ですが、一方で社外活動として製薬会社の勉強会に、2008年から年4~5回程度参加していました。プロジェクトマネジメントを医薬品開発業界に普及するための勉強会で、2013年にはその代表になりました。社外でもよい人間関係が築けているのは、「傾聴」が大いに役立っていると感じています。そして昨年、プロジェクトマネジメントとカウンセリングの融合についてもっと広めたいと思い、独立して起業しました。
 今振り返ると、本当に人に恵まれていたと思います。また、人に動いてもらうには、自分自身が目標に向かって努力することが不可欠であると感じています。
11. まとめ
「聴く力」はスキルです。何度もやってみましょう。
プロジェクトはひとりではできません、共に進んでくれる人がいるからこそ、価値のあるプロジェクトが実現できます。
今日の学びを、是非あなたのプロジェクトに活かしてください。

【所感】
 産業カウンセラーという職業があり、この人たちはクライアントにアドバイスすることなく、クライアントの自ら備えている力によって、クライアント自身を回復させるという話を聴いたとき、ある種の薬に似ていると思いました。風邪をひいて咳が止まらない時、咳を抑えることによって身体の回復力を高め、その元凶であるウイルスを患者自身が身につけた免疫によって退治してしまうというものです。これは、すばらしい技術であり、能力であり、驚きです。
 また一方、カウンセラーという職業があるくらいですから、「聴く」ということは一見簡単なようで実は容易ではないのだろうと予想はしていたのですが、講師からカウンセリングをマスターする為には結構勉強しなければならないという話を聴いた時、やはり自分が「話を聴いている」と思っていたことが、実は中途半端なものであったと思えてきました。そういえば、「聴く」際にやってはいけない「話を取らない」ということを、年中やってきたような気がします。もっと勉強しないといけませんね。
 今回受講され、「傾聴」ということを体験された方々は、その重要性を理解し、その技術も大いに体得できたのではないかと思います。「傾聴」という貴重な体験の機会を与えて頂いた吉田則子講師に感謝いたします。
 また、本日講師より説明頂いた「傾聴」は、PMに必要な技法とのことですので、今回受講されなかった方も、是非勉強され体得されることをお奨めします。

 最後に、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

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