PM研究・研修部会
先号   次号

「英国発のプログラム標準 MSP (Managing Successful Programmes) 紹介その1」
~MSP全体像および基本原則~

PM研究・研修部会 木下 雅治 [プロフィール] :9月号

1. はじめに
 PM研究・研修部会では、AXELOS社のプログラム・マネジメント標準MSP(Managing Successful Programmes)を3回シリーズで実施する予定です。本稿では2016年7月15日に開催した第1回セミナーの概要をご報告します。

2. MSPの概要
 MSPは、1999年に世界に先駆けて発行されたプログラム・マネジメント方法論の体系的な標準です。ベストマネジメントプラクティス体系の中ではプロジェクト・マネジメント(PRINCE2)の上位概念として位置づけられています。

ベストマネジメントプラクティスガイド
ベストマネジメントプラクティスガイド

 プログラムとは「組織の戦略目標に関わる成果や便益を提供するために、一連のプロジェクトの実行を調整・指揮・監視する一時的な、柔軟な組織」とされ、プログラム・マネジメントとは「成果を達成し、便益実現のために、組織を調和させプロジェクト活動の指揮・実行を行う活動」と定義されています。
 MSPは多くの経験や専門家の知見により導き出された方法論として「MSP基本原則 (MSP principles)」、「MSPガバナンス・テーマ (MSP governance themes)」、「MSP変革フロー (MSP transformational flow)」、の3つの視点で記述されています。

MSP全体像
MSP全体像

【MSP基本原則】
 ・ 企業戦略との整合性を保つ
 ・ 変更を主導する
 ・ より良い将来を描き伝達する
 ・ 便益と便益への脅威を重視する
 ・ 価値を付加する
 ・ 首尾一貫した能力を設計し提供する
 ・ 経験から学習する

【MSPガバナンス・テーマ】
 ・ プログラム組織
 ・ ビジョン
 ・ リーダーシップとステークホルダーの関与
 ・ 便益マネジメント
 ・ 青写真の設計と提供
 ・ 計画とコントロール
 ・ ビジネスケース
 ・ リスクと課題マネジメント
 ・ 品質と保証マネジメント

【MSP変革フロー】
 ・ プログラムの特定
 ・ プログラムの定義
 ・ トランシェのマネジメント
 ・ 能力の提供
 ・ 便益の実現
 ・ プログラムの終結

 7月15日に開催した第1回目セミナーでは、MSP基本原則を取り上げました。ガバナンス・テーマと変革フローは2回目以降の部会セミナーでご紹介する予定です。

3. MSP基本原則について

 プログラム・マネジメント原則には成功したプログラムの特徴が反映されています。ガバナンス・テーマと変革フローで適用することでプログラムはより目的を達成しやすくなります。

プログラム・マネジメント原則の特徴は以下の通りです。
 ・ 汎用性が高く、あらゆるプログラムに適用可能
 ・ 長年の実践で有効性が証明
 ・ 成功にむけた変革を具体化できるようになる

<1>企業戦略との整合性を保つ
 PRINCE2の基本原則に「ビジネス正当性の継続」がありますが、MSPでもビジネスを重視していると理解することができます。プログラムは企業戦略から乖離しないことが求められます。プログラムは数年以上の期間を要する場合もあり、計画された当初とは企業戦略が変化している場合もあります。そのように変化する企業戦略と常に整合性を保つことが求められています。

<2>変更を主導する
 変更を主導するでは、リーダーシップの特性を取り上げています。事例では政府機関の事務所移転において、上級管理職は自らが率先垂範して転居してプログラムを主導したことが紹介されていました。
リーダーシップの特性

<3>より良い将来を描き伝達する
 プログラムではリーダーは最初に未来の明確なビジョンを定め説明することが必要とされています。事例では、ある施設建設に際してリーダーが定めたビジョンをコミュニティのメンバーやステークホルダーへくり返し伝えることで同意を得られたことが紹介されていました。

<4>便益と便益への脅威を重視する
 プログラム・マネジメントは便益を実現することが求められています。そのため便益と、便益への脅威を重視することが求められています。

<5>価値を付加する
 有効なプログラムとは構成要素のプロジェクトやアクティビティに価値を与える場合のみとされています。プログラム便益はプロジェクト便益(プロジェクト自身が識別可能な便益)以上の存在であり、相乗効果を確認できることが必要となります。プログラムが何の価値も生まない場合、プログラムは終結させてプロジェクトを独立して進行させた方が良いとされています。

<6>首尾一貫した能力を設計し提供する
 プログラムが提供する能力は青写真で定義されます。能力は最小の影響で最大の効果が得られるスケジュールでリリースするとされています。ビジネス戦略が変化して、能力が一貫性を保てない場合は、プログラムの見直しや廃止を検討する必要があります。

<7>経験から学習する
 プログラムは学習する組織。メンバー全員が、学習するとプログラムはより良く機能する。組織の能力は、プログラム・マネジメントの成熟度に影響を与えます。

4. おわりに
 当部会は昨年夏より約1年かけてMSPを学ぶための勉強会を実施してまいりました。コアブックでのMSP基本原則についての説明は、それぞれ想像しやすくなるよう事例が紹介されてありました。特に二つ目の「変更を主導する」では上述のとおり「リーダーシップの特性」を他の基本原則よりも詳細に説明されていました。

以上

ページトップに戻る