PM研究・研修部会
先号   次号

「英国発のプログラム標準 MSP (Managing Successful Programmes) 紹介その2」
~MSPガバナンステーマを中心に~

PM研究・研修部会 坪井 隆 [プロフィール] :11月号

1. はじめに
 PM研究・研修部会では、AXELOS社によるプログラムマネジメント標準「MSP(Managing Successful Programmes)」の概要説明を3回シリーズで実施しています。第1回目のセミナーでは、「MSP全体像および基本原則」をご説明しました。本稿では、2016年9月16日に開催した第2回目のセミナー「MSPガバナンステーマ」についてご説明します。

2. MSPおけるガバナンステーマ
 最初に第1回目のおさらいをします。MSPでは、プログラムマネジメントを「成果を達成し便益実現のために、組織を調和させプロジェクト活動の指揮・実行を行う活動」と定義しています。MSPでは、多くの経験や専門家の知見により導き出された方法論として、次の3つの視点から便益を実現するための活動が記述されています(図1)。

- MSP基本原則 (MSP principles) 外側の輪
  成功したプログラムの特徴  
- MSPガバナンステーマ (MSP governance themes) 2番目の輪
  プログラムへの組織のアプローチ  
- MSP変革フロー (MSP transformational flow) 内側の輪
  成果を達成し便益を実現させるフロー  

図表1 MSPの構成
図表1 MSPの構成

 ガバナンステーマは、他の視点である原則および変革フローと密接な関わりを持っています。特に、ガバナンステーマと変革フローとの関係は図表2の様に表せます。変革フローにおけるプログラム特定や定義では、関連するガバナンステーマでの計画書等が作成されます。更にトランシェのマネジメント、能力の提供、便益の実現では、実行、実現、更新、レビュー等を行い、成果を達成し便益を実現させてプログラム終結へと導きます。

図表2 ガバナンステーマと変革フローとの関係
図表2 ガバナンステーマと変革フローとの関係

3. MSPガバナンステーマの概要
 MSPにおけるガバナンスとは、プログラムのセットアップ、マネジメント、コントロールを定義する機能、責任、プロセス、手順です。
 ガバナンステーマは9個のテーマから構成され、それぞれには、概要、変革フローでの適用および組織での主要な役割が記述されています。ガバナンステーマは、プログラムへの組織のアプローチと位置付けられており、プログラムが変更をもたらすためのフレームワークでもあります。
 以下に各テーマについて詳細を述べます。

1 ) プログラム組織
 プログラムの成功には明確で効果的な組織の確立が重要になります。プログラム組織は、スポンサーグループ、プログラムボードおよびプロジェクトボードに大別されます。更にプログラムボードは、上級責任オーナー、プログラムマネジャー、ビジネス変更マネジャーから構成されます。特にプログラムマネジャーは能力の提供、ビジネス変更マネジャーは便益の提供に責任を持ちます(図表3)。
図表3 MSPにおける組織構成
図表3 MSPにおける組織構成

2 ) ビジョン
 プログラムビジョンがベースとなり、プログラムから便益が得られます。プログラムビジョンから便益達成までのフローは図表4の通りです。プログラムビジョンはプログラム青写真へと展開され、そこでプロジェクトアウトプットが定義されます。次にアウトプットから能力が創造され、さらに成果へと移行し便益が実現されます。
図表4 便益達成までの主なフロー
図表4 便益達成までの主なフロー

3 ) リーダーシップとステークホルダーの関与
 便益を達成しプログラムを成功へ導くために、リーダーは積極的にステークホルダーを関与させます。

4 ) 便益マネジメント
 プログラムは便益の必要性から引き起こされます。そのため、便益マネジメントはプログラムマネジメントの中核をなしています。便益マネジメントサイクルは、特定、計画、提供、レビューから成り、プログラムを通して継続的に行われます。

5 ) 青写真の設計と提供
 便益モデルやプロジェクト構築のベースを提供するもので、サマリーレベルより具体化されたものです。青写真は将来の姿を表わし、青写真の設計と提供は、後述するビジネスケースが受け入れられるまで繰り返し行われます。

6 ) 計画とコントロール
 ここでは、プログラム準備計画、プログラムの定義、プロジェクト記述書およびプログラム計画を作成します。計画に基づいてプログラムを実行し、成果物の改善やプログラム継続の正当化のためにプログラムをコントロールします。

7 ) ビジネスケース
 ビジネスケースは、青写真を実現するために作られる計画書等の資料から構成されます。投資するだけの価値は生み出せるのか?に答えるもので、プログラム期間中その実現可能性の検証を行います。

8 ) リスクと課題マネジメント
 プログラムマネジメントの成功のためには不確実性、複雑性、曖昧性のマネジメントと許容が必要になります。そのため、リスク(不確実な事象)と課題(起こった事象)による影響を正しく理解し、より良い意思決定を支援する必要があります。プログラムリスクマネジメントの場合は、特定、評価、計画、実行から成るサイクルで表されます。また、課題マネジメントの場合は、補足、検討、行動方針案、決定、実行のサイクルで表されます。

9 ) 品質と保証マネジメント
 マネジメント活動が適切に機能し、目標達成の範囲内であることを確認します。品質と保証マネジメントは、プログラム全体期間を通じて実行されます。そのうちプログラムにおける保証マネジメントは、3つの視点(保証マネジメント原則、技法、アプローチ)から構成されます。

4. おわりに
 MSPにおけるプログラムマネジメントでは、成果を達成し、便益実現することが目的とされています。第2回ではそのためのフレームワークとして、ガバナンステーマをご説明しました。第3回目では、まず第1回目「MSP基本原則」と第2回目「MSPガバナンステーマ」の振り返りをします。次に「MSP変革フロー」の概説を行いMSP全体像の理解を高めます。
以上

ページトップに戻る