PM研究・研修部会
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IPMA PEB(Project Excellence Baseline)第1.0版の概要
-プロジェクト・エクセレンスのベースライン-

PMAJ PM研究・研修部会 技術士(情報工学部門)、PMP®、PMR
渡辺 敏之 [プロフィール] :7月号

1. はじめに
 IPMA®(国際PM協会)は、プロジェクト、プログラム、ポートフォリオに関わる3つのベースラインとして、2015年10月にICB第4版、そして2016年2月にOCB第1.1版およびPEB第1.0版を発行した。ICB(Individual Competence Baseline)は個人に求められるコンピテンスを記述、OCB(Organisational Competence Baseline)は組織に求められるコンピテンスを記述したものである。一方、PEB(Project Excellence Baseline)はプロジェクトやプログラムのマネジメントにおけるエクセレンスの概念を示したものである。
 PM研究・研修部会では今年(2016年)5月20日にPEB 1.0概要解説セミナーを開催した。 その内容を踏まえてPEB第1.0版の概要を解説する。
 なお、当部会では2014年10月よりIPMA®の活動に対する研究の成果を部会セミナーで発表してきている。それぞれの成果は、このPMAJオンラインジャーナルの各号で紹介しているので、興味のある方は以下リンクより各成果資料を参照されたい。今回PEB第1.0版を取り上げることは、このようなIPMA®に関する我々の研究活動の一環として位置づけられるものである。

 <PMAJオンラインジャーナルでの過去の関連掲載資料>
IPMA ICB® (IPMA Competence Baseline) 第3版 概要解説【2014年10月号】
IPMA ICBC(Addition to the IPMA Competence Baseline for PM Consultants) 概要解説【2015年9月号】
IPMA OCB(Organisational Competence Baseline) 第1.0版 概要解説【2015年11月号】
IPMA ICB® (Individual Competence Baseline) 第4版 概要解説【2016年2月号】
IPMA OCB( Organisational Competence Baseline)第1.1版 概要解説【2016年6月号】

2. PEB第1.0版の位置づけ
 前述の通りPEB第1.0版は、2016年2月に発行された。これにより、ICB、OCB、PEB、3つのベースラインがIPMA®の定める標準としてセットで揃うこととなった。
 すなわち、PEB第1.0版は単独の標準ではなく、IPMA®が今回一斉に発行したベースライン三部作の一つとして位置づけられるものである。ICBが個人、OCBが組織、PEBがプロジェクトのコンピテンス/エクセレンス・ベースラインをそれぞれ規定するものである。
 なお、この3要素のベースラインから構成される体系は、以前より「IPMA Delta®」という名称で概念が組み立てられていたものである。今回の一連の発行で3要素のベースラインが整合性を持った標準として整備されたことになる。

図1 IPMA Deltaの概念図
図 1 IPMA Delta®の概念図

3. PEBとは
 PEBとはプロジェクト/プログラムのマネジメントにおけるエクセレンスを促進するためにICBやOCBを補完するものである。 プロジェクト/プログラムのエクセレンスの概念を記述し、エクセレンスを評価するためのガイダンスを提供している。
 PEBは、観察された結果に基づく評価のためのみの標準ではなく、コンピテンスを継続的に発展させ、プロジェクトを成功・進展させるための要求事項でもある。

4. PEBの目的
 PEBは以下を目的として発行されている。
プロジェクト/プログラムのマネジメントにおけるエクセレンスの概念を記述すること。
ミッション、ビジョン、戦略の観点からエクセレンスを創出するために、いかに役立つかを記述すること。
エクセレンスを探求し、プロジェクト/プログラムのマネジメントに関与する人々に一般的な理解を提供する指針となること。

5. プロジェクト・エクセレンスについて
 プロジェクトがエクセレンスであるとはどういうことを意味しているのかについて、PEBでは以下のように説明している。

(1) エクセレンスの概念
「標準的」を凌ぐ品質を確保していること。
改善と発展を続け、決して達成することの無いターゲットを持っていること。
エクセレンスへの最も重要な道筋は、関連する領域での継続的学習と改善である。
エクセレンスへの到達を目指すことは長期的な取り組みであり、短期での到達は不可能である。

(2) プロジェクト・エクセレンスの概念
プロジェクト・エクセレンスは、現実のプロジェクトで実践される特性をまとめたものである。
プロジェクト・エクセレンスは、プロジェクトマネジメント領域にける発展とイノベーションの本質であり、明確には定義できないものである。
規範的なアプローチ、メソッドやプラクティスを集めたものとなっている。

(3) エクセレンスなプロジェクトとは
人、目的、プロセス、資源、結果を含むエクセレンスなパフォーマンスを持つ。
専門的で革新的なプロジェクトマネジメント手法を適用している。

6. PEM (Project Excellence Model)とは
 PEBの主要要素はPEM (Project Excellence Model) として示される。PEBは、以前より国際プロジェクト・エクセレンス表彰のアセスメントで使われているPEM(Project Excellence Model) をその中核とし、その根底にある考え方を定義し説明するものである。PEMは標準として利用され、プロジェクトのサイズ、成熟度やコンテキストに関わりなくエクセレントなプロジェクトマネジメントの指針を提供する。

PEMを構成する3つのエリア
人と目的
プロセスと資源
プロジェクトの結果

図2 PEMの構造
図 2 PEMの構造

7. PEMの評価基準
 評価基準とはエリアごとの評価を行う際の物差しとなるもので、エリアごとに細分化されて記述されている。プロジェクト/プログラムのエクセレンスのレベルについてのフィードバックをすることを狙っている。

表1 人と目的エリアの評価基準
表 1 人と目的エリアの評価基準

表2 プロセスと資源エリアの評価基準
表 2 プロセスと資源エリアの評価基準

表3 プロジェクトの結果エリアの評価基準
表 3 プロジェクトの結果エリアの評価基準

8. PEMによるスコアリング
 PEMを積極的改善やベンチマークの目的で使用するときは、モデル評価用のスコアリング・システムを推奨している。その手順は以下のようになっている。

図3 PEMによるスコアリングのステップ
図 3 PEMによるスコアリングのステップ

 スコアリング・プロセスの最終的な成果はプロジェクト・プロファイルである。

 これは、3つのスコアを持つ。
人と目的
プロセスと資源
プロジェクトの結果
 プロジェクト・プロファイルはPEM評価基準16項目の採点によって決定される。

9. おわりに
 以上、2016年2月に発行されたPEB第1.0版の内容について、我々部会での研究成果に基づき、その概要を紹介した。世界のPM組織でも個人や組織の能力/成熟度を対象にした標準や図書/文献が多く発行されてきている。 今回IPMA®は組織、プロジェクト、個人のコンピテンス/エクセレンスを整合がとれたベースラインとして策定した。これは、プロジェクト、プログラム、ポートフォリオのマネジメントが継続的に成果を達成していく上で大きな意義があると感じている。

以上

[参考文献]
“IPMA PEB- Project Excellence Baseline, Version 1.0”, IPMA®, 2016
“IPMA ICB®-Individual Competence Baseline, Version 4.0”, IPMA®, 2015
“IPMA OCB- Organizational Competence Baseline, Version 1.1”, IPMA®, 2016

「IPMA®」、「IPMA ICB®」、「IPMA Delta®」は、International Project Management Association (IPMA®)の登録商標です。
「PMP®」、「PMI®」は、Project Management Institute (PMI®)の登録商標です。

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