PM研究・研修部会
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OCB(組織のコンピテンスベースライン)概要

PM研究・研修部会 米澤 徹也 [プロフィール] :6月号

IPMA(国際PM協会)は、プロジェクト、プログラム、ポートフォリオ(以下PP&Pと略する)に関わる3つのベースラインとして、2015年10月にICB第4版、そして2016年2月にOCB第1.1版およびPEB初版を発行した。ICB(Individual Competence Baseline)は個人に求められるコンピテンスを記述、OCB(Organisational Competence Baseline)は組織に求められるコンピテンスを記述したものである。一方、PEB(Project Excellence Baseline)はプロジェクトやプログラムのマネジメントにおけるエクセレンスの概念を示したものである。
PM研究・研修部会では本年3月18日にOCB第 1.1概要解説セミナーを開催したので、その内容を含めて概要をここに記す。
なお、当部会では昨年9月にOCB第 1.0概要解説セミナーを実施し、その概要をオンラインジャーナル11月号でも紹介した。OCBにはプロジェクトのマネジメントにおける組織のコンピテンスとして5つの組織コンピテンスグループがあり、各グループに組織コンピテンス要素が規定されているがこれらの内容についてはOCB第1.0版とOCB第1.1版では変更はないことから、一部の記述で重複しているところがある。

1. OCBの位置付け
冒頭でも述べたが、IPMAが個人、組織、プロジェクトに関わる次の3つのベースラインを改訂または新規に発行した。
ICB PP&Pのマネジメントに従事する個人に求められるコンピテンスを記述。
OCB PP&Pのマネジメントのために組織に求められるコンピテンスを記述。
PEB プロジェクトやプログラムのマネジメントにおけるエクセレンスの概念を記述。
これらの関係を示したのが下図であるが、OCBはこれら3つのベースラインの一角を占めている。


2. OCBの概念
OCBは組織に焦点を当てたものである。ここでいう組織とはいわゆるプロジェクトを実行するプロジェクト組織ではなく、プロジェクトやプログラムを運営する上位組織のことである。プロジェクトが高度化、大型化、そして複雑化するなかで、組織はさまざまな制約の下でステークホルダーからの高まる期待を満足させる必要がある。
このような環境の中で、個人やチームのコンピテンスを向上させてプロジェクトやプログラムとしての成功を目指すだけでなく、組織としてのコンピテンスについても分析し開発する必要がある。OCBはプロジェクトやプログラムをマネジメントする上で組織に求められるコンピテンスを定義し、組織のビジョンやミッション、戦略の達成にいかに役立てるかを記述したもので、組織がPP&Pのマネジメントにおいて果たすべき役割を示している。

3. OCBの対象者
OCBは上級エグゼクティブ及びPP&Pマネジャーの役割を主に記述している。上級エグゼクティブは変革のための投資や外部パートナーの関与など組織的な側面を明確にし、PP&Pマネジャーはこれらの変革や投資がそれぞれのプロジェクトにどのように関わってくるかを特定するなどの組織的なコンテキストを理解する必要があるとしている。
また、PMコンサルタント、教育者、トレーナー、研究者に対しては、PP&Pのマネジメントに必要な組織コンピテンスに貢献するための枠組みを提供している。これにより組織内で教育、トレーニング、コーチングを行う基準として用いたり、PP&Pのマネジメントシステムの分析、評価、開発等に用いたりすることができる。

4. 組織コンピテンスの5つのグループ
PP&Pのマネジメントにおける組織のコンピテンスは、ガバナンスやマネジメントシステムに支えられてPP&Pにおける人、資源、プロセス、構造、文化を統合するための組織の能力と定義されている。
組織に求められるコンピテンスには第5項の表に示す通り18個の要素があるが、これらは次の5つのグループに分類される。
PP&Pガバナンス[G]
戦略的視点、方針、ガイドライン、意思決定、パフォーマンスの監視コントロール、更にはPP&P組織コンピテンスの持続可能な開発の指揮を提供する。組織のコーポレートガバナンスの一部でもある。
PP&Pマネジメント[M]
人、手法、ツール、ガイドライン、意思決定、監視コントロール、更には全ての組織コンピテンスの持続可能な開発の指揮を提供する。PP&Pを含む組織のマネジメントシステムの一部である。
PP&Pアライメント[A]
PP&Pのプロセス、構造、文化について内部・外部の組織と整合性をとるもので、PP&Pマネジャーが他のマネジメント機能と協力して実施する。
PP&P資源[R]
PP&Pの資源に対する要求事項、その獲得、そしてそれらの持続可能な開発へのガイダンスを提供する。PP&Pマネジャーが財務、法務、購買、技術部門などの協力を得て実施する。
PP&P人的コンピテンス[P]
コンピテンスに対する要求事項の定義、現状のコンピテンスレベルの決定、コンピテンスの持続可能な開発に関するガイダンスを提供する。PP&Pマネジャーが人事部門マネジャーや他の機能部門のマネジャーの協力を得て実施する。

5. 各組織コンピテンスグループの組織コンピテンス要素
各組織コンピテンスグループには、合計18の組織コンピテンス要素が次の通り分類されている。
コンピテンスグループ コンピテンス要素
 PP&Pガバナンス[G]  [G1] PP&Pミッション、ビジョン、戦略
 [G2] PP&Pマネジメント開発
 [G3] リーダーシップ
 [G4] パフォーマンス
 PP&Pマネジメント[M]  [M1] プロジェクトマネジメント
 [M2] プログラムマネジメント
 [M3] ポートフォリオマネジメント
 PP&P組織アライメント[A]  [A1] プロセスアラインメント
 [A2] 構造アライメント
 [A3] 文化アライメント
 PP&P資源[R]  [R1] 資源に対する要求事項
 [R2] 資源の状態
 [R3] 資源獲得
 [R4] 資源開発
 PP&P人的コンピテンス[P]  [P1] 人的コンピテンスに対する要求事項
 [P2] 人的コンピテンスの状態
 [P3] 人的コンピテンス獲得
 [P4] 人的コンピテンス開発

6. IPMAは組織の変革、持続的発展のために実施されるPP&Pのマネジメントにおいて、組織、プロジェクト、そして個人のそれぞれに焦点を当て、そしてお互いに整合性の取れたベースラインを策定した。
3つのベースラインの一つであるOCBは、組織のガバナンスやマネジメントシステムの下で、組織のミッション、ビジョン、戦略に基づき求められる結果を達成するために、PP&Pマネジメントに必要な組織コンピテンスを示したもので、下図はこのことと組織のコンピテンスの5つのグループとの関係をうまく表している。



世界のPM組織では個人や組織を対象にした標準が発行されているが、今回IPMAが組織、プロジェクト、個人を整合性を持たせてベースラインを策定したことに、組織として継続的に成果を達成していく上で大きな意義があるのではないかと感じている。

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