協会理事コーナー
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「今、私たちの生きている時代」

新日鉄住金エンジニアリング(株) 古家 秀彦 [プロフィール] :8月号

 私は昨年から当協会の理事をさせていただき、プロジェクトマネジメントについても学ばせていただいています。PMAJはPMBOK®やP2Mなどの知識体系化によるモダンプロジェクトマネジメントを推進しています。経験的要素の強いプロジェクトマネジメントに関する体系的整理は、現代のデジタル化時代に照らして、プロジェクトマネジメントを発展させる上で、きわめて重要であると思います。

 グラフ *1) を参照下さい。これは、良く知られた「ムーアの法則 *2) 」と言われるコンピュータ技術に関する高度化の歴史です。縦軸は対数目盛です。コンピュータの処理能力・速度・小型化・価格の指数関数的な発展は、ここ数年で自動運転車、囲碁・将棋・クイズに勝つ人工知能、高性能ロボット等々、これまで習得できないと思われていたスキルを見事に身に付けています。経済学者のフランク・レビーとリチャード・マーネインは2004年に発表した「新しい分業」の中で、コンピュータの得意分野は「ルールに従う知識労働」であり、不得意分野は「人間のパターン認識能力に依存する知識労働」と考えました。しかし、その6年後の2010年にグーグルは完全無人車をアメリカの一般道、高速道で走行させることに成功しました。様々なパターン認識能力を求められる運転というスキルをコンピュータが身に付け、不得意と思われていた分野もコンピュータで実現できることを証明しました。ある学者は、現在は指数関数的な進歩の途上にあり、今後想像を絶する世界に突入すると言います。今、私たちの生きている時代は、産業革命以来のパラダイムの転換期にいるのかも知れません。

 さて、プロジェクトマネジメントの話に戻ります。PMBOK®やP2Mはプロジェクトマネジメントの知識体系のガイドであり、経験知(情報)を体系的に整理・蓄積できる手法です。コンピュータは、記号化できるものであれば数学から論理・言語に至まで何でも処理します。ルールとアルゴリズムにより、パターン認識や複雑なコミュニケーションもこなします。知識体系で蓄積されたデータは「人間のパターン認識能力に依存する知識労働」であるプロジェクトマネジメントを飛躍的に向上させる可能性を秘めています。また、コンピュータによる処理においては、データベースの共通化・共有化が不可欠です。データの量と質も重要であり、より多くのデータを集める必要があります。データベースを各社協力して構築するということも必要になってくるでしょう。将来的にプロマネの仕事全てがコンピュータに置き換わるということではないでしょうが、例えば、リスクマネジメント等はコンピュータが過去の経験知を踏まえた有効なアドバイスをしてくれるかも知れません。その様な将来を夢想し、PMAJへの期待も膨らんでいるこの頃です。

以上

*1) The Second Machine Age(Erik Brynjolfsson & Andrew McAfee著,日経BP社)、p.87
*2) 半導体の集積度は18ヶ月で2倍になるという経験則

【グラフ】 コンピュータ技術の進化(ムーアの法則)
【グラフ】コンピュータ技術の進化(ムーアの法則)

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