協会理事コーナー
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新米理事の独り言

若杉 賢治 [プロフィール] :4月号

 2015年7月より、それまでほとんど接点のなかったPMAJの理事を拝命し、10ヶ月ほどが過ぎようとしている。いわゆる大手ITベンダーで、30年余りSEと呼ばれる職種に携わってきた私にとって、「新米」という立場は本当に久しぶりで、柄にもなく新鮮な感覚を呼び起こしてくれる。
 思えば、私の仕事人生は、前半生が「フィールドSE」、後半生が「共通技術SE」と、ほぼ二分される。フィールドSE時代は、自治体や官庁といった公共部門の顧客のシステム開発やパッケージ製品の適用をサポートする仕事が主であり、最大3年間顧客先に常駐するなど、お客様(外向き)のプロジェクトを中心に活動した。共通技術SE時代は、フィールドSEを通してお客様に提供する「要件定義」を中心とした上流工程技術の開発、普及に携わり、どちらかというと社内(内向き)のプロジェクトに携わってきた。各々、違った面白味や困難さがあり、一概にどちらが好きとか嫌いとか決められないが、それぞれから学んだ「プロマネの本質」について紹介したい。
 まず、お客様(外向き)のプロジェクトで学んだプロマネの本質とは、「おもてなしの心」の必要性である。「顧客と丁々発止とやり合わなければならないプロマネがおもてなし?」と訝る向きも多かろうが、ここで言う「おもてなし」とは、「相手の立場に立って考える」という言い古された教訓の進化形である。単に相手の立場に立つだけではなく、心情までも理解すること、すなわち、対峙するのではなく、同じ方向を向き、同じ船に乗ること。これは、優れたコンシェルジュの心構えに通じるものであり、故に「おもてなし」と同義と考える。
 私がまさに新米の頃、大規模なシステム開発のため常駐していた役所で、何かと言えば別のベンダーを引き合いに出しで嫌味を言う職員にベンダーSE一同辟易していたことがあるが、いかに嫌な顧客であっても、プロジェクトを成功させたいという思いは共通のはず。であれば、同じ方向を向けるところからスタートしようではないか、と思って粘り強く行動し、関係を改善できたのが、発想の原点である。
 次いで、社内(内向き)のプロジェクトで学んだプロマネの本質とは、「動かすのではなく動いていただくこと」の重要性である。個人として優れた能力を持つプロマネの陥りがちな問題点として、何にでも首を突っ込んだり手を出したがるというのがある。その結果、プロマネがいないとプロジェクト全体が回らず、またメンバーも指示されたように動くだけなので後進も育たない。したがって、プロマネは余計に干渉したくなって悪循環となる。まさに、「名選手、必ずしも名監督にあらず」である。
 これと真逆な先輩に出会えたことが、私の幸運であったのかも知れない。その先輩は、普段は言葉遣いも乱暴で指示も大雑把なので、メンバーからは煙たがられていたのだが、実は気配りの人だった。必要最低限の指示をしたら、にこやかに部下のやることを眺め、裏では部下の動きやすいように配慮してくれた。また、迷っている部下には、さりげなく自分で気づけるような示唆をくれた。その根底には、部下をリスペクトし能力を信じる心が宿っていたように思う。つまり、率先垂範も重要だが、信じて待つこと、単に待つだけではなく部下が一歩踏み出しやすいような環境を整えてあげることが重要になる場面もあるということを気づかせてくれた。
 最後に、私自身のプロマネとしての体験とそこから学んだことを紹介する。10年以上前になるが、顧客のシステムの移行プロジェクトのトラブルで、顧客先に泊まり込み、年末年始を返上してトラブルシューティングに明け暮れたことがあった。このとき、年始明けの4日に本稼働に漕ぎつけたのだが、直後の金曜日夕刻に問題が発覚し、誤ったデータが格納されてしまったため、その後の三連休でリカバリしなければならない状況に陥った。原因もわからず疲労の極致で途方に暮れた私は、それまでなるべく頼るまいと決めていた上司に、ことの重大さを電話で報告するのが精一杯だった。
 ところが、翌日、なんと三連休最初の土曜日にもかかわらず、十数名の同僚が上司とともに顧客先に大挙押しかけ、テキパキと問題の切り分けと対処を始めたではないか!あっけにとられる私に上司が言った一言が、今でも耳に残っている。「よくやった。だが、こうした状況への対処は煮詰まった頭ではダメだ。フレッシュなやつらに任せておけ。なあに、こいつらは火事場の方が得意な連中だよ。」結局、3日間でトラブルは解消し、無事三連休明けの稼働に漕ぎつけたのだが、この時ほど、自分の同僚が頼もしく思えたことはない。何事も一人で抱え込むことは驕り以外の何物でもないということを嫌というほど思い知らされた。それ以来、肩の力を抜いて、リキまないマネジメントを心掛けている。

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