協会理事コーナー
先号   次号

「不思議な組織」

浦 広道 [プロフィール] :3月号

 私が社会人となったのは1985年、今から31年前になります。入社して導入教育後に配属された部署は、設計1課と言うところでした。開発製品の基礎設計を行う部署で、先輩社員の指示に従いながら業務をしているうちに、この組織には2種類の上司(課長)がいることに気づきました。一人は直属の課長で、もう一人は計画主務という方、休暇申請や勤務記録は直属の設計1課長に、設計資料や図面の承認は計画主務にと、提出物によって承認者が違う。使い分けると言う不思議な組織でした。
 もうお気づきかと思いますが、この組織はマトリクス型で計画主務はプロジェクトマネージャーと言う事になります。私の配属された課の他にも、構造設計や電気設計など複数の課が有り、また同じ課で行う作業の中でも機種別にプロジェクトマネージャーが違うことなど、新人時代は何を誰に提出したら良いのかずいぶん迷いました。
 この組織は人材に関してかなり柔軟な組織でした。工事の進捗に合わせて構造設計の人材や、電機設計の人材が増えたり減ったりが普通にありました。それゆえ開発スケジュールが大幅に遅れると言うことが無かったように思います。なお、担当設計者としては何時どの作業が割り当てられるのか分からないと言う点で不安もありましたが、色々な業務への好奇心もありそれなりに楽しめたと思っています。
 とはいえ、課の人材が湧いて出てくるわけではないので当時の課長は人材のやりくりにかなり苦労されたはずです。主務と課長の意見衝突の場面に遭遇したこともありました。この形の組織の一番の大きな問題は2トップであるが故のコンフリクトをどうやって回避するかということだと思います。精神的に相当タフでなければそれぞれの組織のトップは務まらないでしょう。余談ですが、私の結婚式にどちらの上司を呼ぼうかで迷った結果、接触のより多いプロジェクトマネージャーに出席を御願いしました。これも2トップの弊害でしょうか。
 その後も組織の形態は少しずつ変わって行き、現在ではマトリクスのイメージを残しながらもプロジェクト担当部署が出来、プロジェクトオフィス型の色合いが濃くなっています。マトリクス型とプロジェクトオフィスの良いとこ取りを狙ったような形態で、プロジェクトマネージャーの位置づけを残したまま、組織のコンフリクト軽減を図るようなイメージとなっています。
 私はプロジェクトマネジメントにおいて、組織の問題と言うのはかなり大きなウエイトを占めると思っています。プラント建設のような装置産業プロジェクトは別にして、製造業やIT産業では、組織の善し悪しが生産効率を決めると言っても過言ではないかとさえ思います。プロジェクトミッション(戦略)を遂行するための組織体系(戦術)のような概念を会社組織に取り入れることも今後必要になるのではないでしょうか。
 皆様のご意見もお聞かせいただければ幸いです。

ページトップに戻る