関西例会部会
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第128回 関西例会レポート

PMAJ関西 KP 樋口 高弘: 8月号

北村保成氏
開催日時: 2016年7月8日(金) 19:00~20:30
開催場所: 大阪駅前第2ビル 5F 第3研修室
テーマ: 「組織変革の考え方とアプローチ」
講師: 北村 保成(きたむら やすなり) 氏/HR企画きたむら 代表
参加者数: 26名(スタッフ3名含む)

講演概要 :
 人口減少期を迎えた日本、そして第4次産業革命が進行中といわれる社会変革の中にあり、私たちが属するあらゆる組織も変革を必要としています。そこでは、従来の組織運営の考え方やマネジメント手法が通用しない「手探り」の状況に直面しているのではないでしょうか。
 本日は、これまで複数の組織で「組織変革プログラム」として実施してきた内容のエッセンスを紹介して、次世代に向けたマネジメント変革のあり方をご一緒に考える場となれば嬉しく存じます。
 
■ はじめに
 経営者としてのご経験を持つ北村様は、PMAJ理事(2009年~2013年)、PMAJ関西代表(2012年~2013年)を歴任され、「P2M標準ガイドブック(改訂3版)」の執筆者(共著)でもあります。
 今回発表いただくテーマ「組織変革の考え方とアプローチ」では、P2Mのことも触れながら、次世代に向けたマネジメント変革の在り方について、具体的事例を交えて分かり易くご教授いただきました。
 
■ 日本の世界とマーケティング変化の方向性
 ここでは、日本の人口減少・少子高齢化社会へ向かう中での国内外での戦略、一方では世界の人口は膨張し続ける(特にインドは顕著)、世界のGDP推移では2050年の予測ではアジアの伸びが群を抜くという予測データをご紹介いただいた。更にIoTによる第4次産業革命の到来によって、短いサイクルで世の中が変わり、企業の顧客も変わる、会社の変革が迫られる構図となる。社会の非連続的な変革(ものづくり、家、車、農業など)が起こり、金融においても続々と新サービスが生まれる時代へと変遷しているとのことであった。
 中国では第2次産業からサービス業へと移行しており、日本企業への影響として減益の企業、増益の企業と二極化が起こっている。また、日本における職業別の従業員の変化(伸び率)を2015年度と2030年度(予測)の比較した表では、現状放置した場合と変革した場合の数値(従業員数)の変化を示唆されていた。
 これらの長期的な動向と、短期的な変化を見据え、従来とは違う発想で新たなビジネスモデルを創出していくアプローチが必要になってくるということであった。
 
■ マネジメントの現状考察
 このように日本と世界のマーケティングの変化に対してマネジメントは機能しているかをP2Mのフレームを用いて、戦略型プログラムが創りにくい状況となってきていること、すなわちプロジェクトが起こせないという現状を問題として提起された。その中で、QC活動で有名なトヨタの日常活動の全体像の事例を紹介され、世の中や外部環境の所為にしない、自分たちが解決する風土(問題がないことが最大の問題)が根付いており、これが中長期視点でのあるべき姿から半年~3年先の問題解決のためのマネジメントサイクルが組織的に機能している例を示された。
 
■ 組織再生プログラムについて
 この章では、以下に続く5つの論点で話しが展開される。その前段で講師が実施する中期経営計画の研修での組織再生プログラムの全体プロセス、フレームワーク、コンセプトについてご紹介いただいたが、顧客の言うことが2ヶ月経ったら変わってしまうほど、外部環境の変化が激しい状況下でZoom out/Zoom inしながらビジネスモデルを変えていく必要があることが印象に残った。
 
1 ) 環境変化に合わせて自社はどう変わるべきなのか?
 ここでは、以下の5点についてのアプローチを解説いただいた。
・ 自社を大きな環境の中に置いてみる
  マクロ環境:世の中の動き、市場環境:顧客の動き、競争環境:ライバルの動き
・ 環境と経営の整合を見るポイント
  BS/PLでの経営成果として、顧客価値提供(B2C、B2B)、経営資源の使い方(カギとなる経営資源)、経営活動の仕方(カギとなる活動プロセス)の3つの視点
・ 「起り得る未来」を想像・予測して自社の方向を考える
  予測不可能なネガティブな未来に対して、あるべき姿にはあり得る姿の想定とありたい姿へとポジティブな未来を想像する
・ 「起り得る未来」に関連する要素(主要国・業界・競合)
  政治・経済的環境要因→市場環境、ものづくり環境、社会的環境要因→競合環境分析
・ 自社の「ありのままの姿」と「将来像」とシナリオ
  ありのままの姿を読める姿に高速に連鎖させながら将来像(新ミッション・ビジョン)のシナリオ化
 
「読みにくい非連続な未来」との向き合い方
   長期的に予測可能な範囲と予測不能な想像域の範囲(ポジティブシナリオ:起こりそうな嬉しいこと、ネガティブシナリオ:起こるかもしれない嫌なこと)のブレは大きくなることを理解した上で、計画パラダイム(意図的な戦略立案)に陥ることなく、シナリオ思考(創発的戦略立案)が不確実性時代には不可欠である。その読みにくい非連続な未来への対応の仕方として、ダブルループラーニング(自分たちの前提を明らかにし見直す)を紹介いただいた。(シンプルループラーニング:前提や枠組みを見直さない)
 ここでの有効な分析ツールや書式の紹介
対象市場のマクロ環境分析(PEST分析)
主要な組織や事業のありたい姿
組織の定義(何をする組織か)
 
2 ) 自社の強みや良いところは何だろうか?
   先ずは、戦略理論の4類型を用いて、会社がどの領域でやろうとしているのか、ポジショニング・アプローチ(事業は正しい位置取りをしているか)、資源アプローチ(他社に真似されない自社の強みは何か)を中心に解説いただいた。そして、その強みが顧客ニーズと適合しているのか、自社の強みと顧客のプロフィールの適合性の検証、本当にそれが自社の強みなのかを、周囲の目(顧客、仕入業者、教授、メディア等)からどのように見えているかを確認していくことが重要であることを認識することができた。
 ここでの有効な分析ツールや書式の紹介
自組織の立ち位置を確認する(Five Forces)
3C分析
商材・サービスの分析
自社の強さを正しく認識する
 
3 ) 事業仮設を立てる [非連続成長と「ビジネスモデル」~ビジネスモデル変革・創造の常態化~
   非連続成長の事業革新モデルとして、代表的な成長戦略パターンとクリンテンセンの「事業革新成功モデル」を紹介いただき、革新には環境変化の察知と顧客価値の提供(CVP)の再定義、新たなビジネスモデル設計が必要となり、そのビジネスモデルの再検討には「成功の4要因」があることを教示いただいた。
 <成功の4要因>
  ・顧客価値の提供(CVP) ・利益方程式 ・カギとなる経営資源 ・カギとなるプロセス
 この4つの要因に当てはめた事例(ヤマト運輸)の提示により、理解が深まった。更には環境変化とビジネスモデルの図示では、環境変化の察知と利益モデルへの影響解釈のポイントが解説され、革新に踏み込むタイミングが示されていた。その利益モデルの再考には、価値基準を持たなければならず、それには2つの要素(Keyとなるプロセス、Keyとなる経営資源)があり、判断を下すときの価値基準に至っては難しく、変えたがらないのが人の特性である。また、経営資源については、自社の資源をベースにしたら何も変わらない、外部の資源活用も視野に入れる必要がある。(M&A、アライアンスなど)
 最後にこの章で紹介されたモデルの組み合わせにより「ビジネスモデル概要をデザインしてみる」という形で図解されており、ここでもヤマト運輸の事例を当てはめて分かり易く解説していただいた。
 
4 ) 誰に何をどのように提供する組織になるのか?
   最初に出てくる「経営戦略の見取り図」と次の「マーケティング戦略の概要」では、自社のポジショニング分析(提供商品・サービスの現状分析、自社の位置づけからの戦略定石分析)を元に、適合する市場セグメンテーション(提供している商品・サービス毎の市場選定)、ターゲット市場の決定(ターゲットとする具体的な市場決定)、マーケティングミックス(4つの視点からマーケティング戦略立案)についての解説があった。更に顧客の絞り込みについてもイメージ図で示されていた。
 誰に何をどのように提供するかのアプローチとして、Value Proposition Designというものがあり、Value Map(Create Map価値を創造する)での考え方、Customer Profile(Observe Customers顧客を観察する)でのポイントなど、2つが上手くFitすることで「本当のところ誰に何を売るのか」が見え、より高い価値を生み出せるようになるとのことであった。これには「こうやればできますよ」というような法則や定型的な手法はなく、戦略構想において最も個人の洞察と創造性を要する仕事である。参考として、その顧客を観察する上で役に立つ、(顧客との)共感MAP(顧客になり切って、五感で顧客と共感してみるアプローチ)と、Value Proposition Designの書式を紹介いただいた。
 
5 ) 事業変革の可視化(ビジネスモデルの仕上げ)
   既存の領域におけるビジネスモデル、ビジネス環境の変更に対応したビジネスモデル(Zoom out)、特定顧客、新製品・サービスに向けたビジネスモデル(Zoom in)など、どこからスタートしてもよいが、最終的には価値に対する提案とならなければいけない。可視化のプロセスとして紹介いただいたのは、「PushとPull」というもので、「Technology Push型」(ソリューションを先に準備して、それを必要とする顧客の問題点をみつけるパターン)と「Market Pull型」(顧客の仕事、ペイン・ゲインから始める。つまり問題からスタートしてソリューションを見つけるパターン)のアプローチから価値を創出することであった。その「Technology Push型のビジネスモデル構築プロセス」の解説、続いて「ビジネスモデル構築の全体プロセス」について解説いただいた。
 最後に顧客の発見・確認・創出の方法、そして顧客の購買行動の変化を捉まえる方法である「SIPS」(来るべきソーシャルメディア時代の新しい生活者消費行動モデル概念)をご教示いただいた。
 
■ おわりに
 70頁に渡る大作、頁ごとの中身も濃く、可視化と事例の挿入によって大変明確で理解しやすい構成となっており、その惜しみない情報提供と労力に対して敬意を表したいと思います。企業の幹部の方々にも大変参考になる内容であり、多くの気づきの拝受、そしてあとで読み返すことで理解が深まる上質のものでした。
 2013年に開催の「PMフォーラム2013関西」(テーマ:世界を見つめる“日本型”事業創造人材を考える~産官学連携で人材モデル構想を!~)では、私が初めてリーダーとして企画・運営に携わる機会でしたが、そのときに講師は関西の代表幹事として全体を牽引し、私の不足している部分をご指導・支援いただいたことが思い起こされます。
 講師のPMAJでの長年の活動と貢献により、2015年度には優秀貢献賞を受賞されたことをお伝えするとともに、今後の益々のご活躍とご健康への祈願をもって、締めくくりとさせていただきます。

以上

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