関西例会部会
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第127回関西例会レポート

PMAJ関西 KP 朝田 晋次 [プロフィール] :5月号

【データ】
開催日時: 2016年4月8日(金) 19:00~20:30
場所: 大阪産業創造館 5階 研修室E
テーマ: 「事業コンセプトと組織~京都と上海で考え続けたこと~」
講師: 岸田 吉弘 氏/一般社団法人 京都発明協会 常務理事
参加者数: 15名(スタッフ3名含む)
講演概要:  
都道府県の外郭団体で、中小企業の経営支援という、民間ビジネスとは、180度異なる仕事を3年間経験しました。箱ものや補助金だけではなく、中小企業の支援需要を聞き、継続的、中長期的に何が必要なのかを、中心に施策を立案実行しました。その中で、中小企業海外進出支援事業での中国上海代表所の開設とその活用に至る事例をお話ししたいと思います。行政組織の中で、民間のビジネス感覚に合った動きをすると、これまで経験してきたビジネスの基本的な考え方の検証や確認が、改めてできたように感じます。リーマンショック後忘れがちな、中長期的な視点で事業を構築していくことの重要性を改めて感じた経験をお話しできればと思います。
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●はじめに
講師は製造装置メーカーに入社以来、製品開発や技術開発を担当され、その間プロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャーを務められました。研究開発組合の立ち上げ・運営なども経験されています。リーマンショック後の2010年から京都産業21に出向され、地元の中小企業支援に関わっておられます。本日の講演は、この京都産業21時代に中小企業の海外進出支援事業の一環として取り組まれた中国上海代表所の開設とその活用に至る事例を中心に半官半民組織での活動経験を紹介されました。

●京都産業21について
 公益財団法人 京都産業21(以下、財団)は、中小企業支援法に基づき各都道府県に1機関ずつ配置されている指定法人の一つで、京都府の外郭団体として京都府内の中小企業に対する経営支援事業を実施する機関です。
 110名の職員は、財団プロパー職員、京都府からの出向者、および京都大企業からの出向者がそれぞれ1/3ずつで構成されています。
 年間予算は30億円から40億円ですが、ほとんどが京都府予算となっており、多くの事業は京都府が立案した施策を実行するものになっています。設立当初は、企業連が出し合った基金を元にした運営予算も組まれていましたが、低金利時代に移ってからはこの予算枠が殆どなくなり、京都産業21独自事業は出来なくなっています。
 中小企業への経営支援の中身は、発注企業の開拓、伝統産業・工芸品の販路開拓、物産品の販売先開拓などの販路開拓の他、産学連携や産産連携、さらに農工商連携を図る連携強化の仕掛けにも取り組んでいます。産産連携では、試作品の注文を個々に得意技術を持つ中小企業が連携して請け負うネットワークである「京都試作ネット」がよく知られています。
 財団から委託された約30人の相談員が経営・技術その他に関する相談に応じており、各相談員があげるレポートのデータベースは、財団が各事業を実施する上での貴重な資産となっています。
 このような体制で3,500から4,000社の中小企業支援を行っています。
●財団の課題
 財団は京都府の施策を実現する多くの事業を運営していましたが、財団職員から見ると戦略やまとまりがなく、位置づけが分かりにくくなっており、やらされ感の中で仕事をしている傾向が強いようにみえました。
 経営支援においても個々の企業だけに対して行うことが多く、地域全体の底上げにはつながっていませんでした。
 また、財団から府へのレポーティングルートが定まっておらず、相談員らが吸い上げた中小企業のニーズを反映した政策・事業に繋がっていませんでした。
 これらは講師が財団に就任された頃に感じた課題です。職員マインドの変化など、現在ではいくつか改善されているものもあるとのことです。
●中国 上海代表所の開設
 講演の主題である財団の上海代表所ですが、講師が財団に就任されたときには、京都府から約1億円の予算が付けられていたものの、開設することだけが決まっている状況でしたが、現地の事情に明るく、太い人脈がある人材が見つかり、一等地である上海国際貿易センターに開設することができ、当時開催された万博最終週に開所式を行うことができました。
 質疑では「なぜ、中国の中でも一番コストがかかる上海に開設したのか?」という質問がありましたが、現地、現地と京都、現地日系企業の人的ネットワークが大きかったようです。当時、激しい反日運動が中国各地で隆起しましたが、上海では比較的早期に収まったことを見ると、うなずけるものと思いました。
 上海市内人口は2,500万人ですが周辺を含むと8,000万人の市場であり、中小企業にとってはこの地域で販売先開拓、受注先開拓して事業展開するだけで十分メリットはあります。日系企業も多数集結しており、有望な受注先となっています。
●財団の中期経営計画
 講師は、上海代表所開設・運営と並行して、財団の10周年事業と中期計画策定にも取り組まれました。中期計画策定にあたっては、組織目的の明確化をコンセプトに掲げ、財団の事業計画書から、各階層に落とし込める数値目標と達成手段を計画し、成果評価を行って次年度計画につなげることを進められています。
 この結果、職員のマインドも変化しているとのことでした。
●おわりに
 最終的な目標が利益に集約できる企業とは異なり、共通の目的・目標が見えなくなりがちな公益財団で、仕事の進め方に戸惑う暇もなく、中国上海での拠点開設に取り組まれた貴重な経験をお話しいただきました。
 講演では語りきれなかったところもあるようにうかがっております。質問などありましたら、当レポートのライターまでお問い合わせください。
●講演の様子
講演の様子

以上

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