PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(101)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :8月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●エンタテイメント創造の難しさ
 本稿100号で「エンタテイメント」とは、そもそも何か? 本論の源となるものは、そもそも何か? を一応明らかにした。しかし十分ではない。そのため前号で明らかにすると約束した。この約束は、本号を含め、今後順次明らかにしたい。

 本号で更に明らかにした事がある。「優れたエンタテイメント」を産み出す事は、科学、工学、事業がそれぞれ「優れた知」、「優れた技」、「優れた価値」を生み出すこととほぼ同じほど難しいと云うことである。並の知恵や努力などでは絶対に無理である。

 例えば、人を笑わせ、楽しませ、時に感動すら与え、同時に納得までさせると云う所謂「真のエンタテイメント」は、現在、日本のメディアに登場するお笑い芸人、お笑いタレントなどでは全く不可能であろう。

出典:ステージ・パーフォーマンス www.youredm.com 出典:ステージ・パーフォーマンス
www.youredm.com

 彼らがそれを実現できない理由は、彼らにその「能力」が十分に無いと云うことだけではない。能力がある人物が選別され、主要メディアに登場させると云う「仕組み(システム)」が無いためである。一方最近の多くの日本人は無料のエンタテイメントばかり味わう。その結果本物の「優れたエンタテイメント」かどうかを識別する目を失った。また識別しても、それ相当の「金」を払う気をとっくに失っているためである。

 以前にも述べたが、現在の日本のエンタテイメントは、余りにも「安い値段」で提供される一方、殆どのケースが「無料」である。しかも無料の背景には企業宣伝スポンサーが存在し、スポンサーの費用負担でエンタテイメントが提供されている。この提供プラットフォームはTV、PC、スマフォなどである。

 金を払ってエンタテイメントを味わう観客こそが厳しいエンタテイメントを要求する、無料の観客は厳しい評価など無関係、刹那的笑いで満足する。芸人もその様なレベルの低い観衆に慣れ、その芸を磨かない。その結果、真のエンタテイメントは生まれず、真のエンタテイナーも生まれない。

●本論の構成
 さて本論の過去、現在、未来の構成を簡単に説明したい。エンタテイメント論の第1号は2008年3月24日である。この時に考えた構成論は、今も変わっていない。第1部「エンタテイメント論の概要」、第2部「エンタテイメント論の本質」、第3部「エンタテイメント論の応用」である。現在が第2部の段階で近い将来、第3部が始まる。

 本稿の中で最大の長編となった個別テーマは「創造」である。「優れたエンタテイメント」を生むためには「創造の力」が不可欠だからだ。本稿の「6 創造」を最初に書いたのは第69号の2013年11月25日である。それ以来約3年を経過した。

 創造のテーマでのエンタテイメント論は、近々終わる予定である。しかし「エンタテイメント論の本質」の第2部はまだまだ終わらない。以前にも述べたが、筆者はエンタテイメント論の連載を要請された時、1~2年で終わると考えていた。しかしいざ始めると、それまで気付かなかったことが数多くあった。調査が不足していたことに加え、自分の考えが煮詰まっていない部分が散見された。そしてエンタテイメント論が持つ内容の深さと広さに圧倒された。そして今も圧倒されている。

●夢工学式発想法の「総括」
 「6 創造」の柱となる本発想法を近々終えるにあたり、本発想法の基本的考え方とは何か? 具体的方法論は何か? を是非思い出して欲しい。そして読者が目指す「夢」の実現にそれを役立てて欲しい。

 本発想法を簡単に概説すると、基本的考え方は「夢工学の本質」と「創造の本質」を認識することで理解できる。また具体的方法論は「発想促進法」と「発想阻害排除法」の一部、全部又はそれに活用者が加えた自分流の方法で実践することで体得できる。

 なお「具体的方法論」に関しては、筆者がその方法論を活用して実現した「実例」、即ち「岐阜県・世界淡水魚水族館プロジェクトと昭和村プロジェクト」を基に説明したい。

●岐阜県の「夢」
 梶原 拓・前岐阜県知事は、特に県の経済、産業、事業の振興に力を入れ、岐阜県民の「夢」を叶えることに政治生命を賭け、全身全霊で打ち込んでいた。

 その頃、筆者は、(株)セガの初の「ジョイポリス」を成功させ、「全国展開」をしていた。それを知った同知事は筆者を直接スカウトし、筆者に公務員試験を受けさせ、その合格を基に筆者を岐阜県理事(県の三役=知事、副知事、理事)に任命した(以前は出納長が居たため県準三役)。その結果、筆者は、県の全職員を部下とし県の経済、産業、事業の振興を最重要職務の1つとして県に奉職した。

 同知事は、筆者に対して特に地域活性化の起爆剤となる「新事業プロジェクト」の考案と実現に力を入れる事を強く要請した。その知事要請に応え、県民の「夢」も叶えるべく、必死で考え、悩み、苦闘した。多くの失敗もしたが、成功もした。

 成功したプロジェクトの中で発想作業の実例紹介として格好なプロジェクトを選択した。それが「岐阜県・世界淡水魚水族館プロジェクト」と「昭和村プロジェクト」である。この両プロジェクトで「発想促進法」と「発想阻害排除法」を如何に活用したかを以下に順を追って説明する。

出典:県の「夢」のシンボル・マーク 岐阜県の「G」をデザイン:点から線、線から面、そして未来へ拡大 岐阜県HP 出典:県の「夢」のシンボル・マーク
岐阜県の「G」をデザイン:点から線、線から面、
そして未来へ拡大
岐阜県HP

●世界バーチャル & リアル世界淡水魚水族館プロジェクト(以下略称:魚PJT)
>これは、岐阜県各務原市川島笠田町で実現、「バーチャル淡水魚水族館」として1999年開園、「リアル水族館」として2004年開園。現在も成功裡に実存する。

岐阜バーチャル&リアル世界淡水魚水族館プロジェクト

●岐阜・昭和村プロジェクト(以下略称:昭和PJT)
>これは、岐阜県美濃加茂市之上町に実現。2003年開園。現在も成功裡に実存する。

岐阜・昭和村プロジェクト


①優れた発想は、発想の「動機(夢、目的、欲求、好奇心、好きな事等)」の強さに比例して生まれる。

●発想の動機
 筆者は、梶原岐阜県前知事の強い要請に応えるだけでなく、新事業プロジェクトを発想し、実現し、岐阜県のシンボルマークの通り、知事と県民の「夢」を実現することが筆者自身の「夢」でもあった。従って「優れた発想」を実現させる動機は、最初から最高値であった。

 また開発の目的も極めて明確であった。しかし最大の課題は、全く新しい発想での新事業プロジェクトを如何に考え、実現させるかであった。動機は強かったので、様々なアイデアが自然に浮かび、優れた発想を得られるだろうと期待していた。しかし現実は厳しかった。

●基本コンセプト
①魚PJT

 岐阜県は、木曽川に連接した既存の河川公園で何か新しい地域活性化を実現したいと以前から建設省との関係からも保有していた。新事業プロジェクトを考えるなら「川」や「魚」が基本コンセプトになり得る。しかも「淡水魚」をプロジェクト対象にする考えは、既に知事の頭に中にあった。その結果、「淡水魚水族園」を作ることを基本コンセプトとした。

②昭和PJT
 知事と筆者は、知事室で二人きりの会話の中で、知事は「岐阜県には小さな大正村がある。愛知県には明治村がある。しかし昭和村は日本中どこにもない」と発言した。「川勝さん、昭和村を作ってはどうかと思う。何とかならないか?」という事になり、その場で知事から実現して欲しいと下命された。候補地としては、美濃加茂市の県所有の小高い山林があったので、そこに作る事になった。

 「昭和村」と云う事は明確だが、その「基本コンセプト」を何にするか分からなかった。しかしそれを決め、実現することをすべて筆者に任された。その具体的中身はどの様なものでも構わないことになっていた(Anything OK)。

 筆者は、その知事命令を受けた時、甘くは考えてはいなかったが、良い基本コンセプトは必ず浮かぶだろうと予想していた。しかし現実は真逆で、その予想は根底から崩れた。そして毎日悩むことになった。


つづく

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