今月のひとこと
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いじりはするが、仕上げない

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :8月号

 今年の「土用の丑の日」は7月30日の土曜日でしたが、さすがに「土曜の牛の日」と駄洒落で宣伝するステーキ屋さんは見かけませんでした。PMAJの隣には有名な鰻屋があり、窓を開けると独特の香りが漂ってきます。子供の時分、父親が釣ってきて焼いただけの固いウナギに馴染んでしまったためか、この名店の柔らかいであろう鰻に食欲をそそられることはありません。やや寂しい思いがあったのですが、先日、同様の嗜好の方と出会い、ほっとしました。

 「いじりはするが、仕上げない」とは、瀕死の状態にある某団体の改革に向けた論文の中で見かけた言葉です。自らの力で立ち直ることができない団体には、そんな幹部しかいないのだそうです。画期的かもしれないアイデアをどんどん生み出すのですが、アイデアの実行は部下任せです。部下が苦労して成し遂げると自分の手柄、行き詰ったら関係ないという態度をとる上司。どこの職場でもこんなタイプを見かけますね。
 こうした困った幹部がいるわけでもないのに「いじりはするが、仕上げない」状態が生じているのではないかと気になっていることがあります。PMに関わるようになって、随分になりますが、ずっと気になっているのです。
 「プロジェクトには始めと終わりがある」とされています。しかしながら、目標を達成していない、すなわち「仕上げない」ままに「終わり」となっているプロジェクトが多いように思えてならないのです。
 例えば、建物の建設やシステムの開発等を請け負った会社では、成果物の引渡をもってプロジェクトの「終わり」としているようですが、プロジェクト全体の中では、調達のマイルストーンを一つ通過したに過ぎません。
 「ホテルを建てる」プロジェクトの「終わり」はホテルがオープンした時、あるいは運営が軌道に乗るようになり客室稼働率が目標値をクリアした時、一流ホテルとしての評価を得られた時などいろいろ考えられます。建物を引き渡した時を「終わり」とすることはないのではないでしょうか。建設会社の立場では建物引き渡しがプロジェクトの「終わり」となるのかもしれませんが、「ホテルを建てる」プロジェクトは「仕上げ」られていません。
 ホテルの建物建築プロジェクト、従業員訓練プロジェクト等と複数のプロジェクトを「ホテルを建てる」プログラムのプログラムマネジメントが有機的に管理しているのだという整理の仕方はあります。この場合でも、各プロジェクトはそれぞれに「仕上げ」られて「終わり」になるはずです。建物建築プロジェクトでは、ホテルの建物に求められる要件に基づいて設計施工し、完成してオーナーに引き渡します。従業員訓練中に建物に不具合があって建物建築請負契約上の瑕疵担保責任を適用することがあっても、建物建築プロジェクトは既に終わっています。「仕上げない」ままに「終わり」にしたということにならないのでしょうか。
 プロジェクトチーム内に全ての分野の担当者を取り込めずに、特定分野を調達として外部委託するケースは多いと思います。委託先社内のプロジェクト目標は、委託元のプロジェクト目標に整合させているはずですが、別物です。外部委託先がそれぞれの社内プロジェクトを仕上げたとしても、プロジェクト全体として仕上げたことにはなりません。実態としてはプロジェクトの大半を占める外部委託先が、プロジェクト目標とは異なる目標を掲げて活動しています。「いじりはするが、仕上げない」状態になっても、不思議はないですよね。

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