理事長コーナー
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「人生がときめく『プロジェクト』の魔法」

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :7月号

 『人生がときめく片づけの魔法』がミリオンセラーであることはご存じだと思います。大変話題になりました。著者の近藤麻理恵さんは、既婚で一女の母です。何と、大学生の時から自称「片づけコンサルタント」として活躍し、就職後もそれを続け、その後この本を出版され一躍世界中の注目を浴びました。米国の権威ある雑誌「TIME」2015年版artist部門にて「最も影響力のある100人」に選ばれたのです。現在は押しも押されもしない「日本」の「整理整頓に関するプロフェッショナル」です。一般社団法人日本ときめき片づけ協会の代表理事にも就かれています。同時期に話題となった「断捨離」の言葉を創った、やましたひでこさんにも感心しましたが、近藤さんもすごい。

 近藤さんによれば、「片づけは終わらせるためにある。片づけ自体が目的ではなく、『ときめく』大好きなモノだけに囲まれた理想の部屋で、思い描いていた生活をする」ための手段だという。「片づけのコツは『一気に、短期に、完璧に』。そして、「まずは『捨てる』を終わらせる」ことだ。その為には、(ここが重要です)捨てる前に「どんな風に生活したいか考える」。理想の生活だ。そして、その理想像を実現するためには、「ときめく」モノだけを残す。従い、片づけの優先度は、「残すモノ」であり、決して「捨てるモノ」ではない。「基準は来年も着たいかどうか」だ。「もったいない」は禁句だそうだ。選んだモノは普段から見える様に整理する。衣類、本類、書類、小物類、思い出の品の順に同じことを繰り返す。来年使うかもしれない、いつか読むかもしれないなどは絶対ありえないとして、捨てる。

 ここからがより重要だ。きちんとと過去と向き合って片を付ける。実家(倉庫)に送ることは禁止。過去よりも現在を優先。片付ける事により、やりたいことが見つかり、モノを通した自己分析となる。モノを捨てることで決断力が磨かれる。そして自信が生まれる。部屋と身体は繋がっており、部屋を片付けると痩せたりすることがある。感心の連続だ。(注:*1)

 この痩せるという段になって、突然、「熱力学第二法則」である「エントロピー増大の法則」を思い出した。以下、「熱力学第二法則-この自然界の基本法則は生命の進化を妨げたのではないのでしょうか」より引用します(注*2)

 世界的に有名な進化論者であり、熱心な反創造論者であるアイザック・アシモフは以下のように認めました。「第二法則を別の言葉で言うと、『宇宙は絶えず、より無秩序になっている』となります。そう考えると、私たちのすべてのことについて第二法則が働いているのがわかります。部屋を整頓するためには大きな労力が必要ですが、放っておけばすぐに、いとも簡単に散らかってしまいます。たとえ部屋に全く入らなくても、ほこりっぽく、かび臭くなります。家や機械、そして私たちの体を完全に調子の良い状態に維持するのは何と難しいことでしょう。そして、それらが衰えていくままにしておくのは何と簡単なことでしょう。実際、私たちは何もする必要がありません。どんなものでも全く自分で衰え、崩壊し、バラバラになり、すり減ります。このことが(熱力学)第二法則の意味です」。

 この引用部は、「科学の法則」の一部を易しく解説した内容で「変化しない自然界の原理」、あるいは「科学的に観察された現象であり、広い範囲で測定、実験され、知られる世界では不変であると繰り返し証明されてきたもの物理学の法則」とあります。ここまで来るとお分かりでしょう。片づけるということは、まさにこの「熱力学第二法則」に逆らう事であり、大量のエネルギーを消費することです。そして、近藤さんによれば、その事を為せば、「自己分析する機会」を提供してくれ、「決断力を育み」「自信が生まれる」プロセスを含むのです。

 さて、プロジェクトは何らかの目的・目標を達成するための価値創造活動です。誇張して表現すれば、「熱力学第二法則」に従って価値が劣化しつつある現在の対象を、その法則に逆行して、多大なエネルギーを消費し価値を押し上げ、価値を獲得する活動となります。必要とされるだけの膨大なエネルギーをかけないとプロジェクトは、その目的・目標とするところから劣化します。換言すると、プロジェクトは流れに任せ「放置する」と、必ず失敗に向かって「落下する」ということです。プロジェクトは、多大なエネルギーを犠牲としてはじめて達成され、プロジェクトマネジメントはその達成に向けた方法論である訳です。成功すれば、「自己分析する機会」「決断力を育み」「自信が生まれる」を提供してくれます。

 片づけることよりも、理想の生活像である「あるべき姿(To-Be)」をまず思い浮かべることから始めるというプロセスは、P2Mのミッションプロファイリングからプログラムデザインと進むプログラムマネジメントを連想します。そのプロセスでは「衣類、本類、書類、小物類、思い出の品」を片づけるプロジェクトが待っています。モノが散らかった「現在の姿(As-Is)」を良く観察し、予算や期間などを含む前提や制約条件に配慮し、子供が突然泣き出すような外乱を克服して、充分な洞察をへて理想像に向かうからです。『人生がときめく片づけの魔法』は、P2M適用のヒントを与えてくれるかもしれません。自分の家、部屋、本棚が「魔法」できれいになるかもしれません。「高い視点、広い視野(P2M)」で読んでみたらいかがでしょうか。

注 : 引用
*1 『人生がときめく片づけの魔法』まとめNAVERより引用 (20160630)
*2 CristianAnswers.Netより引用 (20160630)

以 上

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