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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~「空・雨・傘」で考える力~

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 外国人が集まる場で、今回初めて、ある framework を使ってプレゼンをすることを計画している。マッキンゼーなど のコンサルティング業界で広く使われている、「空→雨→傘」というフレームワークだ。はたして、うまくいくだろうか。
 方眼ノートトレーナーとして活動を始めている中で、「空→雨→傘」で考える訓練を、日々している。空は「事実」を、雨は「解釈」を、そして、傘は「行動」を指している。「空を見たら曇っている(事実)→ 雨が降りそうだから(解釈)→ 傘を持っていこう(行動)」という流れで考える。
 この「空→雨→傘」という流れで考えることは、簡単そうに見えて、実は難しい。まず、空の時点で、事実と解釈を混同させてしまうという、思いがけない落とし穴があった。例えば、「残業が多くて大変です。」という文章。「大変です」というのが私の思いであることは、容易に理解できる。しかし、「残業が多い」というのは、どうだろうか。残業が多いと私が感じているだけであって、事実は、例えば、「月xx時間の残業時間がyyヶ月もの間続いている」ということ。「月xx時間の残業時間がyyヶ月もの間続いている」という状況を多いと感じる人もいれば、感じない人もいる。
 誰かを説得したり提案を受け入れてしてもらったりするためには、まずevidence-based=事実ベースでしっかりと相手と握る必要があるのだ。今回のプレゼンでは、解釈を交えずに、事実を書くことを意識したつもりだが、海外の人達は、それらをfacts として見てくれるだろうか。もちろん、世の中に多数存在している事実の中から、どれを共有する事実として取り上げるか、選ぶ時点で、私の解釈は入っているのだが。
 各人で異なることが前提となっている解釈にも、落とし穴がある。無意識のバイアス=偏見、だ。自分では事実に基づいて正しく公平に判断しているつもりでも、無意識のバイアスが邪魔をする。環境や社会から受けてきたメッセージ等により、例えば人種や性別に対する偏見や思い込みを持っているらしい。この無意識のバイアスによる社会への負の影響を減らそうという動きが、欧米を中心に盛んに行われるようになってきている。例えば、無意識のバイアスが存在していることを知り、判断や解釈をする際にその影響をなるべく排除するためにどうしたらいいかという研修だ。私も国内で、この研修をファシリテートしている。「目から鱗でした!」という感想を述べる人が毎回数名はいる。
 3番目の傘の部分に該当する行動力。ある研修会社によると、問題を解決するさいに、How、どうやったらいいか、に一足飛びに行きがちな思考が、一般的にある。その傾向からすると、行動は簡単そうに見える。しかし、結果が出る形で、迅速にきちっと行動することが果たしてできているだろうか。私がいる職場では、「やったほうがいいよね」と皆が思っていることでも、実行されないことはある。人を巻き込まない、自分だけでできる行動なら簡単か、というとそうでもない。意思の弱さの影響を受けるからだ。例えば、先月までコーチングの研修を受けている中で、優れたコーチになるために、質問力向上というテーマを掲げた。そして、質問力を向上するために、日々実践する5つの行動を決めた。しかし、恥ずかしながら、数週間のスパンで振り返った時、ほとんど、日々の実践はできていなかった。優れたコーチになりたいと思っていたにもかかわらず、だ。コーチングのセッションの前に慌てて、意識をするぐらいだった。
 さて、「空→雨→傘」のフレームワークを使った外国人へのプレゼン。通常だと、冒頭にアジェンダを見せて、カバーする項目を並べるのだが、今回は、冒頭で流れを見せた。まず factsを共有し、次に、So what? だからなんなの?について話をし、最後にNow what? どんなアクションを取ったらいいのか、を皆で議論する。この流れ自体は、個々のつながりがあり、皆さん違和感はなかったようだった。実際に、factsを共有し、次に、So what? だからなんなの?について話をするところまで、極めてスムーズにいった。最後のNow what? どんなアクションを取ったらいいのか、については様々に異なる意見が出たが、ここはもともと意図していたところだった。「空→雨→傘」の流れにしたことで、一番時間を費やしたかった議論に、多くの時間を割くことができたのだと思う。
 ということで、今回のトライアルは、成功した。これを機に、どんどん活用して、フィードバックももらい、思考力や伝え方をブラッシュアップしていこうと思う。「空→雨→傘」、あなたも使ってみませんか。

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