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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~具体的に伝える力~

井上 多恵子 [プロフィール] :5月号

 「Taeko、あなたが書いたメールだと、受けとった人は、何をしたらいいのか迷うと思います。その結果、あなたは、必要な情報を得ることができないかもしれません。何をしてもらいたいのかを具体的に書いたメールを、追加で送ることをお薦めします。」先日、アメリカの同僚から届いたメールの内容だ。うーん、そうきたか、、、レジュメに関してアドバイスをする際に、「相手に分かりやすく伝わるように書いてください。」と、常に言っている私が、業務で相手を迷わせるような文章を書いていたとは!同僚からのメールは、私の心にぐさっと刺さった。どうしてこんなメールを受け取ることになったのか、その背景には、こんなことがあった。
 ある仕事に関して、複数の海外の会社から届いた提案書。その内容に関し、この件に関連する社内の海外の人々からコメントをもらおうと思ったのが、発端だった。実はその時点では、内心、「趣旨が異なるコメントが複数きたら、上手くまとめて、皆が納得する形で合意に達するのは難しそうだな」と、消極的な気持ちになっていた。だから、「積極的にコメントを出してください!」という口調ではなく、「決定するために参考になる意見があったら、送ってください。」という控えめな調子の依頼を出したのだ。正直、あまりたくさんコメントが来ないほうが、その後が楽でいいな、なんて考えていた。
 そんな気持ちを抱いていた私が出したメールに対して、受け取ったのが、上述したメールだった。私の気持ちを見透かしていたのだろうか。そこには、「具体的に書かないと、受け手も他の仕事で忙しい中、優先順位が下がってしまいます。私自身も、優先順位を下げようと思いましたから。でも、あなたは皆さんからのコメントが必要ですね。だったら、優先順位を上げるような書き方をしたほうがいいです」とも書かれていた。いや~。勉強になった。海外の人達とやり取りをする際には、特に、依頼事項の重要性をきちっと伝えることで、優先順位を上げてもらう必要があること、そして、何かをしてもらいたいなら、相手がそれをしやすいように、具体的に、依頼すると効果があるということを改めて、学んだ。
 彼女のアドバイスを受け、追加のメールに添付したのは、受け手がコメントを送りやすいようなインプットシート。各提案の「強み」と「弱み」を書けるような欄が入ったエクセルシートを送ることで、そこにそのまま書けばいいようにした。強みと弱みという項目名を書いたので、「何を書けばいいのか」が明確になった。その結果、多くの人々が、コメントを送ってくれた。それをもとに電話会議を皆でしたのだが、そこでは、言いたいことを各自が言える場を設けることの大切さを、改めて実感した。自分の意見を聞いてもらえる場がないと、特に海外の人はフラストレーションがたまり、かえって物事を円滑に進めることができないのだと理解した。
 数日前に、別の依頼メールを送った。二つに絞った案の中から最終的に一つに決めるためのメールだ。今回は、極めて具体的に、いつまでに、何のために、何をしてほしいか、どういう形でコメントを出してほしいか、電話会議の目的は何で、各自に何を期待しているのか、Please be prepared to discuss (~を話す準備をちゃんとしておいてください。)と、少し強めの口調で書き、会議への参加依頼も一緒に送った。結果は、会議への参加依頼は全員が承諾。問い合わせ件数は“0”。実践を通じた学びは強力だ。PDCAをまわすことで、自分が書く依頼文の効果が高まったことを実感できた。
 具体的に伝えるということを常にできるといいのだが、なかなかそうはいかない。先日も、スキンクリニックで、ドクターから、こう言われた。「あなたの説明は、とても曖昧ですね~」私はこの時、数年前に同クリニックから提案された瞼の下のたるみを取る方法について、その施術を受けなかった理由を説明しようとしていた。「知人や夫に相談したら、後々、何が起きるかわからない=顔が変な状態になるリスクがある からやめたらと言われたからです。」と正直に伝えたところ、「曖昧だ」と言われたのだ。客の立場でここまで言われるというのは、びっくりしたが、ドクターが呆れてしまったからかもしれない。彼は、絵も描きながら、整形手術との違いを丁寧に説明してくれた。その時は理解した説明だが、記憶はまた、曖昧になっている。ドクターが絵を描いた紙を渡してくれていたなら、正しい知識を持っていられたのに、、、
 ともあれ、具体的に伝える力を身につけると、役立つ。これは、私自身の体験からも、言うことができる。あなたは身につける努力をしていますか?

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