PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(99)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●発想阻害排除法 ④ その2
 優れた発想は、発想を阻害する「環境」を排除し、発想に集中する事に依って生まれる。


●対人関係の精神的阻害要因は「優れた発想」の敵
 前号で日本人の対人感情の問題を取り上げ、その問題解決の方法として「ダライラマの議論」と「円卓の騎士の議論」を紹介した。

 筆者が前号で最も主張したかった事は、如何に優れた「発想法」が世に中に編み出されたとしても、如何に「優れた人物」がその発想法を駆使したとしても、当該人物が対人関係で精神的阻害要因を持っている場合または精神的阻害要因を持った環境下にいる場合、「優れた発想(思考)」は絶対に生まれない。まして「優れた発汗(行動)」に至らないと云う事である。

●異質への抵抗感と権威主義は「優れた発想」の敵
 自分と異なる考え方を持ち、異なる行動をとる人物に強い抵抗感を持つ日本人が多い。また田舎者根性、島国根性も異質性への抵抗姿勢の一つで、今だに国際性を欠く日本人との批判が日本の内外に実在する。

出典:会議での異質への抵抗? Fstonecoldmagicmagazine.com 出典:会議での異質への抵抗? Fstonecoldmagicmagazine.com

 これらの抵抗感や島国根性は「優れた発想」を行う事を根底より妨げる。これは周囲の環境だけでなく、発想する人物自身がそうであると「優れた発想」を生み出せない。

 また権威に弱い社長、社長の威を借りて権威を誇示する中間管理者、研究実績よりも国、学会などの権威に頼る学者、権威に弱く、非権威者(一般人)に横柄なジャーナリスト、大企業重視性、重厚長大主義など「大樹に寄りかかる人物」は、特に官庁、大企業、大学、大病院などに数多く実在する。

 彼らは元来「優れた発想」そのものが出来ない。そればかりか「優れた発想」に基づく「優れた発汗」をする人物の行動を妨害する事が多い。何故なら「優れた発想」と「優れた発汗」によって彼らを支える権威が崩れる場合が多いからである。

●現状維持は「優れた発想」の敵
 異質への抵抗感、権威主義は、己の身を守ろうとする行動から生まれている。言い換えれば、己の地位を「安心、安全、安定」して保持できる現状ならば、ますますそれを維持したくなる。またその現状を肯定する権威が存在すれば、その権威に依存したくなる。

出典:Status Quo(現状維持)Interruptions-Status-Quo-Suffering Com 出典:Status Quo(現状維持)
Interruptions-Status-Quo
-Suffering Com

 大組織に蔓延する官僚主義、先例主義、形式主義、業界横並び主義なども、上記の「安心、安全、安定」の現状維持主義から生まれる。

 「優れた発想」とその実現のための「優れた発汗」を妨害する人物は、どの様な組織にも実在する。当該人物は、自分の指示に必ず従う子分を作り、組織内にインフォーマル・グループを巧妙に秘密裡に作る(悪夢工学が定義するB型タイプとC型タイプの陰謀)。企業不祥事はこの様な連中が引き起こす。まかり間違っても企業風土が起こすと云う学者の説など当てにしてはならない。

 このグループは「優れた発想」と「優れた発汗」が自らの地位を危うくする場合、妨害と抹殺の工作を実行する。その工作方法は簡単。「優れた発想に依る新事業プロジェクトはリスクが大きい。推進すると失敗する」と社内政治によって潰す。新事業には誰しも「不安、不安全、不安全」な感情を抱く。この感情を利用する。

 加えて「自社が最も得意する既存コアー事業を優先し、限られた会社資産をそれに投下し、発展させるべき」と声高に主張する。「経営リスク」を避け、「コアー事業」を訴える現状維持は説得力を持つ。かくして「優れた発想」も「優れた発汗」も闇に葬られてしまう。

●失敗を許さない経営は「優れた発想」の敵
 日本の経済バブルの崩壊による膨大な損失と悲劇を体験した企業の社長、取締役、管理者、一般社員は、「失敗を恐れ、失敗を許さない」と云う基本的考え方を骨の髄まで染みこませた。

 その当時の管理者や一般社員は、その後、多くの企業の社長や取締役になった。そして彼らが指導した部下の管理者や一般社員も、その後、多くの企業の社長や取締役になった。かくして現在の多くの企業の社長や取締役は「失敗を恐れ、失敗許さない」と云う基本的考え方を受け継ぐ結果になったのである。

 「失敗を許さない経営」と言えば、納得性があり、誰にも説得力を発揮できる。その結果、「失敗しても良いから優れた発想と優れた発汗をせよ」と命じる経営の意思決定は極めて生まれ難い。「確実に儲かる方法」でしか事業を進ませないと云う「不文律」が社内にあると、新しい、自由で、優れた発想は生まれず、全てが「今のまま」で推移する。

 しかし世界は激動しているのである。変わらないのは現状維持の企業だけである。その結果、確実に世界から取り残される。これは日本の企業だけではない。日本国自体が取り残されつつある。現状維持は最も危険で「不安、不安全、不安定」な選択である。

●不確実な激動の世界こそ「優れた発想」と「優れた発汗」の味方
 長い歴史を持つタイプライターは、コンピューターのワードの出現で世界中から「あっ!」と言う間に消え去った。現在の様々なメディア(情報伝達手段)も今後確実に生まれる新しい革新的メディアの出現で世界中から「あっ!」と言う間に消え去るであろう。

出典:タイプライター & PC Yahoo USA
出典:タイプライター &  PC Yahoo USA

 以上の事から言える事は、「優れた発想」があれば、それが「不安、不安全、不安定」と思われても、言い換えれば不確実性が高い発想であっても、「失敗しても良いから、取りあえず試す」、「失敗したら修正すればよい」と云う所謂「リアル・オプション理論」に基づく意思決定を行い、「優れた発想」を「優れた発汗」で実践すべきではないか。

 上記の様な意思決定に基づく挑戦をする企業は、将来の「夢」を描ける企業でもある。成功したら膨大な果実を獲得する。しかし失敗しても最初から失敗を想定して挑戦するので膨大な損失を被らない。しかも失敗しそうになった時や失敗に至る過程で様々な修正や対策が可能になる。

 その結果、所謂「夢実現型企業」は、不確実だからと意思決定しなかった又は確実に儲かる事業ではないと投資しなかった所謂「現状維持型企業」より遥かに多くの成果を得る。また失敗による修正や対策をやった経験は、数多くのノウハウを与えてくれる。それが次なる挑戦に役立つ。

●真のビジネス・イノベーションを引き起こす「優れた発想」と「優れた発汗」
 日本の経済バブルが崩壊し、現在に至る「過去の失われた30年間」、日本の経済、産業、事業は根底から疲弊した。往時の国際競争力を失っただけでなく、世界最低の総合起業率の国と変質した。

 多くの学者、評論家、ジャーナリストが様々な楽観説や悲観説の日本論を展開している。しかし筆者は以前から現実論としてある事を主張してきた。それは「日本はあらゆる分野で構造的危機に直面した。もし自己改革(革命)を断行せず、「今のままで(現状維持)」で推移すると近い将来アジアの小国に凋落する。最悪の場合はギリシャ国より悲惨な債務超過国家に没落する」である。

出典:ギリシャ国の悲劇 pavlostsimas/greece-referndum
出典:ギリシャ国の悲劇
pavlostsimas/greece-referndum

 日本の構造的危機を救う唯一の手段は、日本の経済、産業、事業を根底から復活させ、「夢のある日本」を築くことである。そのためには「真のビジネス・イノベーション」を成功させる必要がある。それは経営改革、組織改革、人事改革、意識改革と言い換えてもよい。それらの「成功の鍵」を握っているのが「優れた発想(思考)」と「優れた発汗(行動)」である事は言うまでもない。

つづく

ページトップに戻る