今月のひとこと
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 教師も不正解 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :6月号

 当たり前のことですが、夏は暑いですね。急ぎ足だと汗をかくので、そろりそろりと歩いています。汗をかきやすい体質にすると、暑さへの抵抗力が強くなるといわれます。汗を抑えたら、暑さへの抵抗力が弱まり、健康にも良くないと思うのですが、制汗剤のコマーシャルが夏に増えるのが不思議です。不思議のまま、放置している夏の疑問です。

 小学生の頃、多分5,6年生の頃だと思いますが、貨物列車が何を載せているかを挙げるという授業がありました。木材、石炭、石油、牛、馬などと一人ずつ発言していきました。編集子は「自動車」と答えました。自動車運搬専用の貨物車の写真を図鑑か何かで見たばかりで、級友たちは知らない最新情報のはずでした。多分、得意げに発言したのでしょうが「それはどうかな」と先生に注文をつけられました。先生は完成した車を運ぶのは空間が空きすぎてもったいないから、そのような貨車はあり得ないというのです。「皆も自転車屋さんが、自転車を組み立てているのを見たことがあるだろう。自転車屋さんは、工場から運ばれてきた小さく箱詰めされた部品を組み立てて、皆のお父さんお母さんに売っているんだ。自動車も部品を箱詰めして小さくして運ぶに決まっているじゃないか。残念ながら君の意見は間違っている。」
 1960年代の九州の地方都市の小学校での話です。バスが通る道も舗装されておらず、自家用車を持っているのは医者ぐらい、どこで自動車を売っているのか級友の誰もが知りませんでした。先生はバイク通勤だったので、自転車屋はよく知っていたでしょうが自動車販売店には入ったこともなかったと思われます。当時の社会では、数万点の部品を集めて自動車を製造する自動車産業というものを認知していた人は少数派です。自動車部品を製造する会社を想像できても、部品を集めて自動車を組み立てる会社があるということを、先生は想像できなかったのです。だから、自動車専用の貨物車が存在しないと考えるのも無理のないことでした。
 この出来事をいまだに覚えているのは、先生に反論できなかったことが相当に悔しかったということもありますが、先生が「正解」でないことを教えることがあると初めて覚ったからではないかと思います。その後も、様々な先生に出会い、様々な「不正解」な指導を受けました。例えば、スポーツの世界で身体を傷つけるリスクが高いとして、今では殆ど行われなくなった「うさぎ跳び」や「運動中は水を飲むな」です。

 学校の先生、協会の講師、教会の牧師など、人に何かを教える教師が「正解」でないことを語るのは稀なことではありません。極端な例では戦時中の「神国日本」教育があります。現代でも、地球は丸いという地動説は嘘で天動説が真実だと教える教師が世界中に大勢います。
 それでも、教師がいうことを、深く考えることなく信じていたというようなことがあります。「『正解』が何かは既に決まっていて、教師は常に『正解』を教えている。」と思い込んでいるようなことがないでしょうか。

以上

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