PMRクラブ
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プロジェクトマネジメントと人事制度の序論

(株)日立国際電気 人事総務本部 人財戦略部 森 邦夫 [プロフィール] :6月号

1.はじめに
 今回、2016年3月8日(火)に開催された「第19回 PMRクラブ」において話題提供させて頂いた内容からご紹介致させて頂きます。
  最初に、このテーマを選んだ理由からお話ししたいと思います。PM有資格者の多くは、開発・設計部門等の方が多い中で、自分の立場-人財開発担当-は珍しく、その立場に相応しいアプローチがあるだろうと思い、このテーマを採り上げました。但し、本稿ではプロジェクトマネジメントと人事制度の関係を考慮して、是々非々を述べることを目的とはしておりません。あくまでも、普段この関係性について考えることが少ないと思われるため、挙げてみました。まず、その方法ですが、PMRクラブの皆様にアンケートして、任意に回答を頂いた内容のご紹介と、そこから思うことというプロセスで述べたいと思います。尚、アンケートの回答数が限られているため、ここでは定量的な回答は控えたいと思います。(尚、ご回答頂いた中に「PM」「プロジェクトマネジメント」の表記に個人差がありましたが、回答して頂いた方のご意志を尊重して、そのまま掲載致します。むろん、回答された方の会社名・氏名は掲載致しません。同時に弊社の実情を語るものでもないことも、併せてご了解願います。
2.PMRクラブの皆様に対する質問内容と回答について
  まず、PMRクラブのメンバーの皆様に、以下の質問に答えて頂きました。
Q1 人事制度について、人事部門から「理念、制度、運用」の説明を直接受けたことがありますか。
(メールや紙媒体の連絡ではなく、研修や説明会のようなフェースツゥーフェースの説明)
Q2 今の人事制度について、プロジェクトマネジメントを行う場合、どういう面に不備がありますか。
Q3 今の人事制度を実際に運用する際、プロジェクトマネジメントを行う場合、どういう面に不備がありますか。
Q4 上記以外について、人事制度とその運用と言う観点から、ご意見有ればお願い致します。

【Q1の主なご回答】
回答者のほとんどの方から、人事部門からの説明があったという回答がございました。また、人事部門以外では、管理職からの説明があったという回答も若干ございました。特記事項としては、ITSSに準拠した人事制度を導入された会社があったことです。
【Q2の主なご回答】
PM手当により、PMrとして権威化したが、手当と妥当性が不十分で廃止。
数十年継続しているコア事業には問題ないが、新規・周辺事業への進出では問題あり。ゼネラリストが少 数←事業部内の専門職系の育成のため事業部門をまたぐプロジェクトを担当する人の評価基準がない。
PMのスキルが把握されず、PMのレベルが組織として向上しない。
所属部門によって、定量的な評価が異なる面がある。
成果主義に移行して指標設定が難しく、透明性に欠ける。
人事制度は半期・1年だが、Prjは複数年もある。評価が難しい。
会社のビジョンや文化と併せた議論が必要。
人事制度は汎用的なものであるので、PMに特化したものではない。
不備を感じない。
【Q3の主なご回答】
「Q2の回答と同じ」と言う回答が複数ありました。これは、出題者側である森の説明不足でした。制度と運用は一体となっているかという面を、もっと前面に押し出して質問すべきでした。それでも以下の回答を頂きました。
タスクフォース型チームで、部門横断的なチームの場合、運用・調整に時間を要す。
もっとメリハリのある評価をつけたいが、全体調整が入ると平均的な評価に落ち着く。
PMの成果を評価する制度が不備なため、PMのスキルが把握されず、PMのレベルが組織として向上しない。
PDCAがうまく実施されていない面があること。当初の「P」より変更があった場合に適切な評価がなされないこと。
処遇制度の改革は人事部門の責務。運用は各マネジメントラインの責務。しかし、処遇制度の改革の成果が見えにくい。各マネジメントラインとしてインセンティブに徹底するものの、全体としてどのような成果がでているのか分かりづらい。
万人向けの制度であるので、特例を制度として組み込むと根幹が歪む危険がある。別制度が可。
PM人財の要件となるスキルや意識を測るモノサシを作る。しかし、評価者、評価結果、報酬の妥当性と言う面で問題が残る。
不備を感じない。
マトリックス組織で運営していると、人事権(特に査定・評価)が無くて困ることがある。プロジェクトの全体最適よりも、所属する部門の上司の方を向いた物事の発想をするケースあり。状況が厳しい時、トラブルの時ほどこの傾向が出やすい。
交代制勤務・残業対応など、通常の人事制度では対応できないケースあり。〇〇協定では対応できないことも。
【Q4の主なご回答】
HRシステムスパイラル(採用→育成→配置→評価→報酬→退職)が外部環境変化に対応できていない。或は大幅に遅れることがある。
人材の有効活用と言う観点から、適材適所が進む制度と運用が少ない。
目標設定とフィードバックについて個々のコミュニケーションに加え、組織としての個々の機能について、組織全体としてのフィードバックするコミュニケーションが必要。
時代と共に、制度は変えていく必要があるが、実態として、制度そのものよりも、運用に問題あり。
やはり、運用する人の多くが人事制度をよく理解していない。意図した設計思想通りに運用していないことに問題あり。
全社の制度で難しい場合は、事業部の特色を反映した制度で保管することも有効。

 プロジェクトマネジメントと人事制度についてのQ&Aは以上です。実は、ここからは人事制度から離れて実務上の観点から次の質問をさせて頂きました。
Q5 各種の社内規定は、プロジェクトマネジメントを行うにあたり、適した内容と思いますか。適していないとしたら、どのような内容についてでしょうか。
Q6 社内の組織は、プロジェクトマネジメントを行う際、どんな点がうまく行っていないと思いますか。
Q7 個々のプロジェクトマネジメントの範囲は明確にしていますか。
【Q5の主なご回答】
「特に不適となるような問題なし」と言う回答を複数得ました。
PMrの人・モノ・金の執行権、裁量権が大きくない。個別規定の適格性というよりは、考え方のベースから考え直さないとならない。大手エンジニアリング専業のようなPMを円滑に行う制度にあらず。
適しているとは思えない。定型的な規定でプロジェクト対応が可能と思っていない。一定条件以上のプロジェクトごとに、規定を追加すべき。
プロジェクトマネジメント、プロジェクトマネジャーの職務・職制がない。
個々のプロジェクトには適した内容だが、プロジェクト間の共有(リソース、技術情報)が充分でないと考えることから、プロジェクト間の規定が不十分。
従来にない組織形態、従来の組織の枠を超えた組織を採る場合、評価基準、評価者、評価方法が必要。
他社や他国と合同プロジェクトの場合、自社の規定だけでは評価できない。
「規定に定めること」「規定通りに遂行すること」と「自律して考え行動すること」のバランスが非常に難しい。プロジェクトで予期せぬことが発生することは常であり(勿論、その頻度は減少できるが)、前者に重きを置いた事業運営を実行してきた結果、後者が弱くなってきている。
プロジェクト業務運用規定があり、PM制に適した内容になっています。
PMに沿った業務遂行の標準や規定になっており、時代に合わせてアップデートしている。就業規則もPMを阻害するものになってはいない。
【Q6の主なご回答】
PMrの人・モノ・金の執行権、裁量権が大きくない。個別既定の適格性というよりは、考え方のベースから考え直さないとならない。大手エンジニアリング専業のようなPMを円滑に行う制度にあらず。
PMRクラブで意見交換を希望 (人事制度以外の代表的な事例)
撤退時の条件、意志決定、緊急時の外部事業者(協力会社等)応援体制、情報システム(内部システムへのアクセス)等
以前はマトリックス組織。現在は機能型組織。よって上長が部下を囲い縦割り傾向があり、PMrがメンバーをアサインするときに組織を超えた根回し・調整力、外部から要員を調達する力の有無に依存しているため、組織のことは気にならない。
現実の仕事ではPMをしているが、PMを意識せずに業務を遂行している。個人の経験値・力量に依存。
個々のプロジェクトには適した内容だが、プロジェクト間の共有(リソース、技術情報)が充分でないと考えることから、プロジェクト間の規定が不十分。
組織の所掌区分の明確化を推進した結果、プロジェクトチームメンバーで相互に補い合う気持ちが減少。
国内、海外ともに大体において問題なく行われております。
マトリックス組織で運営していると、人事権(特に査定・評価)が無くて困ることがある。プロジェクトの全体最適よりも、所属する部門の上司の方を向いた物事の発想をするケースあり。状況が厳しい時、トラブルの時ほどこの傾向が出やすい。
多種多様な機種でシステムを構成され、社内の多くの部署を巻き込むため、組織間のコミュニケーションは十分ではない。
【Q7の主なご回答】
「明確」と言う回答が複数ありました。
「プロジェクトごとに決まっている」と言う回答が複数ありました。
顧客単位で全体を見るマネージャーを置き、更には個々のプロジェクトの出荷まで見るリーダを配する形態。アフターはまた別の人をたてる。
顧客への引き渡しまで。
規定で明確。

3.アンケート結果から思う事
 Q1の『人事制度について、人事部門から「理念、制度、運用」の説明を直接受けたことがありますか。』ですが、どんなことに重点を置いて説明したか、聞いていたか気になりました。ほとんどは、査定の方法、等級、昇格要件という手法に関心がいって、説明者(人事部門)は、何を実現したくて、この制度を作ったかということをラインが意識していると、もう少し違う回答も得られたかもしれません。
 Q2の「今の人事制度について、プロジェクトマネジメントを行う場合、どういう面に不備がありますか。」についてですが、人事制度は人に対する制度、PMは業務を円滑に進める知識体系であり、そもそも双方が相互の整合性を考えて作られているケースは少ないです。これは周知の事実です。無理に合わせる必要はないのですが、PMとして成果を挙げてもそれが人事考課に反映されないとしたら問題ですが、現実は少ないのではないかと推察致します。但し、PMとしての成果の尺度が売上・利益だけでは、PM的視点による評価としては不充分と思います。
 Q3の「今の人事制度を実際に運用する際、プロジェクトマネジメントを行う場合、どういう面に不備がありますか。」についての回答で、「処遇制度の改革は人事部門の責務。運用は各マネジメントラインの責務」は会社によって反応の多様さを感じました。また、 「万人向けの制度であるので、特例を制度として組み込むと根幹が歪む危険がある。別制度が可」も同感です。しかし、基本は、人事制度の考え方に準拠したPMの考え方があることが望ましいと思います。そろそろ、双方を別々で考えるという視点から脱却したほうがよいのではないかと思います。(尚、アンケートの中には、そもそもこれは問題視するほどのテーマではないのではないかという意見もありました。) 更に、「マトリックス組織で運営していると、人事権(特に査定・評価)が無くて困ることがある。プロジェクトの全体最適よりも、所属する部門の上司の方を向いた物事の発想をするケースあり。状況が厳しい時、トラブルの時ほどこの傾向が出やすい。」は、このお気持ちは痛いほど理解できます。マトリックス組織の是々非々とは別に、何をご助言もできず申し訳なく思っております。

 さて、ここからは私からの問題提起です。その一つ目は人員構成についてです。
PMBOK®もP2Mも時間を超長期的に見ているとはいえません。プロジェクトの開始~終了が対象です。むろん、「開始~終了」については、いろいろな見方があり、このような単純な考え方には賛同できない方もいるかと思います。しかし、少なくとも次の現象を考えたとき、PMBOK®であれP2Mであれ、その運用にあたり、舵取り方法の変更を余儀なくされることはないかと言う点です。現象として、皆さんの会社の人員は、40代~50代前半に人が集中し、20~30代の若手・中堅が少なくないですか。人口減少問題は、伝統的な企業にはすでに顕著に表れており、仕事の仕方を変えるだけでなく、業態の変更までも視野にいれた検討を強いられることはないでしょうか。以下の記載は自明のことですが、これらを踏まえて「将来のPMの在り方」を考える必要はあると思っています。
外注比率が増える。⇒優秀な外注企業の取り合いから、外注費コストアップ
外注との仕事は、ブラックボックス等の難しい対応が求められる。名目プライムと実質プライムとか。
同時に高度な交渉力、コミュニケーション能力が求められる。
10年後、高齢者が大量に引退することで技術が消滅する。
高齢者が有する技術のうち、若手・中堅が引き継ぐべき技術・スキルに漏れが出てくる。
定年よりも早く、現役世代に訪れる「心の定年(諦念)」の問題がある。
「心の定年」にある人を抱えた年下の管理職は、これらの人をどのように社員をマネジメントするか。
孤軍奮闘している若手を放置していないか。
挑戦しがいのある仕事があるか。胸躍る仕事があるか。「高度成長期の日本」のような。
 問題意識の二番目は、タクソノミーにおける「人」。特にリーダについてです。
組織を支えているのは、「大部分の普通の人たち」です。優秀者(仕事ができるリーダ)が、「普通の人たち」に対して、尊大・威嚇・優位な態度を取っていないでしょうか。
 私が、戦後復興期を支えた「普通の人たち」を幼心に見た印象としては、「頑張れば明日がある。テレビが買える。冷蔵庫が買える」等の夢があったので、耐えられることができた。しかし、現在はそういうものに相当するものを見つけることが難しい。今日では「細分化され、複雑になった業務である一方で、標準化の進展、制度・コンプライアンス、報酬と地位は変わらず」が世間一般になっており、この状態で「普通の人たち」が高度成長期の人たちのように働いてくれるのか。むろん、比較する事が間違っているという議論もあるかもしれませんが。
 ここで必要なもののひとつとして、リーダとしての「徳」という部分はあると思っています。戦後の教育には、江戸時代の藩校で教えていた能吏になるための「徳」(例えば、論語・四書五経、日本では佐藤一斎等)を教える科目がありません。実は幕府は滅びましたが、明治維新になって藩校出身の武士は明治政府や各県で活躍しました。残念ながら、討幕に力を注いだ下級武士は、能吏としての教育を受けていないため、統治する知識・力量がなく、役職につけませんでした。これが下級武士の反乱につながりました。下級武士たちも能吏としてのスキルや「徳」を有しておれば、その未来は違ったと思います。
 問題意識の三番目は、個人の優秀さの合計は、チームとしての優秀さにつながらないのではないかという点です。これについては、別途機会を頂ければ書いてみたいと思います。
 問題意識の四番目は、やはり技術者としての「働く姿勢」の違いです。誤解のないように申しますと、覚悟の違いです。具体的な事例としては、心臓外科・執刀医(バチスタ手術)の覚悟に比べて、不具合慣れした(?)技術者の取組み姿勢との違いはあると思います。これは時代の新旧ではなく、プロ意識・使命感・覚悟・責任感の差です。今流でいえば、「技術者倫理」と言う括りですが、私自身、この言葉に少し馴染めません。こういう面を、きちっとすべての世代に教育しないと、実はPM教育も画餅に終わるのではないかと危惧しております。
 最後に、タクソノミーの該当項目を書いて終えたいと思います。現在のタクソノミーから「人」に該当する項目が三件ございますが、皆さんはどのようにお考えでしょうか。上記のことに同感と思われるでしょうか。PMの知識体系がどうしても「統治する側の視点が強い」と思うのは、私だけでしょうか。
●タクソノミーⅥ リーダーシップ型基準
  改革に挑む、意思決定ができる、オプションを適用する
●タクソノミーⅦ コミュニケーション型基準
  チームを維持する、メンバーを動機付ける、場をつくる
●タクソノミーⅩ 個人姿勢
  自己規律がある、倫理を守る、行動責任をもてる、前向きの姿勢がある
以上です。ご一読頂き、どうも有り難うございました。

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