PMAJ Networking(会員交流会)
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第17回 PMAJ Networking
「PM道中膝栗毛-Ⅱ」

坂井 剛太郎 [プロフィール] :5月号

はじめに
「膝栗毛」とは栗毛の馬の代わりに徒歩(膝)で旅行することであり、十返舎一九作の滑稽本「東海道中膝栗毛」そのものの略称でもあると聞く。2015年9月の関西例会では、各種プロジェクト取り組みの経験を「旅」に見立てて、P2Mの理解の深耕と活用の広がりを紹介させていただいた。今回はその資料をアレンジして、参加者各位の引き出しにある多種多様な知見を提供いただけるよう、話題を構成させていただいた。

1. 建築プロジェクトを通した伝承管理
建設工事は屋外一品生産という形をとっており、P2Mで「特定使命を受けて、資源、状況などの制約条件のもとで、特定期間内に実施する将来に向けた価値創造事業である」と定義されているプロジェクトの、典型的な例といえる。
入社以来、建築工事現場で山留工事や杭工事、鉄筋工事、外装タイル工事、型枠工事などの管理を中心に、先輩諸氏からの教えを受けながら、QC手法に基づくQ:品質、C:原価、D:原価、S:安全(、後にM:士気、E:環境保全)の軸での管理技術を身につけていった。
数年の経験で自信を深めていったが、後々PMを知って顧みると、担当していたものは所長(プロマネ)方針書に基づく重点実施事項の管理にすぎなかった。

2. PM手法を知らないプロマネ
入社6年目に海外赴任となり、名刺には「Project Manager」の肩書が入ったものの、PM手法を知っているわけではなく、QC手法に基づく改善活動を繰り返していた。タイとアメリカでの合計7年半の駐在を終えて帰国した時に直面して葛藤することになったのは、異文化対応経験から学んだプロジェクト全体像とは異なる、日本独自の制約条件の軽減文化であった。

図1. 帰国後のプロジェクトでの葛藤
図1. 帰国後のプロジェクトでの葛藤

一方、複数の工事プロジェクトを同時に管理する経験から学んだものは、プロジェクトの集約管理の効率化から成立していったと考えられる、ゼネコン(建設会社)の組織の構造であった。

図2. マネジメント・バイ・プロジェクトの成立過程
図2. マネジメント・バイ・プロジェクトの成立過程

3. PM手法との出会いと業務への展開
帰国後の葛藤に悩む中、新たな知識を身につけることで現状の打開を図ったが、財務、リスクマネジメントに続いて出会ったのがPM手法であった。工事現場での勤務についていた当初は、それまでやってきた工事管理要素との違いを理解できなかったが、その後の本社への異動に伴い、年代を超えた技術伝承の仕組みの構築や地域事業組織を超えた全社的活動において、改善手法だけでは対応できない課題解決活動への応用でPM手法の理解を深めることができた。課題の本質を見極めることから、制約条件の変化に伴うマネジメントの変更などの視点で全体像を見ることができるようになり、その後のフィービジネスの立上げや香港事業の方針転換などの業務で大きく役立った。

4. P2Mとの遭遇と業務での実践
活用経験から興味を深めて、当時のJPMFの活動に参画するようになったが、業務ではフィービジネスの継続とともに、生産性向上や特定分野への受注戦略などに取り組むことになり、まさに実践で手法を修得することになった。2003年には当時のPMCC認定のPMSを取得し、翌年末には現地法人の安定化というミッションを受けてアメリカに赴任した。ここではプログラムマネジメントの活用が実践できた。

図3. 事業運営へのP2M適用(案)
図3. 事業運営へのP2M適用(案)

アメリカからの帰任後は、地域事業組織の経営企画担当として各種経営数値分析やポートフォリオ作成などを実施、さらにはグループ内子会社の運営を担うなど、多くの変化に富んだプログラム & プロジェクトマネジメントを実践することができた。

図4. 事業展開戦略の基本コンセプト
図4. 事業展開戦略の基本コンセプト

5. P2M研究会を通した理解の深耕
業務における実践だけでなく、PMAJ関西の活動に積極的に関わり、P2Mに対する理解の深耕に努めた。中でも2012年に「中小企業のグローバル展開」のテーマで活動したP2M研究会では、プログラムマネジメントのライフサイクルアプローチである、「スキームモデル」、「システムモデル」、「サービスモデル」の理解を進行することができた。

図5. グローバル化プロセスとプログラムマネジメントの比較
図5. グローバル化プロセスとプログラムマネジメントの比較

6. P2Mワークショップ
五年にわたりその運営を担ったグループ内子会社では、P2M手法の修得を人的資源の能力開発の中核に据えるとともに、P2M資格の取得を奨励し、導入当初にはP2Mワークショップを開催し、自分自身の体験から「旅行」や「高額消費財購入」などの身近なテーマでの実践を行った。
「旅行」は「好奇心の充足」や「親孝行」、「リフレッシュ」などのミッションのための手段であるということや、時間や費用などの制約条件を内的(自責)要素と外的(他責)要素で整理し、フィージビリティ評価のスキームモデル、準備段階のシステムモデル、実施・反省段階のサービスモデルをワークさせたところ、夏季休暇でその効果を体感することができたのである。PM手法は業務の為だけにあるものではなくあらゆるものに応用できるものであり、P2Mにより目標成果の達成確率が高くなるという体験が役に立ち、PMCからPMSを目指す社員も現れるなど、急速にその効用が理解され浸透していった。

7. 今後の展開
現在は、新たなグループ会社での海外事業基盤の構築というミッションに取り組んでいるが、海外という市場が個々の国の集合体であり、そのひとつひとつの国での外的制約条件が複合的に変化し続けることと、それにより内的制約条件への要求が刻々と変化していることを実感している。複数のプロジェクトを同時にマネジメントするマルチプロジェクトマネジメントに対して、プログラムマネジメントレベルでのライフサイクルアプローチを同時並行的に行う、「コンカレントP2M」とも言えるマネジメント手法が必要となると考えている。その概念は、今後の実践の中で明確にしていきたい。

図6. コンカレントP2Mの必要性
図6. コンカレントP2Mの必要性

おわりに
今回紹介させていただいた事例を通して、PM手法自体はアプリケーションに対するアドオン機能のように使い方次第で大きな効果が期待できるが、そのためには元の専門性のスキルが必要と感じている。言い換えれば、PM手法そのものは修得できても、軸となる個人の専門性の知識と経験が異なるため、その応用展開力は簡単に比較・分類できないということである。P2Mスキルには個性があるのである。
そのためか、PMシンポジウムや例会などでの事例発表を通しても、自分のものにすることが難しいと感じている。P2MガイドブックやPMBOK®での共通項の定義の他に、他の方々の事例の理解を深めることのできるインターフェースがあれば良いのにと思うのは、私だけでしょうか。
最後に、Networkingに参加していただいた皆様と、運営に尽力いただいた事務局の方々に感謝の意を表して本稿を終わらせていただきます。

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