グローバルPM標準の潮流とP2Mの向かうべき方向性
PMAJ理事、PMAJ PM研究・研修部会 副部会長 笠原 直樹 [プロフィール] :11月号
1 はじめに
プロジェクトマネジメントの重要性とその発展は留まるところを知りません。当協会から2014年4月にP2Mの改訂 3 版が出版されたのはご存知のことと思います。国際的にも2012年9月に ISO21500 「プロジェクトマネジメントの手引」 が制定公開されたのを皮切りに、2015年7月には ISO21504 「ポートフォリオマネジメントの手引」 (邦訳は未定) が制定公開され、プログラムマネジメント、PMガバナンスについても順次公開されていくことが予定されています。PMI® は2017年 1Q にPMBOK® ガイド 第 6 版の公開を予定しています。ヨーロッパを中心に世界61ヶ国の連盟組織からなるIPMA® はその標準の中核である ICB を2015年10月1日に Individual Competence Baseline 4 として装いを新たに公開しました。NetworkingではこれらグローバルPM標準の概観を説明し、それからP2Mの向かうべき方向性について参加者の方々との意見交換を行ないました。
2 各PM団体の標準体系について
2.1 PMI® の標準体系
PMI® はFoundational standardとしてご存知PMBOK® ガイド を中核に据えています。PMBOK® ガイド は、業界を問わず、多くの業種わたって適用できるPM標準の知識体系 (Body of Knowlesge) ガイドであり、現在第 5 版が最新版です。数多くのPM関連知識を収集し、整理し、体系化したものです。Foundational standard としては上位概念としてプログラムマネジメント標準、ポートフォリオマネジメント標準に加え、組織のPM成熟度モデルである OPM3® があります。さらには、特定の業界向けにはPMBOK® ガイド に対するExtension、Practice standard と Framework、Practice Guide、そして Lexicon というラインナップになっています。その概観を 図 1 に示します。

図 1. PMI ® の標準体系概観
2.2 AXELOS® の標準体系
AXELOS® は英国商務局 (OGC) を母体としてその標準類を普及展開する団体として設立され、OGCの持つ標準類を移管し、発展させてきました。日本ではITIL® がITサービスマネジメント分野で有名ですが、PM標準としてPRINCE2®、プログラムマネジメント標準としてMSP® (Managing Successful Programmes)、ポートフォリオマネジメント標準としてMoP® (Management of Portfolios) があります。その他にもマトリクスのようにカバーする形態で標準類を展開し、“Best Practice”を表明しています。その概観を 図 2 に示します。

図 2. AXELOS ® の標準体系概観
2.3 IPMA® の標準体系
IPMA® は国際プロジェクトマネジメント協会で、傘下に各国のPM団体がある連盟組織です。2015年10月15日現在で61ヶ国から構成されています。その中核は2015年10月1日に発表されたばかりの ICB 4、Individual Competence Baseline 4 です。ICBの最大の特徴はコンピテンスベースであることです。ICBにはPM、プログラムマネジメント、ポートフォリオマネジメントに係わる要員に求められるコンピテンスが記述されています。ICB 4 の概観を 図 3 に示します。
他にも組織コンピテンスベースライン (OCB)、プロジェクトエクセレンスモデルを発展させたプロジェクトエクセレンスベースライン (PEB) が2016年1月に新しくアナウンスされる予定です。
なおPMAJとしては前バージョンである ICB 3 の翻訳に関して協定を結び、翻訳成果を発表してきました。

図 3. ICB 4 の概観
2.4 GAPPSの標準体系
GAPPS は Global Alliance for Project Performance Standards の略で、PMなどの標準類やアセスメントのフレームワークを無償提供している団体です。他にも他団体のPM標準やプログラムマネジメント標準の比較をmappingと称して公開しています。GAPPSの標準にはプロジェクトマネジャー標準、プログラムマネジャー標準に加えて、プロジェクトスポンサー標準があり、さらにプロジェクトコントローラー標準を公開するとアナウンスしています。
2.5 ISOのPM関連標準体系
2012年9月に ISO21500 「プロジェクトマネジメントの手引」 が制定され、さらに2015年7月には ISO21504 「ポートフォリオマネジメントの手引」 (題名訳は筆者による) が制定公開されています。さらに、ISOではプログラムマネジメント、ガバナンスなどの標準化を精力的に取り組んでいます。他PM団体や標準類との関係ですが、例えばPMI® のPMBOK® ガイド 第 5 版は ISO21500 との整合性をとっています。ICB 4 でも ISO21500、ISO21504 との対応表を載せています。各団体はISOのPM標準類を意識していることは間違いなく、IPMA® や GAPPS のようにISOのPM標準類を制定する委員会にリエゾンとして積極的に参加しているところもあります。
2.6 PMAJの標準体系
ご存知のとおりPMAJはプログラム & プロジェクトマネジメント標準としてP2Mを公開しています。ミッションに基づき、ミッションプロファイリング、プログラムマネジメント、プロジェクトマネジメントの標準体系があり、それを支える事業経営基盤、知識基盤、人材能力基盤とカバーする領域は多岐に渡っています。特徴は数々ありますが、他の標準との比較という観点では、ポートフォリオマネジメントが事業経営基盤のツールであるという大きな違いがあります。
2.7 各標準の対象範囲の比較
各標準の比較については皆さまも興味深いトピックだと思いますが、ここでは簡単に各標準の対象範囲の比較を模式的に 図 4 に示します。

図 4. 各標準の対象範囲の比較
3 P2Mの向かうべき方向
Networkingの参加者は各界の有識者が集まり、筆者の想像以上に話題が盛り上がりました。そのすべてを紹介することは難しいですが、いくつかのトピックについて以下に示したいと思います。
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P2Mの先見性はプログラムマネジメントにある。 |
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PM関連の標準は認証とセットとなっていて、認証ビジネスが目的化しているきらいがある。 |
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日本の良さ、たとえば優しさや暖かみを活かす。 |
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循環型社会を目指す流れがあり、PMにおいても例外ではない。 |
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プロジェクトの成功とは何か? 事業価値を生み出すことが重要ではないか。 |
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近視眼的な成果を求めることだけではなく、ビジネスマッチングなどを通じて後年になって評価につながることもある。 |
4 最後に
プロジェクトマネジャーとしてはプロジェクトの成功に寄与することが求められます。それには各PM標準に記載されている字面の暗記や鵜呑みではではなく、状況に応じて臨機応変に活用する技量がまさにプロジェクトマネジャーに求められるのではないでしょうか。
Networkingの参加者には貴重なお時間をいただき有意義な議論ができたと思います。参加者の皆さまへはもちろんですが、このような場を設けていただきましたNetworkingの企画運営ご担当者の方々へも感謝の意を表し、本稿を終えたいと思います。
※ 登録商標について
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PMI, PMP, PMBOKは,Project Management Institute, Inc. (PMI) の登録商標です。 |
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IPMA, IPMA ICB, IPMA Level A, IPMA Level B, IPMA Level C, IPMA Level D, IPMA Delta, IPMA Project Excellence Baselineは,International Project Management Association (IPMA) の登録商標です。 |
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AXELOS, ITIL, RESILIA, PRINCE2, MSP, M_o_R, P3M3, P3O, MoP, MoV, P2MM は AXELOS Limited の登録商標もしくは商標です。 |
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P2M, PMAJは,日本プロジェクトマネジメント協会 (PMAJ) の登録商標です。 |
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その他,記載されている会社名,システム名,製品名は一般に各社の登録商標または商標です。 |
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