図書紹介
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天才
(石原慎太郎著、(株)幻冬舎、2016年1月20日発行、226ページ、第1刷、1,400円+税)

デニマルさん : 5月号

今回紹介の本は、発売の新聞広告が出たその日に書店で買って即刻読んだ。当初はここで紹介する積りは無かった。その内容が政界内部の暴露本的で偏った政治のことに触れたくなかったからだ。その後関連資料を調べてみると主人公である田中角栄氏に関する本が、最近多く出版されていた。昨年出版された「田中角栄100の言葉」(宝島社)がベストセラーとなり、今回紹介の本が既に45万部も売れている。更に、文藝春秋(5月号)では、「ロッキード事件後40年の田中ブームの秘密」と題する特集も出していた。それと著者と田中角栄氏との政治的ミスマッチが読者の興味を誘った様に思える。この二人は過去に同じ政党に所属しながら敵対関係にあった。その一方の当事者が自書で「天才」と称賛する書き様、筆者もその一人だが、その真意を探る好奇心に駆られる。当初ここでの紹介を躊躇したが、この本がベストセラーになる程の話題を呼び、著者が一人称で語る小説にした点等から興味本位だけでなく、人間の観察力を楽しめる本として素直に紹介することにした。

天才とは誰か         ――この本の主人公(田中角栄・元総理)――
この本は小説であり主人公が、田中角栄・元総理大臣である。田中氏といえば、今太閤とか庶民派総理とかコンピュータ付きブルドーザとか呼ばれた。特に、「日本列島改造論」で書いた通り日本を大きく変えた。その後、ロッキード疑惑で逮捕・起訴され有罪判決まで下され獄中生活も送った。その関係から、僚友や部下は派閥を離れ孤独な政治家となり、病に伏した波瀾万丈の人生であった。仲間が多かった分、敵も多くその一人が著者だった。

天才と書いている訳      ――コンピュータ付きブルドーザと義理と人情――
著者は、この本で主人公を天才と書いている。その訳を“長い後書き”で「政治家個人として独自の発想で40近い議員立法を成し遂げ、それが未だに法律として通用している実績を持つ政治家は他に誰もいない」と絶賛している。それがテレビや通信メディアの造成、高速道路、新幹線、国内空港の整備、独自のエネルギー資源確保等の実績を述べている。更に、田中氏が敵対している著者を政治家として寛大に扱ったエピソードも紹介している。

天才と断言する人       ――芥川賞作家、政治家、前東京都知事――
著者は、学生時代に「太陽の季節」で芥川賞を受賞した作家であった。その後、政治家に転身して代議士となり運輸大臣等も歴任した。その間、金権政治を批判して青嵐会を組織し、田中政権に対抗した話は有名だ。更に東京都知事を務め、代議士に返り咲き引退するまで、これまた波瀾万丈な道を歩んでいる。その著者がこの本を書く経緯は、ある教授の「実は、貴方は田中角栄が好きだった」との話に強い啓示を受けて決心したと語っている。

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