PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(97)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :4月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●発想阻害排除法 ③ その3
 優れた発想は、発想を阻害する「発想ルール」、「発想マニュアル」等を避け、発想に集中する事によって生まれる。


●古今東西の数多くの発想法
 日本でも、海外でも、数多くのアイデアを作り出す所謂「発想法」は数多く存在する。それぞれの発想法は、その発案者の様々な「方法論」で構築されたものである。言い換えれば、発案者の数だけ発想法が存在すると云うことでもある。従って数も種類も多くなるのは当然だ。

 その中で最も有名な発想法は、ブレーンストーミングであろう。しかしこの発想法には結構面倒なルールが存在する。その事を知らない日本人が実に多い。「ブレスト」と称して勝手気ままに活用している。しかしルールを順守しないとその効果はあまり生まれない様だ。

 そのルールはインターネットで検索すれば直ぐに分かる。ここでは説明を割愛したい。しかしルールを知っても、そのルール通りに実践できるかどうかは別問題。本当にマスターするのは結構大変で地味な努力が必要となる。

出典:ブレーンストーミングのルール Desigh+Brainstorming skinjester.com 出典:ブレーンストーミングのルール
Desigh+Brainstorming
skinjester.com

 数多くの発想法の内容を紹介したいが、紙面の余裕がない。また以下の理由があるため発想法の名前だけを掲載する事にさせて貰いたい。しかし発想法は、以下の掲載分以外にまだまだ数多く存在する。例えば、最近、日本で評判の「デザイン思考」もその中の1つである。

 数多くの発想法を、例えばその方法論によって、分類して内容を紹介し、掲載すれば、分かり易く、活用も容易になるだろう。しかし筆者の勝手な判断で分類すると間違いや誤解を生む可能性がある。その結果、考案者に迷惑を及ぼす。そのため順不同で単純羅列にとどめた。

●発想法の名前
 ブレ一ン・ストーミング法、逆ブレーン・ストーミング法、カード・ブレーン・ストーミング法、モンタージュ・ブレーン・ストーミング法、MBS法、グラフィカル・ブレーンストーミング法、Mブレーン・ストーミング法、ブレーン・ライティング法、 NBS法、 クイック思考法、入出法、グループ・インタビュー法、

出典:発想の仕組み論 exporable Com 出典:発想の仕組み論
exporable Com

アイデア・.ビット法、 水平思考法、 SAMM法、 工リア・シンキング法、 あべこべ思考法、一対連関法、 ビジュアル・モチベーション法、 フォース・フィールド法、 深層面接法、 フォーカス・グループ・インタビュー法、シミター法、バイオニクス法、 メカニックス法、クロス法、 SKS法、 デシジョン・テーブル法、 パレード図法 ヒストグラム法、ファイリング・システム法、 クラスター分析法、 PERT法、ビジネス・デザイン法、ストーリー法、関連樹木法、PATERN法、 FTA法、 YM法、 ZK法、パイプリッジ法、 KPS法、クロス・インパクト・マトリックス法、 ステップ・リスト・マネジメント法、FBS法、 NID法、 システム・ダイナミックス法 ISM分析法、RSVPサイクル法、 N2法、 マンダラート法、京大型カード法、ポスト・イット法、 CSシート法、 VA法、 IE法、 FMEA法、 TT-HS法、ED法、コンピュータ・ネーミング法、 KEY WORD法、 デマテル法、 メディテーション法、イメージ・コントロール法、 トランプT法、 ゴードン法、 チェック・リスト法、 特性列挙法、属性列挙法、特性要因図法、要素分析法、 発展的討論法、シグナルT法、 Uの木発想法、比較発想法、 比較分析法、 マトリックス法、 アークタルス法、 大学法、 7×7技法、DT法、言語的思考法、図式的思考法、方程式的思考法、 システム合成法、 アインシュタイン法、 アリストテレス法、CE法、GO-STOP法、 フィリップ六六法、SET法、エジソン法、バズ法、IF法、親和法、スクランブル法、逆設定法、アナログ発想法、条件転換法、ワークデザイン法、 目的手段分析法、形態分析法、欠点列挙法、 オバキュー法、エジソン法、希望点列挙法、カタログ法、KZ法、焦点法、T法、YK法、希望列挙法、コザネ法、超発想法、催眠法、霊感法、瞑想法、自律訓練法、禅式発想法、ヨーガ式発想法、交流分析法、エンカウンター法、カウンセリング法、ST法、SK法、心理劇法、ロールプレイング法、クリエイティブ・ドラマティックス・シナリオ・ライティング法、 デルファイ法、シティックティックス法、アイデア・マラソン法、等価変換理論、KJ法、NM法、「夢工学式発想法」など。

●NM法の研修での鉛筆の開発
 前号で次に述べる事を紹介した。「滑らかに書けて、折れない鉛筆」を如何に作るか? 滑らかに書ける材料を鉛筆に使うと折れやすい。折れない材料を使うと固くて滑らかに書けない。この二律背反(Tradeoff)の超難問は、某鉛筆メーカーから研修に参加した某技術系社員が研修課題として提示したものであった。MN法の研修に先立ち、同メーカーの上司は「未解決な課題をNM法が解決できるか見極めて来い」と彼に命令した様であった。

 彼と同じグループになった筆者とその他にメンバーは、習いたてのNM法を基に課題解決に挑戦した。筆者は自身が保有するVEの技術等を頼りに頑張った。苦戦した。アイデアが見つからなかった。

●価値工学(Value Engineering=VE 価値分析とも云う)
 この機会にVEを少し紹介したい。またVEへの誤解もあるので正したい。VEは発想とも深い関係がある。更にモノ作り事業、サービス事業、エンタテイメント事業などに関係する人達にとってVEは大変役立つ工学である。

 VEは、今も米国で活用されている。一方新しもの好きの日本人は、とっくの昔にその存在を忘れ、最近の日本人は、全く知らない。しかも現在、VEを取り上げる人達は「コスト切り下げ手法」と誤解している。

出典:TSN社の価値工学(例示)Steelnetwork com
出典:TSN社の価値工学(例示) Steelnetwork com

 筆者は、現在、夢工学とPMを専門分野としている。しかし昔は、その様な夢工学も存在せず、PMは日本では殆ど知られていなかった。筆者は、若い頃からエンジニアリング振興協会に所属していた。その頃、同協会は欧米に於けるPMの実態調査をすべく「特別欧米視察団」を結成した。

 筆者は新日本製鐵(株)から参加し、数週間、他の団員と共に欧米を視察した。今では考えられない贅沢な海外視察であった。同協会は、その視察成果をPRし、日本で普及させようと努力した。まさしくPM創世記の時代であった。現在のPMAJの活動は世界の先端を進んでいる。隔世の感である。

 PMが日本であまり知られていない時代、VEは大変普及し、多くの企業が「価値分析」の名の下で活用し、多くの成果を実現していた。筆者は、日本と米国のVE技術者の資格を、前者では産業能率短大=現在の産業能率大学から、後者では米国ニューヨークVE協会から夫々取得した。VEは、既述の通り仕事に役立つ。PMと共に一人でも多くの人が活用し、成果を得て欲しい。

 VEとは機能を最大にし、同時にコストを最小にする事で価値を最大化する革新的工学として世界で評価されていた。それは1947年にGE社のL.D.マイルズによってValue Analysisとして生み出された。

 筆者は幸運にも彼の招待で自宅を訪問し、VEの本質を直に学ぶ事が出来た。彼と最初にあった時、開口一番、「VEはシステム・エンジニアリングでもある。システム思考と発想思考によって価値を最大にする活動だ」と熱っぽく語った。

出典:L.D.Miles VE構築者 123 People com 出典:L.D.Miles VE構築者
123 People com

 VEは、機能向上を如何に実現するかを勝負としている。コスト切り下げ手法ではない。この考え方は、筆者の「夢工学」に生かされている。

●書きやすい、折れない鉛筆
 NM法の実践研修の話に戻す。某鉛筆メーカーの某技術者を除き、筆者と他の研修メンバーは、鉛筆に関する技術など全く分からないド素人であった。にも拘わらず、NM法の提唱者・中山正和は、この超難問課題を研修の場で解決する様に求めた。「必ずや解決する」と云う自信があったからだ。

 各社から参加した受講者の殆どは、帰属企業では専門固有技術者であった。そのためか自社の名誉を掛けて課題解決に挑戦する緊迫した雰囲気が漂っていた。筆者は、NM法とVEを駆使して頑張ったが、彼らの競争心に圧倒された。「そうなら逆に気楽にやるしかない」と肩の力を抜いた事を今も覚えている。しかしその競争集団の中で最も緊張していた人物は、某鉛筆メーカーの某技術社員であった。

 超難問に取り組んでいた時、ある人物が「鉛筆の分子構造はどうなっているか?」と当該社員に尋ねた。彼は紙にその構造のポンチ絵を書き、その構造をいろいろ変える事で鉛筆の材料特性を変える事ができると答えた。

 その後、いろいろ議論をし、いろいろなアイデアを数多く出した。しかし妙案は浮かばなかった。
全員疲れた。それで休憩を兼ねて皆で周辺の山林を散歩する事になった。筆者は皆から少し遅れて散歩に参加した。他の参加者に追い付こうと急いだ散歩道で、偶然、あるモノを見つけた。次の瞬間、あるコトを思い付いた。

 散歩から戻って皆で議論を開始した時、筆者は、偶然見つけたモノと思い付いたコトを、全く自信が無かったが、恐る恐る、彼に伝えた。あるモノとは「竹林」であり、あるコトとは「竹」である。そして彼に「しなやかで、滑らかで、折れない特性を持つ竹構造の分子構造を作れますか?」と尋ねた。

 その瞬間、彼の深刻な表情はみるみる内に明るい表情に変わった。NM法の「連想」とVEの「価値転換」は、2つの「瞬間」をもたらした。このアイデアは、その後、鉛筆に生かされたと聞いた。

出典:竹と鉛筆 Yahoo USA depositphotos
出典:竹と鉛筆 Yahoo USA depositphotos

つづく

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