第125回関西例会 レポート
PMAJ関西 KP 太田 隼人: 3月号
開催日時: |
2016年2月12日(金) 19:00~20:30 |
場所: |
大阪産業創造館 5F 研修室 E |
テーマ: |
「サービス業におけるイノベーション」 |
講師: |
林 健太郎 氏/株式会社竹中工務店 エンジニアリング本部 副本部長 |
参加者数: |
23名(スタッフ3名含む) |
講演概要: |
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P2Mが提唱する価値創造は、製造業だけでなくサービス業にも適用できる。製造業から取り組み、その進んだ品質管理の概念は、サービス業にも活かせるのではないかという研究が10年に亘り行われ、ようやく2016年春にはその全体像が一般公開される予定である。「サービス品質向上実践羅針盤」と名付けられたその中には、イノベーションが必要になる様が描かれている。その概要を「お客様満足」「おもてなし」「従業員満足」「商品開発」などのキーワードから、P2Mを実践で活かそうとする人にも参考にしていただけるよう解説を試みる。 |
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●はじめに
製造業で品質管理に携わってきた技術者たち(サービスクオリティ研究会)がサービス業への品質向上を研究した成果を、「サービスとは」という理論編と「サービス品質向上のマネジメント」という実践編の構成で講演を行った。講師が勤務されている建設業においても、請負工事として建築物を引き渡すことで完了していた時代から、PPP/PFIなどのように一定期間の運営まで役務に含むようなスキームが出てきており、建設プロジェクトの上流から下流までをいかにつくり込むかが問われてきている。
●P2Mのプログラムマネジメント
従来のプロジェクトマネジメントは仕掛(システム)の部分を対象としていた。そのような中にあって、P2Mはプログラムの概念を導入し、上流の構想段階から下流の利用するところまで概念を拡張すべきとの考えに基づき、「仕組みづくり」をテーマにまとめられたものである。P2Mの特徴は有機的に連携するプロジェクト群を束ねるプログラムにある。プログラムにはオペレーション型と戦略型があり、プログラムの中でスキーム・システム・サービスのプロジェクトをマネジメントする。さらにP2M標準ガイドブック第3版ではサービスを起点とした有機的な連携の概念も組み込まれている。
●「サービス品質向上実践羅針盤」(電子書籍:4月以降発刊予定)のご紹介
前半でサービスの定義を中心に理論編として解説し、後半でどのようなマネジメント実施すればよいかをまとめている。具体的な内容は、提供するサービスの成熟度や市場の熟成度、顧客や市場環境の変化などに応じて5つの基本形に分類し、それに基づいて解説したものである。
Ⅰ編 サービスの理解
(1) サービスの定義、種類、特徴
サービスとは、顧客の目的達成や価値創造実現のために顧客とサービス提供者が経験を共有し「共創」の関係になることが重要であり、それを通じて「目的達成」「価値創造の実現」することと定義づけた。その上で、「①消費性質とサービスの提供主体」「②サービスの内容特性」「③サービスの価値」から分類しサービスを概観した。
(2) サービスの構成要素
明治大学経営大学院の近藤教授が『サービスマネジメント入門 第3版』にてサービス提供者の態度(態度変数)の視点で分類した4つの要素(①コアサービス、②サブサービス、③コンテンジェントサービス、④潜在的サービス)に対し、研究成果として「⑤おもてなしサービス」の必要性を提案した。
そして、「⑤おもてなしサービス」の重要な特徴は『現場サービス提供者の態度、言葉遣い、状況の観察力や判断力にて行動する対応力』であり、これによりサービスの優劣が決定されると主張した。
この内容は、事例との対応付けが行われ説得力のある説明であった。
(3) サービスの品質
サービスの品質について、5つの要素(①目標水準への適合、②期待への適合、③知覚品質への適合、④予期せぬ感動の創出、⑤バラツキの最小化)とそれを決定する3つの要因(①提供者の努力、②要求事項への適合、③価値観・感性への適合)を対応付け、その影響を受けることから、サービス品質の測定を顧客満足度の測定と同等であると位置付けた。ここで、サービス品質を評価の観点から概観すると、顧客が一度満足しても、繰り返し同じサービスを受けていくうちに期待値が上がり、顧客満足度は低下していくことを示した。このことから、あるレベルを超えるとき『イノベーション』を起こさなければ、サービス品質(顧客満足度)を維持できないことの問題提起が行われた。
Ⅱ編 サービスの品質マネジメント
(1) サービス品質マネジメントの基本形
サービス品質のマネジメントは5つの基本形(①マニュアル化、②暗黙知の形式知化、③プロセス改善、④自動化と工夫・改善、⑤イノベーション実現)に分類でき、提供サービスや市場の成熟度・環境の変化に応じて使い分ける。これは日本古来の「守・破・離」サイクルに対応付けることができる。
そして、一度体験したサービスに満足したリピーターは、次回から満足度の閾値が高まり、サービス品質に対する顧客評価は変化し、魅力的品質だったものが当たり前品質に(閾値の上昇)なる。
したがって、サービス業において、「守・破・離」サイクルの実践にあたっては、常日頃からの地道な改善と標準化の努力は重要であるが、新たな顧客価値を創造するイノベーション的な改革や創造を行う努力が必要となってくる。すなわち、「守・破・離」の『離』へ向かう改革がもっとも重要と言える。
このサービスイノベーションを7種類に分類し、日本古来の考え方である「守・破・離」サイクルにあわせてどのようにマネジメントすれば良いかを4つの事例を用いて解説した上で、「守・破・離」の『離』を考えるためにどのような環境が必要であるか、人と組織に論点を絞って『創造性を育み、発揮できる組織に必要な要素』の8要素について提案が行われた。
<創造性を育み、発揮できる組織に必要な要素>
① |
メンバーが連帯していて、ボトムアップの活動でアイデアを探求できる |
② |
上司は、部下に命令ではなくモチベーションを与える |
③ |
金太郎飴でなく多様性に富んでいる |
④ |
遊び心を奨励し、失敗を許す |
⑤ |
スピードを重視する |
⑥ |
好奇心や探究心に溢れている |
⑦ |
「協力し合って、試して、学んで、再び試す」を組織文化にしている |
⑧ |
問題に行き詰った時、相談できる社内外のブレーンとのチャネルを構築している |
イノベーションの企画・開発には、様々なツール・手法が存在するが、発想するのは『人』である。イノベーションを創造するのは人であり、それを支えるのは『創造性を育み、発揮できる組織』である。「守・破・離」の『離』へ向かう改革を語る上で、講師が一番主張したかったのはこの部分であろう。
(2) サービス品質と戦略
マネジメント構造としては、P2Mとも共通する「ミッション、ビジョン、バリュー、戦略の立案・実行(PDCA)」が重要であり、戦略の実践サイクルは、仮説検証のサイクルである。そして、「守・破・離」サイクルを回していく際の『破』や『離』に移行するタイミングをつかむ仕組みである。
戦略については、「戦略の定義」、「戦略の階層構造」、「Mission Vision Value Strategy」の事例、「ISO9004:2009」をもとに説明し、サービスは人が行うことから如何にして現場へ上位戦略を浸透させるかを「サービス提供における戦略」、「戦略策定・展開プロセスのサブプロセス」にて説明された。
最後に、「夢と魔法の国」を支える高いモチベーションのキャストを持つディズニーランドにおける「ESの仕組みの事例」や「顧客満足度が高い著名企業の分析結果」をもとに、サービスを提供するのは『人』であるということにつないだ。このモチベーションを高める仕組み創りこそが従業員満足につながり、顧客満足度を創りだしていることを提案して締めくくった。
●おわりに
講師からは、『今回話した考え方も「正解」というものではなく、仮説である。しかし、自分が納得できる仮説で「実践」して、また「仮説」を修正していくことしかないと常々思っている。P2Mのコミュニティーでは、実践でリスクを背負って仮説・検証するのではない意見交換ができるのと、経験を形式知として共有できるのが、最大の魅力であると思う。』とお聞きしている。
P2M研究会活動が活発に行われ、関西例会をその成果発表の場として活用されることを願っている。
●講演の様子
以上
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