関西P2M研究部会
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(雑感) 還暦を過ぎて思うこと

友久 国雄 [プロフィール] :2月号

1. 技術の変化について
 いまから 40年前の 1976年、私は大学 4年生だった。ちょうど第一次オイルショック後の影響で就職先がなかったので、大学院に入学した年でもある。そのころ、私の専攻のシステム工学での研究は、自動制御のファジー制御、マクロ経済の可制御性、パニック時のカオス制御、音声認識の研究、人工知能の研究、有言要素法による解析、ロボット制御、ネットワーク研究等々が記憶に残る。将来をにらんだテーマばかりであったようだが、40年前に現在実現している世界をどこまで想像できていただろう。
 今や、電車やバスの中で新聞に変わりスマートフォンやタブレットで情報をどこでもいつでも見られるユビキタスの世界、スマートフォンやカーナビでスラスラと音声検索できる世界、車は衝突しないように自動的に止まり消費燃料がリッター 40kmを越す世界、人間型ロボットがホテルマンをやる世界、楽天、Amazon、価格.comなどインターネットを通じて何でも探して買える世界、世界中メールのやり取りができる世界、家庭では 40インチ以上の TVで 100ch以上ものビデオコンテンツがいつでも見られる世界、合成音声で初音ミクが歌い踊るバーチャルリアリティの世界等々。これらはさまざまな技術革新の賜物だが、根本には半導体デバイスである CPU とメモリーが微細化・集積化され演算・通信能力の飛躍的な進歩により実現できた世界である。
 印刷業界の製造装置機器を開発してきた私は、この 40年間何に貢献できたのだろう。装置群の製品化では、ひたすら生産性の向上と低価格を追及し、それは印刷生産プロセスの省力化に他ならないが、それに関わるデジタル処理を行なうハードウエアとソフトウエアを開発してきた。たとえば印刷機の刷版を作る製版装置の入力技術は、光学式カメラからフォトマルチプライヤーによる入力処理、ライン CCD による入力処理、そしてデジタルカメラへと進化して行った。出力技術は、フイルム出力を製版カメラからレーザーによるイメージセッター出力機、そして直接に刷版に出力するハイパワー赤外レーザーを用いた CTP (コンピューターツープレート) 出力機へ、さらに直接紙にインクジェットなどで印刷するダイレクト印刷機の世界になっている。これらの要素技術、システム化技術、生産技術に携わり、40年間で印刷生産プロセスは激変した。この間の技術革新の先を見誤った会社は衰退していった。たとえば、世界で始めて CCDカメラを開発したコダックはフイルムに執着したために破綻し、富士フイルムは印刷コア技術の応用を広げヘルスケアへ多角化した。まさしくイノベーションのジレンマである。先を読む力と経営の意思決定は本当に重要だ。
 40年を振り返ると、「我々の夢は必ず実現されるのだ」と実感できる歳になった。「この先どんな世界になるか」いつも先を読む力を磨かねばならない。そして、行動が必要だ。「もう一つ開発をやるか!」と考えている。

2. P2Mと事業経営
 私が P2M を知ったのは、2006年技術開発部門で複数プロジェクトの開発マネジメントを推進している時だった。当時、「プロジェクト & プログラム標準ガイドブック」を知ったとき、これまで経験してきたマネジメントの集大成がここにあると思ったものだ。その時から関西分科会で、異業種の皆さんと「企業競争力型アーキテクチャーの研究」「中小企業のプログラムマネジメント事例研究」「グローバル事業展開の勘所の研究」などを続けてきたことが懐かしい。社外の人たちと議論することにより、自分の知らない世界をたくさん教えていただき、本当にためになった。
 昨年から、2014年発刊の「改訂3版プログラム & プロジェクトマネジメント標準ハンドブック」を読み解く研究会が発足し、もう一度整理しようと思い参加している。
 改訂3版ではプログラム重視の視点で改訂され、プログラム・プロジェクトを支える知識群を 3領域に分けて事業経営基盤、知識基盤、人材能力基盤として整理された。さらに、「戦略とその策定」や「人材能力基盤」といった経営に欠く事のできない視点が新たに盛り込まれている。これは、まさしく時代の要請に合致していると思う。いまやどのような仕事でも、その全体像 (プログラム) の中でのプロジェクトの自分を認識し、事業経営の視点から自己を見つめて役割を遂行することが求められている。プログラムの視点をしっかりと理解してプロジェクトを推進させ、プロジェクトとプログラムの両方の成功を得るマネジメントを推進するために体系化されたハンドブックとなっている。
 40年過ぎたからこそ、この改訂版の必然性がわかるようになったかもしれないと思う。若い頃は、「あったらいいなあ」で新製品開発のプロジェクトマネジメントをしてきた。後年には、会社の「あるべき姿=利益の出せる事業体質変革」を目指してプログラムマネジメントをしてきた。当然ではあるが、プロジェクトマネジメントの「あったらいいな」の目標設定と結果判断は容易であるが、事業経営のそれは難しい。出発点であるプログラム統合マネジメントの難しさを簡略して言えば、ミッションプロファイリングがしっかりと経営と現場に合致したものができればしめたものだが、目標と実態をつなげる適切なシナリオとそのプロジェクト設定は実際相当に困難だ。何が困難なのか。まず、社長は先を読む力をもって「こうあるべきだ」の設定をしなくてはならない。先を読んで「こうありたい・べきだ」の設定は本当に重要で、それは「ありのままの姿」の実態をも捉えたものでなくてはならないが、つながっていない場合がある。次に「あるべき姿」につなげるプログラム構想とその運営によって成果は決まる。ここで、「ありのままの姿」の実態分析は正しいか、施策を提案する広い視野と高い視点の人は誰か、リスク分析ができるのは誰か、やはり、人に成否がかかる。
 事業体質が変革できるかどうかは、P2M体系を理解する人材を育てられているかどうかにかかっていると言っても過言でないような気がしている。だからこそ、プログラム & プロジェクトマネジメントの体系を理解し実践する人材育成が必要であり、若い人々にその重要性を伝えていきたいと思っている。
以上

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