関西P2M研究部会
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「ビッグデータ」と「地方創生」二つの研究分科会について

関西P2M研究部会 朝田 晋次 [プロフィール] :1月号

 先に海藏様から投稿されたように、この夏から二つの研究分科会の主査を務めさせていただいております。ここでは海藏様の投稿の続編として、二つの研究分科会に関わってきた感想を中心に話を進めたいと思います。
 それぞれの分科会活動経過を簡単に紹介します。
ビッグデータとP2M研究分科会
 「ビッグデータ」という言葉が広く知られるようになったのは、2011年5月に McKinsey Global Institute から発表されたレポート「Big data : The next frontier for innovation, competition, and productivity」 (以下、マッキンゼーレポート) からだと考えられます。
 毎年、総務省が発表する情報通信白書を見返してみると、「ビッグデータ」という言葉が登場するのは 2012年7月に公表された平成24年度版からでした。マッキンゼーレポートが与えたインパクトに起因するものと思いますが、これ以降の白書における「ビッグデータ」に関連する記載量・深さは、年々増しています。
 2012年9月、ICT分野で著名な研究者である京都大学 A教授のお話をうかがう機会がありました。このとき先生は「これからの重要テーマは、ビッグデータです」とおっしゃいましたが、初めて「ビッグデータ」という言葉に触れた私はその意味するところが分からず、「ビッグデータとはなんですか?」とも訊けずに別の話題に移ってしまったことを思い出します。一方で、2012年から2013年にかけて執筆・編集されたと思われる、改訂3版 P2M標準ガイドブックでは既に「ビッグデータ」が重要になることが述べられています。執筆された方々の見識の高さに対し、あらためて敬服するとともに、自身の不明を恥じる次第です。
 分科会を立ち上げる前に、計 5回の勉強会を開催しています。初めに原典ともいえるマッキンゼーレポートとビッグデータがもたらすパラダイム変革とリスクを本格的に述べたベストセラーである「ビッグデータの正体」をメンバーで読み込んだ後、各自が文献や事例を報告してゆきました。
 勉強会の最後に、分科会でどのような研究を行うか議論しました。既に「ビッグデータ」に関係する事例発表・報道や研究報告が大量にあり、勉強会を続けてゆくには十分な環境にありましたが、あえて研究分科会を立ち上げて、協会メンバーに広く活用いただけるような成果を出すにはどのような研究がふさわしいか、意見交換を進めました。
 本年 7月の分科会立ち上げに際し、「ビッグデータがPMに与えるインパクトを評価する」ことを目標に定め、この視座をもって毎回事例研究を進めているところです。
 マッキンゼーレポート以前は、天文学やゲノム科学などの分野で発生した情報量の爆発を指して、単に大量のデータという意味でこの言葉が使われていたようですが、マッキンゼーレポートでは、「小規模ではなし得ないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織さらには市民と政府の関係などを変えるもの」を「ビッグデータ」と呼んでおり、我々の分科会でもこちらの考え方をもって、研究を進めています。
地方創生に向けたP2M研究分科会
 もう一つの分科会である地方創生を立ち上げるに至った経緯は、海藏様の投稿に詳しく紹介されている通りです。国際レベル、国家レベルのプロジェクトに限らず、様々な活動でPM人材が求められており、国や自治体等もPM人材の登用や育成に向けた施策を打っている中で、協会の存在感が私にも実感できるようになれば、協会自体ももっと活性化するのではないか。特に地方メンバーが活性化するのではないかと感じていました。海藏様から「その思いを形にするために研究分科会を立ち上げよう」と背中を押していただいた次第です。
 分科会では、PM人材の登用や育成に関わる公募事業において協会が存在感を発揮するにはどうすればよいかを論点に、議論を進めています。議論を進める中で、「地域インフラの維持管理と防災・減災」という具体的なテーマも生まれています。
 分科会の活動を通じて、地方創生に向けた様々な施策が打たれていることがわかりましたが、そうでもしないと、人もお金も情報も首都圏に集中してしまう現実をあらためて実感しています。
二つの研究分科会に関わって
 二つの分科会とも、メンバーに恵まれ、メンバー各位の高い見識・経験・行動力を背景に、様々なご意見・知見をいただき、毎回、目からうろこがおちる思いをしております。分科会運営の面でも打ち合わせ会場の手配・設定や資料配布なども、すっかりお世話になっており、名ばかりのリーダーをここまで続けてこられているのは、メンバー各位そして研究部会幹部の皆様に支えていただいているからに他ありません。この場をお借りして御礼申し上げます。
 まったく別個に立ち上げた二つの分科会ですが、議論を進めているとお互いに強い関連があることがわかりました。
 例えば、観光産業は地方創生における大きな柱の一つですが、PM人材を登用して新たな観光資源を発掘したり、停滞気味であった観光業を再活性する活動が行われており、そこにはビッグデータの技術を活用して大きな成果を上げている事例があることを、両分科会の議論から知ることが出来ました。
 このように、PM人材がビッグデータの技術を活用して産業を再活性化する事例は、農業、製造業、小売業、様々な分野で見られるほか、道路・橋梁など地域のインフラを整備・保守するために、同様の活動が行われていることも知ることができました。
 ビッグデータが作るインフラの上で、地方創生に関わる異なる分野がつながっていることもわかりました。例えば、平常時は観光客向けに交通案内や混雑状況を提供し、災害時には当地に不案内な観光客を安全に避難誘導するシステムやスマホアプリが実用化されようとしています。これは GIS や SNS に展開される情報をビッグデータの技術でマッシュアップして、2次利用、3次利用して新たな付加価値を提供しているものと言えます。
 事例研究を中心に進めてきた二つの分科会の成果は協会の皆様にも共有・活用いただけるものになると思いますが、より具体的な活動テーマが生まれる気配も感じています。それが新たな研究分科会になるのか違う形の活動になるのかわかりませんが、この先の展開があることを期待しながら二つの分科会を進めていきたいと思います。

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