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「日本再生“アベノミクス”を成功させるために何が必要か」 (23)
地政学的戦略を考えよう (11)

東京P2M研究会 渡辺 貢成: 2月号

A. 先月は尾原和啓著「ザ・プラットフォーム」の話をした。なぜ、プラットフォームが必要かというところから説明した。1社や系列会社で生産できる製品は先進国にまた、新興国の消費者にも行きわたり、需要が減ってきた。新需要を喚起するには異業種のコラボレーションによる新製品、新サービスが求められる。異業種が集まって成果を出すには、全員が集まれるプラットフォームをつくりあげ、議論をつくし、新商品、サービスを創り出す必要があるという話をした。今月は地方自治体の話に移る。
D. 私はまず「地方創生」の話をします。
1990年には日本は世界一の製造業国となりましたが、国民に必要な商品が満ち溢れて不景気となりました。一方国民に必要な商品の不足が目立つ、社会主義国ソ連で国民の不満が高まり、ソ連連邦は崩壊しました。その結果米国の一人勝ちとなり、長年の冷戦がなくなり、資本主義の天下となって大きな変化が発生しました。
対ソ戦において活用する予定の高度で丈夫な「情報通信ネットワークシステム」を米国が学術活用社会へ解放しました。このネットワークシステムがインターネットとして世界中で活用され始めました。この変化は第二次産業革命といわれる発展を予測させ、従来のアナログ社会からデジタル社会への変換が想定されました。
先進国の需要が低下し、世界的に金利が 0 に近づいてきました。このままでは世界大恐慌が発生するとの危機感が世界を震撼させました。
その対策として國際金融資本は新興国への大量資本投資を行い、新興国という新しいマーケットが開花し、大恐慌は阻止されました。

これらのグローバル社会変化で我が国の製造業は決定的打撃を受け、日本はこの 20年間 GDP が 500兆円という、進歩しない国となりました。しかし国は毎年約 50兆円もの国債を発行し、国土交通、通産省は景気対策を実施しました。一方大蔵省 (今財務省) は、1990年代のバブル期に金融引き締めが遅れ、バブルを大型化させた経験から日銀の国債買取を不文律的に禁止してきました。結果は景気対策を主導する省とデフレ政策を主導する大蔵省 (国の借金は消費税で返還させる政策) の相反する政策で過去の遺産を維持する発展のない国となりました。
2011年東日本大震災後安倍内閣はアベノミクス政策を旗印に政権を獲得し、従来の官の政策を破壊し、国債の民間活用という金融政策 (第一の柱)、財務政策 : 前民主党政権と自民党が支援して決めた消費税の増税率 8%、2年後 10%の実施を決め、消費税による景気後退を補う、アベノミクスの景気対策のための特別予算 (第二の柱)、成長戦略 (第三の柱) がスタートしました。
前提が長くなりましたが、このため安倍政権による“アベノミクス地方創生”が政策として実施され、地方自治は自ら「稼ぐ時代」であることを認識し、政策の転換を図り、現在では多くの実績事例が出始めています。
そこで、これら成功事例を集め、この運動を活性化する目的で出版されたのが笹谷秀光著「ビジネス思考日本創生・地方創生 『協創力が稼ぐ時代』 」です。
この本の内容を目次ごとに紹介します

  序章 : 「顔の見える国」日本へ「発信型三方よし」のすすめ
戦後日本はモノづくりで、製品は品質の良さ、故障しないという評判で世界を席巻しました。ところが1990年代後半には、先進国で必需品が行きわたり、成長率がゼロに近くなりました。
このままでは世界的な大恐慌の可能性が考えられ、國際金融資本はウルトラ C級の政策を実施しました。新興国への資本の投入と製造業を新興国特に中国に任せる政策です。しかし、現状のグローバル経済で流通している余剰ドルでは新興国が求める投資額に達しません。國際金融資本は中国あるいは台湾企業と合弁会社をつくり、その投資金額を FRB で大量に印刷したドルを、出資者の投資額の 100倍のレバレッジとして提供し、新興国企業に巨大な製造設備 (MES) を設置し、製造業を任せることにしました。この新政策が功を奏して、先進国の優れた技術と新興国の労働者の安いコストでの製品がグローバル市場に出回り、先進国の製造業がダメージを受けました。
日本ではその結果、地方の製造業のダメージが大きく、地方自治の収入が減り始めました。地方自治は基本的にビジネスをするのが本業ではないのですが、農業は高齢化で生産性が落ち、自治体の将来には 『債務超過』 という危機感がありました。自力で出来る商品の開発に真摯に取り組み、道の駅などの販売能力に期待し、地場産業を開発していきました。これらの努力が成功実績として評価されるようになりました。そこでこの運動の実績ノウハウ集を「ビジネス思考日本創生・地方創生『協創力が稼ぐ時代』」として出版しました。この本の内容もプラットフォームという概念を取り入れた事例です。
本書の内容説明の前に著者の“あとがきに代えて”という文を紹介します。
日本は「内弁慶の国」だった。日本はしばらく前までは「失われた 20年」と日本経済の不振を自らの欠陥であるとの表現を好んで用いていた。そして勝手に自身喪失しているように見える。どこに負けた原因があるのかを考えることなく卑下している。
『ここからは D の発想を追加します』。
卑下する前に日本はまず 1990年には製造業世界一になっており、日本文化は世界中に評価されていることに誇りを持つことです。日本が製造業 (家電商品) で敗れたのは、日本が日本の技術で敗れたことを認識する必要があります。原因は日本企業の慢心と日本のエリートの行動です。家電がサムスンにやられたのは、日本の技術を最先端まで含めてサムスンに開示したことです。第一が DRAM です。
サムスンは IMF 危機で財閥が解体され、電子関連部門に統合されたことで韓国での一社独占の位置を確保。日本の占有率 80%の DRAM の世界での生産量を予測し、韓国全土プラス、外資導入で広がった米国マーケットへの輸出量を含めた数量を予測し、生産量を決定し生産に踏み切った。一方日本企業は DRAM の技術は日本、DRAM 製造機は性能高い日本製で世界一安価な DRAM の生産に成功していたことから、通産省が日本企業が使う生産量を 10社で分割生産する方針を決定した。結果としてサムスンはすべて日本の技術を使い、研究投資の費用を使うことなく、安価な DRAM を世界中に提供できた。
家電製品に関して日本はグローバル市場に最高級品を提供し、新興国から総スカンをくった。これに反しサムスンは日本の最新製品を購入し、日本製品の過剰機能、過剰品質を低減し、各新興国の消費者が求める追加要求を加算し、使いやすさを売り物にし、更にデザインに力を入れた。同時に、韓国は日本企業が関心を示さない新興国のニーズを徹底的に取り入れる戦略、韓国の文化を新興国に理解させる韓流という戦術で、テレビ番組作品の大量輸出を実行した。したがって新興国に日本というイメージを与えることができず、毎日韓流のテレビ番組に接し、韓国に親しみを持っている。
ここに書かれたことはマーケティングの初歩的事例であるが、日本企業のエリートは知識を持っていながらマーケティグや、営業の初歩的行動すらできていない。この反省なしに製品でいくら努力をしても売れない。日本の官というエリートは国民への優越感で、国民に命令しながら、国外の状況を全く理解できず何ら手を打たない存在として君臨してきた。この反省から官も「顔の見える国」づくりに気が付き、地方自治への接近を見せ始めてきた。
 では地方自治はどうかというと、少子高齢化で次第に税収が減り、国からの交付金も年々減少しています。自治体自らも少子高齢化で収入が減っています。夕張市の債務超過事例を見て、自治体が自ら金もうけをする必要があると気が付き、しかも継続可能性のある儲けが当たり前になりました。稼ぐとなるとその地域の特徴となる『顔』を広める必要がでてきました。
 では 『稼ぐということ』 は何をすることでしょうか! 近江商人は商売上手です。商売は 3方よしが鉄則です。「世間よし」、「相手よし」、「自分よし」で商売が成り立ちます。

第 1 章 「ご当地キャラ」と「食グランプリ」の活用術
 地方自治の活動が活発になり、努力の結果「儲かる仕組み」をつくってきました。「ご当地キャラ」とは地方の特徴をうまく売り込んだ事例を報告しています。この「ご当地キャラ」をベースとしたプラットフォームを構築し、政府が (産業界・行政・教育・金融・労働・メディア) の「産・官・学・金・労・言」の連携を呼びかけている。

第 2 章 「自転車シェア」にみる複合課題への対応
複合課題解決に役立つ国際標準「社会的責任に関する手引き」
 社会が豊かになると個々がモノを所有します。この当たり前なことが社会全体でみるとモノが使われず、眠っている場合がおおくなります。ここで自転車をコミュニティがシェアする案が出てきました。全家庭が所有していた時に比べて、多くの人が活用するようになりました。
 コミュニティには多くの課題が存在します。多くの問題を個々に解決するとかなり高価な解決法になります。複合問題を複合で解決すると安価に解決できることがわかってきました。ここでは社会的共有の価値が高まることと同時に社会的責任に関する責任感も高まることが必要だと気がついてください。

第 3 章 「共有価値創造」 (CSV : Creating Shared Value) 戦略
 コミュニティは多くの発想の異なる人々の集まりです。コミュニティにとって価値あることとは何かを議論し本質を捉えることが大切です。利害関係者の知恵を集めて共有の価値を創生します。次元の高い価値を共有することができます。

第 4 章 「発信型三方よし」の提唱
 稼ぐということの本質は、何でしょうか。まず顧客です。「買い手よし」です。しかし、「売り手よし」でないとビジネスは継続できません。では公害問題を無視し、コストを掛けないで「売り手よし」、「買い手よし」でも、継続した関係を続けることはできません。そこで 3番目のよしは「世間よし」です。簡単に三方よしと言いましたが、関係者が集まり知恵を出し合う協創する場を設け、結論的に云いますと「持続可能性」を追求した関係性の構築をおこない、社会に発信することです。三方良しで顔に笑顔が出れば、「笑顔のみえるビジネス」あるいは「顔の見える国」になります。


「発信型三方よし」による「協創力」の発揮
第 5 章 「まち・ひと・しごと創生への関係者の結集」
まち・ひと・しごと創生とは「地方創生」を意味し、どのような課題があるかを調べる。
1. 「地方創生」とはどんな課題か
人口減少を食い止め、地方を活性化する
  地方は人口減少で、滅亡の危機にある。
  東京は年間 11万人の人口が増加するが、出生率は 1.15 と全国平均 1.42 より低い。
  東京への流出を防ぎ、地方で仕事を創ると、人口が増える計算になる。
  「地方創生で強くなる地方」と「国際都市」東京の強みを活かす組み合わせで日本創生を狙う
地方創生は「稼ぐ力」と「産官学金労言」の連名で。
さまざまな関係者の連携 : プラットフォームの構築。

まち・ひと・しごと創生法(地方創生法)の体系
第 6 章 「地方創生で共通価値を創造する」
1. 地方創生は複合課題
 地方創生は「まち」、「ひと」、「しごと」の 3点が相互関連する複合課題!
 「しごとの創生」では若い世代が安心して地方で働くための「相応の賃金」が必要
 「ひとの創生」では結婚から妊娠出産、子育てという切れ目ない支援が必要
 「まち創生」では「まち」の集約・活性化、情報通信技術を活用したイノベーションが求められる。地域の特性に応じて地域の絆 (安全・安心・不利への対応等) を考える。
 ☆ 重要なのは自治体間での広領域的な機能連携を考える
2. 「発信型三方よし」で地方創生
 本書の事例参照のこと

第 7 章 「気づき」と「発信力」による地方創生
1. クールジャパンとは
世界から共感を得る日本を目指し、世界における日本の価値を示す。
クールジャパンの目的は「日本はあなたの役に立つアイデアをもっている」からアクセスしてみないという各国へのメッセージ。
課題先進国日本がクールジャパンで多くの課題を解決してきたかを知ってもらう。
相手をおもんぱかるクリエーティブな課題解決という役割がクールジャパン
筆者がみた番組では 『日本のクールジャパン』 をテレビで見た外国人 (例えばフランス人) が来日し、フランス人の眼で、日本の興味のあった事例に取り組み、質問をしたりして、新しい共感を得ている。それは日本人ではなくフランス人が新しいクールジャパンを発見し、その面白さに筆者も共感した内容になっていて、日本人にとっても目新しいものであることが理解できた。クールジャパンという番組が一つのプラットフォームになっている事例を見た。
以下の項目も内容的には外国人が日本に来てトライして、日本の伝統から何か新しいもの、新しいことをつかみ取る事例が書かれている。
2. 「たくみ」 : 伝統から気づくこと
3. 「もったいない」 : 環境から気づくこと
4. 「さとやま」 : 地域資源から気づくこと
5. 「おもてなし」 : 都市との交流から気づくこと
6. 「おすそわけ」 : 家族の絆から気づくこと
7. 「気づき」と「発信力」による地方創生

第 8 章 「日本創生時代の「発信型三方よし」
 日本オリンピック 2020を迎えて日本は今こそクールジャパン発信の時期である。
 文化というモノは相互共感が達成されたとき、創造性が発揮される。2020年オリンピックはお互いの感性の双方向ふれあいによって高い共感を得て成功が見えてくる。
1. 今こそ、クールジャパンの発信の時
2. 国際都市東京で「五輪レガシー」を目指す
3. 全国津々浦々からのクールジャパン

まとめ :
地方自治が「稼ぐためには協創力」が必要であること、
そのためには関係者の連携のためにプラットフォームが必要であること
企業との共有価値観が必要であること
国際的に示されている羅針盤 (ここでは社会的責任に関する手引き (国際標準) ) の遵守を示唆
世界的視野の人材を創る「世間学」の必要性を強調している
日本はクールジャパンを通じて双方向に新しい文化を構築し、グローバル社会に貢献しなければならない

参考文献 : 笹谷秀光著「ビジネス思考の日本創生・地方創生 『協創力が稼ぐ時代』
著者は東大卒農林水産省 1977年、1981~83年フランス留学、1987~1990年 米国日本大使館、2008年 農水省退官、同年伊藤園入社 2010~2014年 取締役 2014年 常務取締役
官僚出身者としては柔軟な発想の持ち主

以上

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