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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~グローバルに仕事をする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :2月号

 「一言も話すことができなかった、、、、」 30分間のウエブ会議を終えた私は、5分間程度、呆然とパソコンの画面を見つめていた。ダイバーシティ推進をグローバルに進めようという取り組みの一つとして、プログラムに関連した活動をするチームのメンバーが集まった会議だった。イギリス人女性がリーダーとして場を仕切り、そこに、イギリス人の別の女性が一人、アメリカ人の女性が二人と、日本からは私ともう一人が参加した。
 その日私は外出先からパソコンをつないで参加したのだが、そこに、最初の落とし穴があった。ウエブ会議に参加するのは数年ぶりで、すっかりやり方を忘れてしまっていた。会議の冒頭に行われた各自の自己紹介。何を言うか準備万端状態で、Taeko と名前を呼ばれたので勢いよくしゃべったのだが、どうも反応が無い。そのうちに「Taeko はこの会議に参加しているのか?」といった声が聞こえてくる。「エー? 私の声が皆に聞こえていない!」そう気づいた私が次に取った行動。パソコンの右下のスピーカーボタンでミュートになっていないことと、音量のチェック。「大丈夫なはずなのに、なぜ聞こえていないの???」
 そのうちに、司会をしていたイギリス人女性の声が聞こえた。「サインイン状態を見ると、Taeko はこの会議に参加していることになっているわ。私達の声は聞こえているから大丈夫。」良かった~。少なくとも参加していることは皆に伝わっている!なんて喜んでいる場合ではない。必死にウエブ会議の画面をいじった結果、ついに、ウエブ会議の画面上でミュートを解除するボタンを発見!「よし、これで大丈夫」気持ちを落ち着かせて皆の話を聞こうとしたのだが、今度は、話し手の声がハウリングしてよく聞き取れない。設定の問題だったかもしれないが、電話会議の時には感じない障害だった。ハウリングに慣れようとしている一方で、皆の話はどんどん進んでいく。
 ハウリングに慣れるだけでも大変なのに、今回は、4人のネイティブスピーカー同士がピンポン玉を打ち返すような早いテンポで話を進めていく。しかも、司会のイギリス人女性は、私が普段聞き慣れていないイギリス英語で、しかも訛りが強い。その上、話すスピードは 2倍速ぐらいで、難解な単語を使う。1 対 1 で話をしているのなら、わからない箇所があれば、「今の単語ってどういう意味?繰り返し言ってくれる?」と言える。しかし、この日は私には、皆の話し合いに割って入る勇気も気合もなかった。最初につまずいて、自己紹介ができなかったというちっぽけなことを引きずり、上手く話しに入り込むきっかけをつかめなかった。
 「どう話したら上手く入り込めるのだろう」と考えているので、集中して聞けていない。一方で、話はどんどん次の話題に移っていく。英語のレベルを考えると、もう一人の日本人は私以上についていけていないはず。実際、彼女も終始無言だった。となると、今回は、私が日本の立場で何かを言ったほうがいい場面だった。でも、できなかった。上手く話しの流れが理解できていないから、ここで何か言って、「レベルが低い人」と思われるのは嫌だ。そんなつまらないプライドも、私の発言を邪魔していた。
 30分が経過し、「他に誰か何か言っておきたいことない?」司会のイギリス人女性が言った時も、何も言えずじまいだった。頭の中では言いたいことが渦巻いていたのに、、、こうして、30分間のウエブ会議は、終わった。
 「グローバルでは発言をしないと、会議に出ている意味がないと見なされる。だから、積極的に発言を!」と、東北大学で英語指導をしている際に口をすっぱくして熱弁している私自身が、今回はそれを実践できなかった。課題は何だったのか。ウエブ会議用のツールの使い方を把握していなかったこと。そして、イギリス訛りの二倍速の英語に慣れていなかったこと。ネイティブスピーカー同士の会話に久しぶりに参加したこと。そして何よりも、恥をかきたくないという気持ちを乗り越える強さが不足していたこと。これまで、グローバルに仕事をする力は十分あると思っていた。しかし新年早々、まだまだ精進が必要だということがわかった。改善の余地がある、そうポジティブに捉え、今年一年精進していこうと思う。英語が得意な皆さん、ネイティブスピーカー同士の高いレベルのディスカッションでも存在感を出せるようになりたいですね。

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