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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~脳をより多く使う力~

井上 多恵子 [プロフィール] :1月号

 「脳は一生育ちます!」というキャッチーなタイトルと共に、磁気共鳴画像装置 (MRI) で撮影した 44歳、50歳、75歳の女性の方の脳の画像が、日経インテレッセ (日経新聞の折り込みとして配布) に掲載されていた。歳を取ると脳は衰える、と考えるのが一般的だろう。しかし、掲載されていた画像によると、なんと、行動的ではない 44歳の方の脳には衰えが見られる一方、食事に気をつけ、行動的に暮らしている 75歳の方の脳は、一般的な 50歳の方の脳と比較しても遜色が無かった。人は脳の一部しか使っていない、と以前何かで読んだことはあったが、普段の習慣等による脳への影響を画像で語られると、説得力がある。
 同記事によると、1000億を超える脳の中にある細胞は、似た働きをするもの同士集まって、8つの「脳番地」を作っている。そして、異なる「脳番地」は、意図的に鍛えることができるという。例えば、私は「記憶系脳番地」が弱い。その点について、「強みを活かせばいい。記憶力が弱い分は、エバーノート (ネット上に情報を記録できるソフト) に頼ることで乗り切ればいい」と開き直っていたが、そうしていると、ますます衰えてしまうらしい。「40代から積極的に刺激を」と書かれているので、私の場合、ますますもって、「記憶系脳番地」を鍛えないといけない。以前このジャーナルで書いた、「人の名前を覚える際に、連想して覚える」工夫。その際、覚えた「矢沢さん」という方のお名前は、「矢沢永吉」と連想し脳内にイメージをくっきりと描いたせいか、半年以上たった今でも、覚えている。一方、そういう努力をしなかった方の名前は、すっかり忘れてしまっている。
 記憶をする際は、「ワクワクする楽しい感情と連動させて鍛えると効果大」ということだが、そもそも、どちらかというと、「クールで落ち着いている」タイプである私自身、長い間「ワクワク」したことがない。これはまずい。そう思っているせいか、スポーツ選手や芸能人やハリウッドスターが「ワクワクしています」と言っていることに気づくことが多くなった。先日ある短大で、学生が 5年後の自分について語っている場で講評する機会があった際も、19~20歳の学生が醸し出していた「ワクワク」感がまぶしかった。「ワクワク」感を得るためには、新たな刺激を取り入れるなどして、「感情系脳番地」を鍛えるといいらしい。研修講師をする際には、「楽しく学ぶことが大事!」なんて言っているが、そう言っている自分が、もっともっと楽しめるところから始めていきたい。
 「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」に携わる我々は、さまざまな「脳番地」を鍛えやすい立場にあるのだと思う。多文化に触れることで新たな刺激を取り入れることにより、喜怒哀楽など感情をつかさどる「感情系脳番地」を鍛えることができる。また、日々の仕事を通じて英語等を使う中で新しい表現を覚えることで、情報を蓄積する「記憶系脳番地」を鍛えるのに役立つ。私も、英語を母国語として使う人々との日々のやり取りで学んだ「今の英語表現」を、自分も意図的に使うようにしている。また、多様な英語の発音やイントネーションを理解しようとよく聞くことで、「聴覚系脳番地」を鍛えることにもつながる。私も、最近聞きなれない訛りと単語を使って 2倍速で話すイギリス人や、これまた訛りがきついシンガポール英語で話すシンガポールの方と接する中で、私の英語におけるダイバーシティ対応力の欠如を感じている。それ以外の「脳番地」についても、プロジェクトを進めるにあたり複数の人とやり取りをする中で、コミュニケーションに関連する「伝達系脳番地」を、計画立案等のさいに「思考系脳番地」を、そして、様々な情報を取り扱い作業の手順をしっかり考えながら動く中で、外からの刺激を理解する「理解系脳番地」を、鍛えることができる。意識してものを見るとよい「視覚系脳番地」や、体の各部位を動かす「運動系脳番地」は直接的にはつながらないので、これらは週末等の余暇の時間にスポーツや趣味等を通じて磨くと良いのだろう。
 これからもできるだけ健康的に生きていくために、「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」に携わっている利点を活かし、体・心に加えて、脳にも関心を持っていきたい。

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