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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~協力が得られる、伝える力~

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 数か月前から、共著本の改訂作業に追われている。「追われている」という表現はせわしい感じがしてあまり使いたくないのだが、実際「追われている」感じがしている。2003年に初版を出した留学・転職希望者向けの本で、今夏出版社から「在庫が減ってきているから重版を検討しましょう」という連絡があった際は、「嬉しい!有難い」と感じた。出版がいかに難しいかを知っているからだ。その後、出版社から「重版だけだと書店に並びづらいから、改訂版にしましょう」と言われた時も、「改訂版にして部数が増えるのなら、尚良し」と受け止め、「いつ頃原稿をもらえますか」という問いに対しても、「一ヶ月位ですかね。ダラダラやっても仕方が無いし」と調子がいいことを言っていた。
 ところが、実際に改訂作業に取り掛かってみたら、想定以上に大変な作業が待っていることがわかった。PCが以前こわれたために、2011年に改訂した際の原稿が残っておらず、2003年時点の原稿を2011年レベルに持ち上げることからスタートせざるを得なかった。中身の見直しについては、大学院のウエブサイトの出願関連ページやアピール表現を参照している箇所を、全て書き直す必要があることがわかった。2003年当時にウエブサイトに掲載されていた表現は、さすがに、使用するわけにはいかない。当時とは、出願者に大学院が求めるものも変化している。そこで、一つひとつのサイトを調べ、決められたページ内に収まるように分量を調整し、大体の目途がついた時点で、計 12校の大学院に利用許諾を得るためのメールを送る作業を行った。ウエブサイトからコンタクト先を見つけ、丁寧な依頼メールを送付した。私が海外でも名が知られている日本の大学院の非常勤講師であることも、日本人の留学希望者を支援したいという利用目的も伝えたし、大学院にとっても宣伝になるから、快諾がすぐもらえるだろうと考えていた。
 ところが、一週間たっても、一つも返事が来なかったのだ!企業の一員として依頼する場合と、個人として依頼する場合の違いをまざまざと感じた一週間だった。再度メールを送ったところ、2 校から、「具体的にどの部分を引用したいのか、明記してくれ」との返事が戻ってきた。 1 回目のメールにも、使いたいページのURLは記載していたが、それでは不十分だったのだ。そこで、引用箇所が多く長いメールにはなったが、2 校に返事を送ったところ、「快諾」の返事がきた。それだけでなく、引用箇所を具体的に書いて催促メールを他校にも送ったら、それまでなしのつぶてだった複数の大学院からも、「快諾」の返事がきたのだ。
 「協力が得られる伝え方」というものを、改めて実感した一連のやり取りだった。知名度がある企業の一員として、私が大学院に依頼していたのなら、「判断するために、こういう情報を送付して欲しい」という返事がほとんどから届いただろう。しかし、一個人で依頼を出した場合は、不十分なメールに対して、そこまで親切に対応してくれるほどの気持ち的、時間的余裕を持っている人は少ないということなのだろう。相手が判断しやすいメールの書き方にすることが、依頼者には求められる。
 Give (与える) することで、期待していた以上の協力を得られることもある。先日、あるトレーニングに関する最新の研究文章を海外の同僚に送付し、合わせて、海外で提供しているトレーニングの資料を共有させてもらいたいという依頼を理由とともにメールで伝えた。すると、一度も会ったことが無い同僚の一人が、資料を送付するだけでなく、電話で説明してくれる、と言ってくれたのだ。”Thank you for sharing.” (共有してくれてありがとう!) という言葉と共に。
 仕事を円滑に進めるためには、周りの人の協力が欠かせない。そのためには、いかに周りの人たちに喜んで協力してもらえるかを、相手の立場に立って伝えることが、ベースとなる。職場の同僚があるイベントを企画しており、その案内文に対するコメントを求められた時も、私なりの視点でコメントした後、「参加してくれそうな人に読んでもらい、来たくなるかどうか、確認するといい」とアドバイスした。
 最後に、英語のネイティブスピーカーが、「英語を母国語としない相手の立場に立つ」伝え方を学んでいる例を紹介したい。「グローバル時代の英語の使い方」をテーマにしたウエビナー (オンライン上の講義) の中で、単語を個々に訳しただけでは意味が伝わらない慣用句を使用しないこと、can’t の最後の ”t” は聞き取りづらいから、cannot と言い換えること、二重否定表現、例えば、You don’t want to go there, do you ? は、混乱させる要因になるので使わないことなど、何点かポイントが挙げられていた。英語のネイティブスピーカーが、こういった点をより一層学んでくれると、英語が苦手な方にとっては、少し楽になりそうだ。

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