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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~国籍や文化が違う人たちと一緒に仕事をする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 ラグビーワールドカップ 2015で歴史的な 3 勝を上げたラグビー日本代表。私も多くの日本人同様、にわかファンとなり、彼らの熱い戦いぶりを応援した。ごつい体格の男性は、それまであまり好きではなかった。暑苦しいとさえ思っていた。今は純粋に、彼らを「かっこいい!」と思う。「男らしさ」という言葉の意味も、少し理解できるようになった。その流れで、先日五郎丸選手が出演したワールドビジネスサテライトも、録画をして視た。
 同番組でキャスターが語っていたように、ラグビー日本代表の活躍から日本企業が学べる点は多い。特に、「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」を進める際には、役立つ点がたくさんある。国籍や文化が違う人たちの集まりであるラグビー日本代表は、ダイバース=多様な集団だ。ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏はオーストラリア出身。キャプテンのマイケル・リーチ氏は、ニュージーランド出身で、日本に帰化している。選手の約 1/3 は外国出身で、英語しか話せない人もいるし、一般的な日本人と比べると、自己主張が強い選手もいるという。普通に考えれば、そんなチームの運営は、相当大変だ。
 多様性のありすぎる集団がどうやって一丸となり、勝利できたのか。その秘訣は、明確な高い中長期目標の設定、単年度の目標への落とし込み、定量的な体調・運動量の管理、ドローンなど最新のテクノロジーも活用した練習、目標達成に向けたトップのぶれない姿勢、日々の練習を自分の100%でやる選手一人ひとりのコミットメント、日本国歌の練習を通じた共通の価値観の醸成、苦しい120日間におよぶ合宿を共に乗りきった共通体験等々だ。
 これらすべてが、プロジェクトマネジメントにも適用できる。4 年で世界ランキング上位 10位に入るというとてつもなく大きい目標。「本当に実現できるのか半信半疑だけれど、いけるかも?」と五郎丸選手に思わせた、ぎりぎりのストレッチされた目標。世界における日本の実力と可能性を冷静に見極めることができたからこその設定だ。そして、年ベースでのマイルストーンの設定。とてつもない目標も、ブレークダウンすると実現可能に感じやすくなる。どんな目標とマイルストーンをプロジェクトで設定するかは大事だ。簡単すぎてはチャレンジングにならないし、高すぎては、あきらめ感が出てしまう。ややもすると、マイルストーンが深く考慮されずにおかれてしまう。これでは、メンバーの士気に影響が出てしまう。
 背景が異なるメンバーが集まっている際には、共通の価値観の醸成は不可欠だ。ダイバーシティのメリットを享受するためには、「インクルージョン」がセットでないといけないという。「インクルージョン」とは、属性や性格や考え方における共通項や共通の価値観を通じて、各人がそのグループへの所属意識を感じられること。そして、各人が自分ならではの貢献ができていること。そんな状態のことを言う。ラグビー日本代表の場合は、共通項は、ラグビーへの想いや日本のために戦うことだったのだろうか。そして、自分ならではの貢献。ラグビーの場合は、試合の中での各人の貢献はわかりやすい。しかし職場での仕事だと、見えづらい側面がある。また、与えられた仕事をやるという環境の中で、自分ならではの貢献が何なのか、じっくりと考えたことがない人が多い。各人が自分ならではの貢献のもととなる強みを発見できるような場を提供すると共に、プロジェクトリーダーが各人の強みを把握し、それを発揮しやすいようなアサイメントをしていく必要がある。
 定量的な体調・運動量の管理は、プロジェクトでいうと、メンバーの体調・業務量や進捗の管理になるだろうか。最近企業でも、各人のストレス状態を見える化する動きはあるが、定点観測で、日々チェックするレベルにはいたっていない。業務量や進捗の管理の一環で始めた各自が月報を書く取り組みも、いつのまにか、なされなくなってしまう状況を何度か見てきた。日々の積み重ねの大事さをわかってはいても、ラグビー日本代表ほど実践できていない人は多いだろう。
 目標達成に向けたトップのぶれない姿勢というのも、実践は難しい。私がある組織を率いていた時は、特に周りの人の意見に影響を受けて、ぶれていた。エディー・ジョーンズ氏のような信念は、世界の中で挑戦を続けてきた結果、醸成されたものなのだろう。
 五郎丸選手は、厳しい合宿から何度も逃げ出したいことがあったと語っていた。それでも、逃げずにとどまった。「ラグビー日本代表、かっこいい! 応援します!」と言うだけでなく、彼らの挑戦に学び、少しでも仕事の場に取り入れていくことが、彼らの頑張りに報いることになる気がしている。

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