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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~一緒に仕事をしたいと思ってもらえる力~

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

 どんなに能力があっても、「一緒に仕事をしたくない」人がいる。片や、「これからも一緒に仕事をしたい!」と思わせてくれる人がいる。この違いはどこからくるのだろう。
 9月に開催されたPMシンポジウム2015で、講演をされた KPMA (韓国プロジェクトマネジメント協会) の会長 Young Cheol Lee さんは、典型的な後者のタイプの方だ。日本プロジェクトマネジメント協会 (PMAJ) から依頼を受け通訳を引き受けたものの、彼に直接会うまで、不安な気持ちがあった。複数の企業でトップマネジメントを経験されてきたご経歴。協会の会長という現在のポジション。男尊女卑の傾向があると以前聞いたことがある韓国出身の方。韓国語を日本語に通訳する人が見つからず、代わりに、英語を通訳する私が担当することになった経緯。相当偉ぶった、かつ、不機嫌な人に違いない、勝手に想像を膨らませていた。
 実際にお目にかかると、それは全くの杞憂だった。それだけでなく、講演前の打ち合わせ、講演後の振り返り、帰国後のお礼メールを通じて、私は Young Cheol Lee さんのファンになった。偉ぶったところは全くなく、通訳の私にも礼儀正しく接して下さった。打ち合わせ時に、「こんな英語表現のほうが、より上手く伝わるかもしれません」とアドバイスをして差し上げると、それを受け入れて下さり、お礼メールの中でも、「ガイダンスに感謝しています」という表現を贈って下さった。偉い立場の方であるにも関わらず、下の者から謙虚に学び、いいプレゼンにしたいと熱心に準備された姿。通訳の私にもお礼を言って下さったこと。Young Cheol Lee さんのような人格者と、仕事を通じて知り合えた私はラッキーだった。
 日本プロジェクトマネジメント協会の前理事長の田中さんも、魅力的な方だ。田中さんからは何度もお声掛けをいただき、フランスの大学院や一般財団法人海外産業人材育成協会 (HIDA) や慶應義塾大学大学院経営管理研究科 (KBS) で、プロジェクトマネジメントの講義を一部担当させてもらっている。素晴らしい経歴・実績をお持ちの田中さんも、偉ぶらず、質問には熱心に答えてくれ、また、私がやりたいように、自由に講義をすることを認めてくれる。いつもエネルギッシュで、私や回りの人のいいところを見つけて褒めてくれる。こんな田中さんだからこそ、世界各国に知人がいるし、一緒に仕事をしたいと、仕事の依頼が次々来るのだろう。
 同じく日本プロジェクトマネジメント協会の古園さんと深谷さんも、好印象を与える人たちだ。古園さんは、相手のために手を抜かず、とことん尽くすことができる人だ。私が東北大学大学院で講義をする際には、学生の学びにつながるようにと、性能の良いビデオ機器を事前に送り、講義中は縁の下の力持ちとして、撮影に徹してくれる。しかも、恩着せがましいところはない。古園さんに、個人的に大変世話になっていると感じているPMAJ会員の人は多いと思う。深谷さんは、このオンラインジャーナルの編集長だ。毎月月末になると大量に届く原稿を読み、校正等必要な処理を行う。私は締切を守らない常習犯だ。「しっかりしろ!」と怒りたくなることも多いはず。それにも関わらず、原稿を読んだ感想として、書き手が嬉しくなるような一言を届けてくれる。深谷さんのハートが暖かいからこそ、できることなのだろう。
 私の父親も、尊敬に値する仕事人だ。父親が立ち上げたビジネスを十数年手伝っているが、嫌な気持ちになったことは一度も無い。最初は根気強く教えてくれ、その後徐々に仕事を任せてくれた。全幅の信頼を置き、任せたことには口出しをせず「素晴らしい!」と褒めてくれ、お客様から感謝の言葉が届くと、「良かったね」と共に喜んでくれる。父親の仕事を手伝うことで、どれだけ多くの自信を私は得てきたことだろう。
 「一緒に仕事をしたいと思ってもらえる力」を持つ人の共通点、それは、偉ぶらず、相手のことを思いやり、相手が力をより発揮しやすくなるような言動を取ることではないだろうか。一方、私が、「この人とは、一緒に仕事をしたくない」と思う人は、相手を批判し、意気消沈させ、力を出せなくなるような言動を取る。私がもっと前向きな人間なら、こんな人に対しても苦手意識を持たすに、上手くやれるのかもしれない。だが、残念ながら、人間関係改善のためのノウハウ本や雑誌をいくら読んでも、私はその境地には至っていない。だからこそ、よりできそうなこととして、「一緒に仕事をしたいと思ってもらえる人」を目指したい。これまで多くのロールモデルに出会ってきたから、目指すゴールはわかっている。後は実践あるのみ!

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