グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第99回)
一帯一路

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :2月号

 1月17日蘇州から上海経由帰国して、米欧がイラン経済制裁を解除するとのニュースに接し、続いて 22日に我が国もイラン制裁解除を発表した。これを私は心待ちしていた。1970年代前半に勤務先でイランの製油所案件が受注寸前で、指名を受けて、私はイラン北部のサイト赴任の準備をし、美しい国イランに思いを馳せていた。しかし、急激な円高が進み、土壇場でイタリア企業に受注をさらわれた。その後 30年を経て不思議ながらイランと縁ができた。イラン訪問はまだ叶ってないが、フランスの大学院で 4名のイラン人大学院生の指導教員を務め、イラン国営企業の管理職研修を行っていた。
 
 特に思い出深いのは最初の修士課程生の指導で、イラン制裁が強化された 2010年に、フランスの奨学招聘企業にも所属大学院の教員にも知らんふりをされ困り切った石油工学専攻の彼女は、パリでの講義に出かけた私に業界の匂い感じ取り、修士論文のスーパーバイザーになってくれるように懇願しにきた。自分の三女と同じ年頃の学生の思いを汲んで指導を引き受け、3か月突貫でまとめた修士論文「原油・ガス田開発プロジェクトのリスクマネジメント」が世界トップクラスの経営大学院 (ビジネススクール) である HEC Paris に評価され、奨学金付きで博士課程に進学できた。その彼女は 5年の博士課程を順調に終えて、今年 9月の新学期からカリフォルニア大学フラートン校の助教授になるとの連絡がきた。そして、いま、多分、私のフランス大学院で最後の博士課程生となる学生も博士論文を提出し最終審査をもうじき迎えるが、イラン人で天然ガス産業の管理職である。二人とも今年 6月が卒業となる。今年は是非イランに彼らのお祝いに行きたいと思っている。
 
 2008年、日本プロジェクトマネジメント協会が 2回目のグローバルPMフォーラムを東京で開催した際、理事長であり大会組織委員長であった私は「今まさにPMはユーラシアが軸になる時代である」と宣言した。この呼びかけに応え多くの方々がユーラシア大陸から参加してくれた。以来私は、ぶれることなく、ユーラシア大陸を北はロシアから南はインドまで、西はフランスから東は中国まで往来してPM交流を自然体で行っている。
 
 ユーラシアといえば、目下私の最大ともいえる関心事は中国の「一帯一路」政策の進展である。中国の経済減速が伝えられるなか 1月中旬にまた蘇州に行った。私の学生の勤務先のホテルチェーンの CEO とも懇談したが、当企業は 2015年度も前年並みに増収・増益だそうで、これは経営がしっかりしていることによるが、サービス産業が経済減速の影響を受けるには時差があるので今年は試練の年であろう。 CEO は蘇州出身であるが、長くシルクロードの入り口の一つである新疆ウイグル地区ウルムチに住んでいたそうで、新シルクロード政策である一帯一路政策の話題が大いに弾んだ。

一帯一路構想
一帯一路構想 (出典 : THE PAGE)

 一見大風呂敷にも響く一帯一路政策であるが、中国での官民一体のビジョンに接し、また、欧州やアフリカで毎年存在感を増す中国企業や中国人商人を実地でいやというほど見て、私にはかなり現実味がある政策と映る。昨年 10月、上記図で示されたようにかつてのシルクロードの起点、また現在の一帯一路の起点である中国・西安で開催された中国プロジェクトマネジメント協会 (学会) の 2015年次大会で海外 VIP 筆頭として基調講演を行ったが、冒頭の中国側基調講演を行った中国政府代表 (地元陝西省の第 2位) の一帯一路構想のプレゼンテーションにいたく心打たれた。感じ取ったことは国が発展するためのビジョンとロマンをいかに強く (ほとんど強引に) 世界に発信するか、である。中国が真のグローバル・パワーになるにはやならければならないことが極めて多い、しかし、いまや世界のほとんど国が失っている発展に向けた見えるエネルギーが中国にはあると思う。
 
 かつて日本が世界で経済的な躍進を遂げた際には経済産業省の政策下、我が国企業力の総和自体がドライバーとなった。現在はこのような‘国家資本主義’方式を受け継ぎ、日本にはなかったグローバル・プロパガンダを打つ中国が、政治的には今も共産主義国ということは大変複雑なことだ。

中国PM大会に於ける陝西省発展開発委員会総統の基調講演
中国PM大会に於ける陝西省発展開発委員会総統の基調講演

 この原稿を書いている今 (1月22日)、ウクライナの英雄の一人であるウラジミール・タタレンコ博士が、“飛行中大事故が起きても乗客が死なない旅客機”の設計モデル開発に成功し、西欧を中心に 110社から開発出資のオッファーがあるとの TV報道があった。ウクライナは世界的な航空機・ミサイル技術を有し、現在世界最大サイズの航空機を自己開発した国である。他にも基礎科学技術で優れた点がいくつかあるが、どうも市場化が下手である。出自からするとウクライナの兄弟であるロシアにはある種の国家推進エネルギーがあるが、ウクライナは旧ソ連の伝統を受け継いでいるのにエネルギーに欠けるのはウクライナを愛する私には残念でならない。  ♥♥♥


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