図書紹介
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明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい
(樋野興夫著、幻冬舎、2015年8月25日発行、205ページ、第3刷、1,100円+税)

デニマルさん : 2月号

2015年末に日本出版(株) は、年間ベストセラー本のランキングを発表した。そのベスト10位内に、ここで取り上げた「火花」 (又吉直樹著、1位)、「一〇三歳になってわかったこと」 (篠田桃紅著、5位)、「置かれた場所で咲きなない」 (渡辺和子著、6位、2013年10月号) が3冊も入っていた。これらベストセラーとなった本には、幾つかの特徴がある。先ず、著者であるが、人気作家は読者の心を掴み多くの本を書いている。選ばれたランキングから、東野圭吾氏や池井戸潤氏は毎年の様に選ばれている。また、出版社も人気あるテ-マや著者を発掘して話題性のある本を出版している。特に、昨年は話題を一人占めした感じの出版社が10位中4冊も占めていた。今回紹介の本は、その出版社から出された本であるが、現時点では話題となっていない。然しながら、内容的に斬新であり普遍性のあるポイントを捉えている。どんなポイントかは、読んでの楽しみである。著者は、医学博士で大学教授、専門分野は肝がんや腎がんで多くの功績を残され、数々の学術賞を授賞している。

この本が書かれた背景 ( その1 )        ――がん哲学外来――
著者は、2008年から「がん哲学外来」を開設した。これは「がん=死」のイメージからがん患者と家族の不安を解消させるために「医師と患者が対等の立場で語り合う場」として開始された。この外来にはカルテや聴診器の代わりにお茶とお菓子があると紹介している。そこでは医学的治療も薬の処方も一切せずに、患者一人ひとりに「言葉の処方箋」を出している。これは現在の医療現場で欠けている問診による処方の実践である、と書いている。

この本が書かれた背景 ( その2 )     ――人と比べない生き方――
一般的に、がん告知されると約 3割の人が、ウツ的症状になるという。それは「がん=死=生きる希望喪失」からだという。そこで医師である著者は、自分の生きる役割や使命を探すための「診療」をしている。多くの人は、病気になる前の自分と病気の自分を比べて、将来が見えなくなる。更に、健康な人と病気の自分を比べて失望する。人と比べない生き方=自分の果すべき役割を全うする (生きる使命) を見出すのが、医師の役割だという。

この本が書かれた背景 ( その3 )     ――命より大切なもの――
この本の題名は、マルティン・ルター (ドイツの神学者、牧師) の言葉から著者流にアレンジしたと書いている。これは 『命が何よりも大切と考えない』 ことが人は幸せな人生を送れるという考え方だという。命が一番大切だと考えると、死を恐れ怯えて生きることになる。生きとし生けるものはいずれ死する。ならば命より大切なものを見つけ出し、自分とは別なものに目を向けて生きる目標とする。この本はその生きる道標を教えてくれる。

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