さて、2ヶ月連続で、A 社の事業活動と太平洋戦争における日本軍の動きを対比して論じてきた。本号はその最終回である。11月号にて日本の A 社がチャンスを目の前にして、米国 B 社に市場を奪われる事例を述べた。複数の実話からの創作事例だ。12月号では、この事例を、戦後ベストセラーとなった「太平洋海戦史」 (高木惣吉@岩波新書) と比較して、戦略と計画の観点から考察した。
A 社 M部長は、社長の言動を間近で見聞きして性格や考え方を知っており、日本に有り勝ちな縦組織の力学や、自ら歩んできた現場に精通している上級管理職だ。上層部の信頼を得ていることが前提だが、このような立場の人が自分の信じる計画を本気で説得すればその意思をほぼ通せる。戦略性よりも関係性の重視である。戦略とリーダーシップは一体だ。従い、関係性の重視はリーダーシップの不要論に繋がる。良く云われる「お神輿」に乗る社長だ。 A 社の場合、社長が最終的な決断した形を取っているが、実質は M部長の根回しで決まっている。この場合、社長のリーダーシップは不要だ。
戦略があってこそ、実現性の高い絞られた迫力ある計画となる。 M部長の思惑通り、A 社新製品は発売当初は爆発的に売れた。しかし、中長期計画が策定されていなかった為、自社工場内の増産スペースはなく、外部委託先も開拓しておらず、まして新工場棟用の土地の確保は考えてもいなかった。ベテランM部長の思いつきと熱意により事業がすすめられたが、製品戦略に基づく製造や販売の推進や先まで見通した事業戦略は無かった。さらに最大の競合先である B 社の動きも甘く見ていた。大きなチャンスを逸しただけでなく、B 社の反撃を受け経営は以前より悪化してしまった。