例会部会
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【第204回例会 報告】

PMAJ 例会部会 増澤 一英 [プロフィール] :1月号

【データ】
開催日: 2015年11月27日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「プロジェクトを成功に導くデザイン方法論」
~複雑なグローバルプロジェクト、プログラムにおける適用事例~
講 師: グローバルプロジェクトデザイン・ジャパン株式会社 代表取締役
池 大 ( いけ だい ) 様

今回の例会は、プロジェクトデザインです。プロジェクトの納期や予算がなかなか守れない、という状況の問題解決に有効なテーマだと思います。
一見、漠然としたテーマに思えてしまいますが、本当のプロジェクトデザインの手法は何なのだろうか?と考えたことはありますか?

以前は、エンジニアリングや建設のプロジェクトは、ITプロジェクトに比べて成功率が高いと言われましたが、近年、エンジニアリングプロジェクトでも大きな予算超過や遅延が発生しています。ITプロジェクトの失敗率は実に 70%と言われているとのことです。これだと、何のためにプロジェクトを実行しているのか、やる気のなくなる状態ですね。原因の一端はプロジェクトのグローバル化と多様化がある、というのはよく聞くお話しです。

最近のプロジェクトは、多企業連携、プロジェクトの成果物も多様化、ますますスピード感が要求される、といった特徴があるのは皆さんが感じていることだと思います。その中で上手にプロジェクトを遂行するには、プロジェクト遂行要領に従っているだけでは対応が難しくなっているというのが現実だと思います。

プロジェクトが予定通り終わらない要因として、幾つかの内的/外的要因があげられます。プロジェクト管理の問題、見積もり時の誤算、予期せぬトラブルや変更の発生、文化の違いもあります。たとえば、プロジェクト管理は企業が最も注力しているテーマではないかと思いますが、なかなか情報の透明化と共有が思うようにならず、判断の遅れを生じている気がします。見積もり間違いは面白いくらい耳にしますが、一番簡単な言い訳の手段とも思えます。予期せぬリスク対応にコンティンジェンシーを積めばいいというものでもありません。現在のプロジェクトは文化や商習慣や地理的隔たりを克服するのが大きな課題なのですが、意識の共有という点では、プロジェクト管理も、見積もり条件の不徹底も、リスクの対応も、実はコミュニケーションギャップが一番の原因だった、と言うことのようですね。
ここで、二つの点に気が付きました。一つ目は、情報の共有化のためにはコミュニケーションギャップを埋めるための『知識と技術』が必要なこと。二つ目はコミュニケーションギャップを埋めるのに必要な 『Coordination』 の時間 (成果物を生まない時間) を正しく計算に入れなければならないことです。プロジェクトデザインの手法はこのような課題解決のために生まれたものだと理解できました。

色々な課題やリスクを乗り越えて、プロジェクトを柔軟に実行するために、プロジェクト毎に作業計画を最適化しておく必要があります。先ず、ワークショップを行い専門家の知識を共有することが重要です。
ワークショップでコミュニケーションギャップを埋めていくのには、さまざまな手法があると思いますが、プロジェクトデザインの手法は、ワークショップで提案されるさまざまな実行計画案に対して、ケースごとに 『見込み (Forecast) 』 を定量的に示すことが一つの特徴です。ワークショップのシミュレーションの結果が次のワークショップでの比較基準になります。シミュレーションの見込みとワークショップ後の見込みを比較して、価値の違いを評価することで、バランスの良い基準線を設定するというサイクルを繰り返し、最適なケースをベースラインに設定する、という手法です。
そのプロセスの中で、各チームとプロダクトと相互の関わりが明確にされ、専門職の知識、経験、リスク観、スケジュール、コスト、が共有されます。見込みについて、前の計画との比較評価を行うことも重要です。繰り返しシミュレーションを行うことで最適化できる計画が生まれますので、その評価を共有して更に最適な実行計画 (色々な前提条件がまとめられます) を設定していくのがプロジェクトデザインの基本的な手法だと理解できました。実行計画を作成するサイクルの中では、どのような Coordination が発生するのかもカレンダーや時間単位で考えていかねばなりません。夫々のチームのインプット→アクティビティー→アウトプットの流れには必ず Coordination が発生します。プロジェクトの実行計画には正しく考慮する必要があります。

プロジェクトデザイナーが、提案の価値評価を進めるところも、ファシリテーターにない特徴だと思います。プロジェクトデザイナーとしてコンサルティングを行う場合、最初の提案をデザイナーが行うとのことですが、これが最も時間と体力の必要な仕事だそうです。
計画に労力を要しますが、『計画の評価を共有して、繰り返し提案を絞り出すプロセス』 は、間違いなく堅実なやり方だと思いました。実行フェーズでも、現在の状況が的確に把握できていれば、それに応じた改善案のワークショップを適宜実施して、継続的にプロジェクトの推移を予測できます。

さて、ガントチャートを作るだけでも何日もかかるようなプロジェクト計画フェーズで、しかも、多くの関係者がテレビ会議で参加するようなプロジェクトでは、メンバーの割ける時間も非常に制限されます。このような膨大な計画作業サイクルを短時間で回転させるためのツールが必須です。GPD社では、『Team Port』 という計画と評価の支援システムを活用しています。市販はされていませんが、コンサルティングと一緒に提供されるツールだそうです。
プロジェクトの 『Workflow』 と 『Product』 と 『Team』 の関わりの可視化、
作業計画の調整、修正、現実化、
スケジュール、コスト、リソース、リスクの落ち着き予測の評価
というステップで、プロジェクト計画の最適化を図るためのツールです。PMAJからもプロジェクトデザインのワークショップに参加した方がいて、2時間程度で20回位のシミュレーションができ、そのうちの 4件は特に現実的な最適案として、最後のプレゼンテーションの際に発表された、とのことです。ユーザーフレンドリーなツールで、提案の過程もトレースできます。

プロジェクトのモデル化
プロジェクトのモデル化
リスクマトリクス アクティビティー依存関係評価
リスクマトリクス アクティビティー依存関係評価
コスト・リソース・スケジュールの予測
コスト・リソース・スケジュールの予測
コスト・スケジュールのデザインウォーク Forecast経過
コスト・スケジュールのデザインウォーク Forecast経過

池様に、『Team Port』 を実際に使った幾つかの事例を紹介していただきました。実績の落ち着きがプロジェクトデザインで再現された検証例もあるそうです。また、東京大学とMITでは、プロジェクトの効率向上に向けた、『Global Team Work Labo』 の取り組みに、プロジェクトデザインの手法と 『Team Port』 を採用しているとのお話も伺うことができました。

最後に、プロジェクトデザインの手法は、専門家の知識を盛り込んだ計画と予測を数量的に評価して、より最適な計画に練り上げるという、堅実な手法だということが分かったことは大きな収穫でした。 『Team Port』 を利用することで、理想的な解析や計画が楽しくでき、ストレスなくプロジェクト計画の最適化が実現できますので、早期市販化をお願いする声も聞かれました。穏やかな口ぶりで、エネルギッシュに小気味よいお話を聞かせていただいた池様に感謝いたします。ありがとうございました。

以上

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