PM研究・研修部会
先号   次号

ISO21504ポートフォリオマネジメントの手引

PM研究・研修部会 米澤 徹也 [プロフィール] :1月号

PM研究・研修部会セミナー (2015年11月20日に開催) で「ISO21504 ポートフォリオマネジメントの手引」をテーマとして取り上げたので、その内容も含めて ISO21504 の概要をここに記す。
先ずはISO化の流れについて簡単に触れておく。ISOでは、PPP (プロジェクト、プログラムおよびポートフォリオ) のマネジメントに関連するさまざまな標準の規格化を行っている。その第 1 弾として2012年9月に ISO21500 「プロジェクトマネジメントの手引」が発行された。これはプロジェクトの実施に重要で、かつ影響を及ぼすプロジェクトマネジメントの概念及びプロセスに関する包括的な手引きを提供したものである。
第2弾として本年 7月に ISO21504 「ポートフォリオマネジメントの手引」が発行されたが、更に今後も「プログラムマネジメントの手引」などの標準の発行が計画されている。

ポートフォリオマネジメントという言葉はプログラムマネジメントとともに、最近でこそ耳にすることが多くなってきているが 2000年の初めころまでは日本ではあまりなじみのない言葉であったと思われる。
簡単にポートフォリオマネジメント標準の歴史を見てみると、PMI® (米国PM協会) が 2005年に、それまではプロジェクトのマネジメント標準であったPMBOK®ガイド に加えて、プログラムマネジメント標準とポートフォリオマネジメント標準のガイドブックを発行した。
IPMA (国際PM協会) では、コンピテンスベースラインとしてのPM標準である ICB 第3版の中にポートフォリオマネジメントの言葉は出てくるが、それが独立した章としては触れられていない。それに対して今年 10月に発行された ICB 第4版ではポートフォリオマネジメントにおけるコンピテンス要素として独立した章として記述された。
英国商務局 (OGC) が発行した一連の PPP の標準の一つにポートフォリオ標準 M_o_P があるが、これは2011年に発行された (現在その版権は AXELOS社に移管)。
PMAJは2001年に P2M (プログラム & プロジェクトマネジメント標準ガイドブック) を発行した。ポートフォリオマネジメントについては独立した標準ガイドブックとしては発行していないが、P2Mのなかでポートフォリオマネジメントについても言及している。

さて、ISO21504 のポートフォリオマネジメントの手引では次のような構成で記述されている。
1. スコープ
2. 用語と定義
3. ポートフォリオマネジメントの原則
4. ポートフォリオマネジメントの必要条件
5. ポートフォリオのマネジメント

ポートフォリオマネジメントを端的に表せば、組織の戦略目標と整合性のとれた便益を最大化するための継続的なマネジメントということができる。そのために、便益実現に必要なポートフォリオを構成するプログラムやプロジェクトなどの要素を特定、定義、評価、選択する等のプロセスが含まれる。
ここでは ISO21504 の目次に従ってポイントをまとめてみる。
1. スコープ
ISO21504 はポートフォリオマネジメントに関する手引であり、どのような組織にでも対応可能で、さまざまな PPP環境に適合できることが意図されている。

2. 用語と定義
ポートフォリオ、ポートフォリオ構成要素、ポートフォリオマネジャー、戦略的整合性の 4つの用語が定義されている。ここでポートフォリオ構成要素とは、ポートフォリオを構成するプログラムやプロジェクト等のことである。

3. ポートフォリオマネジメントの原則
原則とは組織の環境に依らず適用できるものである。組織戦略と整合性のある便益の達成のために取り組むべきことは次のとおりである。
組織戦略との整合性の取れたポートフォリオ構成要素の選択
組織能力の最適化
便益最大化
ステークホルダーの期待の特定とマネジメント
可視性の確保
組織としてポートフォリオマネジメントの導入にあたっては、これらによる組織への影響を評価してその採用が決定される。

4. ポートフォリオマネジメントの必要条件
組織としてポートフォリオマネジメントを行う上で具備すべき要件で以下を含む。
ポートフォリオという投資に対してその必要性やそれから得られる便益を組織として正当化する仕組み
組織としてポートフォリオの構成要素 (プログラムやプロジェクトなど) を優先順位付けして取捨選択できるような基準や枠組み
ポートフォリオマネジメントのプロセスや報告体系と組織のそれらとの整合性
ポートフォリオのガバナンスの確立

5. ポートフォリオのマネジメント
ポートフォリオマネジメントは戦略的目標との整合性確保、便益最大化、コミットメントの達成、意思決定を継続的に実施するもので、そのプロセスは次のとおりである。
ポートフォリオの定義
潜在的ポートフォリオ構成要素の特定
ポートフォリオ計画の定義
ポートフォリオ構成要素の評価と選択
ポートフォリオの戦略目標との整合性の妥当性確認
ポートフォリオパフォーマンスの評価と報告
ポートフォリオのバランスと最適化
戦略と便益と継続的に整合させるためには、組織はビジョン、ミッション及び価値にもとづく組織戦略を戦略的目標に落とし込み、好機と脅威というリスク環境の中でポートフォリオ構成要素をマネジメントして便益を達成する。

PM研究・研修部会では、ISO21504 が発行されたことから、他組織のポートフォリオマネジメント標準との比較についても研究課題だと考えている。また、ISOからプログラムマネジメントの手引等が発行された際には、本誌面を利用して紹介させて頂きたいと考えている。

ページトップに戻る