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「エンタテイメント論」(94)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :1月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●先月号での約束
 今月号で「Live Fish & Dead Fishの掟とは何か?」を説明する事を前号で約束した。この「掟」は、転職のための「成功の方程式」である。


 本稿の読者で転職を考えている人物に是非この掟を学び、実践する事を薦める。また就職を成功させたい学生諸君にも。更に学生を就職させる事に躍起になっている大学関係者にも役立つ。特に、この掟を学ばせた大学は、その就職率の劇的な向上効果に驚く。実は、筆者が産・官・学の全く異なる分野での転職を成功させた秘密がこの掟を遵守したことにある。

 その結果、筆者は多くの大学から「この掟の特別講義」を数多く依頼される一方、就職コンサルタント会社などからも多くの講演を頼まれた事は先月号で述べた。

●Live Fish & Dead Fish とは?
 Live Fishとは、言葉の通り、「生きている魚」である。Dead Fishとは、「死んだ魚」である。しかし真の意味は「魚」ではない。外資系ヘッドハンター (下記参照) はそれを「隠語」として使う。

 Live Fishとは、企業や役所で正規社員や正規職員として現役で働いている人を云う。Dead Fishとは、大学卒業時に会社や役所の正規社員や正規職員にならず、非正規社員、アルバイト、フリーターになった人物又は会社や役所を辞め、無職の状態になった人物を云う。

●Dead Fishの悲劇
 先ず学生の「Dead Fishの悲劇」のエピソードから紹介する。

 その人物は、東京大学・経済学部を卒業した人物である。学生時代から進学塾のアルバイトをしていたため「仕事なんていつでも何とかなる」と思い、東大卒のプライドと自信から大学生活は「遊び」が中心。就活では自分の実力を過信し、あまり熱心に活動せず、超有名会社ばかり狙い、内定が無いままに卒業した。

 卒業後、彼は「就職などいよいよとなれば何とかなる」と考え、希望する企業の人事担当者に面会した。しかしいずれの企業の人事担当者も「東大出なのに、どこの企業も採用しなかった。要注意人物だ!」と内心疑いの目で面接した様だ。その結果、彼が希望する企業は、どこも彼を採用しなかった。望む就職企業にはどこにも行けず、彼にとっては三流以下の企業で働き始めた。そのため仕事に力が入らず、プライドだけが優先。うまくいくはずがなく、職を転々とする始末。厳しい生活を続けている。

 筆者は、就職活動をする学生への「特別講義」に於いて、「Dead Fishの悲劇」を話し、如何なる理由があろうとも、是が非でも、希望の如何を問わず、正規社員、正規職員として就職する事を薦めた。就職率が向上するのは当然である。そして入社して気に食わなければ、この掟に従って次の就職先を探すことも薦めた。

 次の悲劇のエピソードは、超有名一流商社の人も羨むバリバリの営業部長に起こったことである。彼は、在職中、あちこちの取引先の社長や役員から「貴方の様な方なら、いつでも我が社に来て働いて欲しい」と言われていた。彼は現在のポジションに満足せず、新たな人生進路を夢見ていた。そして遂に決断して会社を辞めた。

 彼は、新天地を切り開くべく、以前、何度も声を掛けてくれた幾つかの取引先を訪問し、夢を語り、採用の申し出がある事を期待した。しかし彼をあれほど勧誘した幾つかの企業の社長や役員は、異口同音に「えっ? お辞めになったのですか? 何故? 何かあったのですか?」と疑いの発言を発し、態度を一変させた。


 彼は、現役時代の部長としての地位が勧誘のお世辞を生み出した事を今更ながら思い知らされ、ショックを受けた。そして自らの実力を彼らが全く評価していなかった事にも気が付いた。彼を強く勧誘したどの会社からも採用されず、彼にとっては、レベルを一段も、二段も下げた小さな会社に何とか就職した。彼は、超一流会社時代の事が忘れられず、悲嘆と後悔の不本意なサラリーマンの道を歩んでいる。

●ヘッドハンター
 ヘッドハンターとは、本来、アフリカの「首狩り族」のことである。しかし現代社会での意味は、A 企業の社長や重役を秘密裏に説得し、彼や彼女を求める B 企業の社長や重役に就任させる仲介の仕事をする人物のことを云う。言い換えれば、会社や役所の人事部ではなく、「社会の人事部」の仕事をしている人物と云える。まさしく首を切って、他の企業の首とすげ替えることである。世の中に就職を斡旋する企業が沢山あるが、ヘッドハンティングは、それらと一線を画し、あくまで経営のトップやトップ層の人材を斡旋する仕事をする。

(左):首狩族 出典:Headhunter readtiger.com (右):現在の首狩族 出典:images for headhunter search com

 もしヘッドハンティングに成功すると、当該ヘッドハンターが帰属する所謂「ヘッドハント会社 (エグゼクティブ・リサーチ会社) 」は、ハントの要請をした企業から成果報酬を得る。その額は、ヘッドハントした企業が採用した人物に支払う年収額に相当 (100%) する額である。

 このヘッドハンター会社は、約40年前から米国や欧州から次々と日本に上陸した。これらのヘッドハンター会社は、多くの優秀な人材をヘッドハントし、多くの要請企業にはめ込んだ。ビジネスとは言え、彼らの果たした功績は大きい。実は筆者も彼らにハントされ、新日本製鉄(株) から (株)セガに転職したのである。

 しかし最近、数多くのヘッドハント会社が日本でひしめき、過当競争となり、成果報酬として年収の100%を獲得しているヘッドハント会社は殆ど無いと聞く。

●Live Fish & Dead Fishの掟とは何か
 さて「掟」とは何か? 以下の通りである。
如何なる時も、Live Fishの状態で新しい会社や役所を探し、応募した会社や役所が採用の最終決定した後、初めて現在帰属する会社や役所に退職の申し出をすること。最終決定を得るまでは親、妻、子供、兄弟、友人などに安易にその動きを開示してはならないこと。漏れると全てが破綻する。
帰属していた会社や役所に退職の申し出をして了解が得られなくても、その会社を強引に退職すること。でないと新しい道は拓かれない。
如何なる時も、Dead Fishの状態で新しい会社や役所などの職場を探すことを絶対にしてはならないこと。でないとDead Fishの悲劇を招くからだ。なおヘッドハンターは、余程の理由がない限り、Dead Fishの人物をハントすることはない。

出典:10の掟 Commandments-inlandchurchspokane.com 出典 : 10の掟
  Commandments-inlandchurchspokane.com

この掟を実行すると、帰属する会社や役所のトップ、上司、同僚、部下を「裏切る」ことになる。しかし如何に非難され、批判され様とも覚悟して掟を断行すること。一度切りの人生の絶好のチャンスを生かさないと一生後悔することになると「心を鬼」にして「裏切る」こと。そしてその事による「リアクション (反動) 」に耐えること。
しかし新しい会社や役所などの職場に変わった後、裏切った相手であるが、自分を育て、支援してくれた前の会社や役所のトップ、上司などに必ず「恩返し」をすること。これを怠ると、生涯、裏切ったリアクションが付きまとう。何らかの形で前の会社や役所のために「恩返し」をすることである。その事によって新しい会社や役所で信用され、自らのステータスが高まり、安定する。裏切りと恩返しは一対になった「掟」である。

●潔く辞めることで招く悲劇
 現在の仕事より遥かに良い条件の仕事を探し、「やり甲斐」と「生き甲斐」を求めることは、誰しも許されたことである。

 しかし昔の日本では、転職者は、批判や非難を受けるだけでなく、転職先では給与や処遇が悪くなり、極めて不利な状態になった。だから現・帰属組織に「忠誠を誓う」結果になった。以前は世界各国から「日本人の社員や職員は組織へのロイヤリティーが高い」と絶賛されていた。しかし本当にそうだったのか?
 
 余談であるが、筆者は、約40年前、新日本製鐵(株) のニューヨーク駐在員時代、ペンシルバニア大学ビジネス・スクール、別名「ウォートン・スクール」で「何故、日本人は忠誠心が高いのか?」と題する講演を行った。その理由は、日本の転職の流動性がないこと、もし流動性が高まれば、自身の仕事への忠誠心は変わらないが、組織への忠誠心は劇的に減衰する」と予言した。この講演が話題を呼び、いろいろな大学や企業から講演が殺到した。

 現在は、就職と就業の状況は実態として依然厳しいが、会社や役所を変わっても、給与面や処遇が良くなることが多く、その点では恵まれている。その反面、組織への忠誠心は減衰した。筆者の予言は正しかった。

●Dead Fishの人物への評価
 「裏切り」を避け、新しい就職先が決まらなくても、会社や役所を辞めることを「潔し」と考える日本人は極めて多い。しかし無職になり、「Dead Fish」になってから新しい会社や役所を探すと相手は、以下の様に必ず考える。この事を自覚する必要があろう。
本人がいくら相手に「潔し」の事実を訴えても、相手は心の底で「この人物は首になった! 問題を起こした人物! 能力不足の人物!」などと疑う。
この疑いを持たれて本人が面接すれば、本人の面接のちょっとした対応の拙さや発言内容を悪く、悪く解釈されることになる。
「死んだ魚は臭くて食べたくない」と最初から面談を断られる。やっと会ってくれても、頭から信用していないので、本人はどう対処すればよいか迷う。その迷いが益々事態を悪くする。
本人が如何に誠実で立派で、仕事に真の実力を発揮できる人物であっても、「Dead Fish」という事実だけで極めて不利になり、採用され難い立場になることを殆どの人が知らない。
Dead Fishの事実は、「年齢」以上に厳しい不採用条件であると云う厳しい現実を肝に銘じること。


●Live Fishの人物への評価
 大学生である時期又は会社や役所に勤務している時期に、本人が少々問題を抱えていようとも、現役のままで、「Live Fish」のままで、転職先を探すことである。

 相手は、Live Fishである事実によって「生きている魚は新鮮だ。食べたい」とは思う。本人を採用したい又は引き抜きたいと相手が思う場合、相手の本人への態度は積極的で、好意的となる。

 その結果、本人の現職での条件より遥かに良い条件で採用交渉が始まる。本人も現職に就いているので、希望する会社にたとえ「入りたい」と申し出てても、交渉は強気で臨めるので、採用される確率は極めて高くなる。まさしく「掟」が好作用する。

つづく

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